十
激しい自己嫌悪。
その日の夜、俺は一人ベッドの中でもがいていた。
思い返してみると自分の行動はこの夜の自問自答を含め、自己完結で複雑怪奇な気色の悪い女のそれのような気がしてたまらなかった。
……そうだ。まず、前提が誤っているではないか。種が違うのだ。俺は人間、そして彼女は天使。人が牛や豚その他を殺めるように、彼ら彼女らは……。そうだ、そうだろ? 何を――俺は何を思って……。
思考は一向に前へ進まない。それどころか、考えれば考えるほどその矢印は負の方向へと向かっていく。廻り回って深みにはまっていく。そんなことは日常茶飯事だ。夜の時間はいつだってそう。
カフェインの何倍もの効能を持つそれは眠れない体に鞭を打つ。その日は一段と濃度が高く、また、それの過剰摂取が体には毒となって己に害をもたらすのだった。
――いや、もしかしたら、欠かせない栄養になっていたのかもしれない。
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朝、カーテンから漏れる日の光が瞼を刺激する。
意識がはっきりしないままベッドを下りてドアを開け、次は居間へと続く階段を下りた。
ふと目に入った時計を確認すると、すでに正午が近い。どうやらアラームもセットせず床に就いたようだ。
今日は平日であり、もちろん学校もある。普段、滅多に自主休講改め自主休校などしない俺であるが、この日に限っては途中から焦って学校に行く気にもならず、丸一日休むことにした。魔が差した、というやつだろう。
いつもの朝はコーヒーメーカーを使ってコーヒーを作る。時間のない朝にいちいち豆を挽いたり、ドリップしたりするのが面倒だからだ。
しかし、今日は特に急ぐ必要がない。
ミルを取り出して豆を挽く。この時の香りがコーヒー好きにとってはたまらないのだ。
いつもより細かく挽いた豆をフィルターにのせ、軽くたたいて均一にする。そして、お湯が沸いたら別のポットにそれを移し、温度を少しだけ下げて、丁度良い温度になったら途切れることがないように注意してドリッパーに注ぐ。
カップに落ちる雫は黒い湖に波紋を広げた。今日はやけに香りが鋭い。タイミングよくトーストが焼けたので、それとコーヒーを机に運びテレビをつけた。
画面の中ではニュースキャスターが記事を読み上げている。なんてことのない普通の光景。
ただ、時間が時間だった。もう昼である。今の時間、このチャンネルでニュース番組なんて放送されていないはずだ。
不思議に思ってじっと画面を見つめる。
「――多くの死傷者が出た上、様々な歴史的建造物も崩壊しました。また、今回衝突した隕石の――」
隕石?
俺はさらに画面に食いついた。
日本時間で午前五時。現地時間で午後十時。巨大な隕石がフランスに落下した。
この隕石は事前に確認されていたが、地球に衝突する危険性は極めて低く放置されていたらしい。しかし、それは急に接近し速度を上げ、適確な処理をすることもできず衝突、悲劇を招く結果となった、みたいだ。
隕石、隕石ねぇ。天使と悪魔の次はアルマゲドンですか。ダ・ヴィンチ・コードではなく。それとも何? 今度は宇宙人の登場? 宇宙戦争勃発ですか?
多くの場合、人は他人のこととなるとひどく楽観的である。表面上、未曽有の危機に瀕した人物や不条理なまでの死を遂げた人物に、慈悲の心や哀憐の情を起こすことはあるだろう。
しかし、それはそれだけにとどまる。心の底では基本どうでもいい。なぜなら、今現在それは自分の人生に影響を与えるものではないからである。
人は自分に関係のあることにしか執着しない。それは例外なく俺にも言えることだった。
隕石衝突か、かなりでかいな。大気圏でも全然気化しなかったのかね? これほどの大きさならクレーターも相当なものだろう。
マーガリンを塗ったことで中心が沈んだトーストを一瞥する。そして、それを口に運びはせず、代わりにコーヒーを流し込んだ。
朝食を終えて、今日一日何をしようか考える。
せっかくの休みだ。ふらふらっと駅にでも行って周辺をぶらぶらしよう。
たまにはそんな日があってもいいじゃない。




