表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/65

自爆

 部屋の中で荒れ狂う暴風が止んだ。

 オークスは「なにいってんだこいつ?」といった表情。

 エリスは左目だけで俺を凝視している。

 キムはバイザーの奥から同じような視線をくれているに違いない。

 

 こうなるのはわかってはいたけど、痛いほどの期待感でこっちみんな。

 俺は本来、どこか河原のじめっとした場所にある大きめの石の下のような、人目に触れない場所に生息するのがふさわしいクズ虫なんです。

 そんな目で見られたらストレスのあまり禿げ上がりそうです。

 やめろ! だれだア○シンド言うやつは!!

 って、誰もいないか。

 幻聴だよな。

 

 「本当ですか……あの子が、弟を取り戻せるというのは。嘘だったら……」

 

 「嘘じゃない。俺も、このオークスも、異世界のいろいろな時代からこの世界にきた。ということは、ダンジョンの建設者には時間を越える能力があったんだ。ならば、時間を操るシードが未攻略のダンジョンにあってもおかしくない」

 

 「時間を?」

 エリスの顔に半信半疑の表情が浮かんだ。

 

 「そう、過去に戻って、弟を救えばいい。弟さんが亡くなった場所と時間を忘れないでおいて」


 「忘れることなんてできません。あの子はわたしの膝の上で死んだんですもの。ただ、あの子を抱えているうちに気を失ってしまって。気がついたらいなくなってました。わたし、棄民が持っていってしまったんだと――」 

 

 死体を持っていって、棄民はそれをどうするんだよ、とは聞けなかった。 

 なんとなく察しはついたからだ。


 「こうは考えられないか? 弟さんは、まだ亡くなってなかったか死にたてか、どっちかだったんだ、きっと。そして、未来から密かに救い上げた。だから知らないうちに消えた」

 無理やり後付けの理由だけど、今だけでいい、尤もらしく響いてくれ俺の言葉!


 「確かに死んでいました。死んだ人を生き返らせるなど――」


 「できるよ。エリスだってウルザブルンで生き返ったじゃん」


 「え?」

 エリスは目を丸くした。

 「わたし、死んでたんですか?」


 「あー……」

 そういえば 実質死んでいたことは伏せてたんだっけか。


 「ごめんね言わなくて。言いづらくてさ」


 エリスは首をふった。

 「いいえ、いいんです」

 そう言って、彼女は糸の切れた操り人形のようにその場に座り込んだ。

 

 

 中指の左右に1本ずつチョコディップバーを挟み、司教はザ・2本レロレロの秘技をシグリクにみせた。

 

 「レロチュパリロレロなのだなレロ?」


 シグリクは落ち着き払って回答した。

 「はっ、シードに相違ないかと」


 「ふむ」

 司教は満足げにうなづき、バーを口からチュポンと引き抜いた。

 

 「なるほどのうレロッ、よくやった。特別に先日開発した3本差しを披露してやろう」


 すかさず使用人が新たな菓子を差し出そうとするのを、シグリクは押し留めた。


 「これ以上はお控え下さい! 私ごときにはもったいのうございます!!」


 伸ばしかけた手をひっこめる司教。

 「そうか、実に殊勝、まことに無欲レロ。どれ、シードを検めようかレロッ」


 米粉がつもった小箱を使用人が差し出した。

 羽先で米粉を払い、司教は細長い棒を手にとった。

 

 「レロレロ、これはまさしくシードであろう」 

 引き金のような部分を慎重に指先でなでた。

 金属でできた細長い部分と、樹脂のような材質の握り部分をためすがめすながめる。

 「我がチョコディップバーにも似た形をしておる」


 「お、仰るとおりです……」とシグリク。

 

 「引き金を引いてみたかレロ?」


 「いいえ」


 司教はいたずらっぽくシグリクに微笑みかけた。

 「試してみるか」


 「ここでですか!? それは……」


 「面白いではないかレロ」


 司教は腕を伸ばし、棒の先端を使用人に向けた。

 ゆったりしたトーガ風の衣装を身につけた使用人は、身を強張らせて直立する。

 逃げたいのだろうが、持ち場を離れることは死を意味する。

 

 シグリクも逃げたかった。

 シードがどんな恐るべき効果をみせるかは見た目じゃわからない。

 シグリクはごくりとつばを飲み込んだ。

 窓からきまぐれに吹き込む雪片のように、シグリクの背後から米粉が舞いこむ。

 米粉が鼻に吸い込まれて、むせそうになった。

 

 口にチョコディップバー2本をくわえ、司教は目を細めて引き金をひいた。

 

 カチリ。

 音だけで使用人は飛び上がった。

 が、使用人に変化はない。

 衣は燃え上がらなかったし、雷や冷気や目に見えない弾丸のようなものが放たれた気配もない。

  

 司教は首をかしげ、もう一度ひいた。

 

 カチリ。

 金属棒の肛門のように窄まった先端から、小さな炎が生まれた。

 その瞬間――司教が炎に包まれた。

 オレンジ色をした炎の球体が膨れあがった。

 炎に先立ち空気の壁のようなものが床の米粉を巻き上げてシグリクに迫る。

 それがシグリクに達したとき、彼は巨大なハンマーで殴られたような衝撃と共に意識を失った。

 

 シグリクを飲み込んだ火球は米粉の粉塵から粉塵へと瞬時に燃え広がり、司教座聖堂の窓を粉砕。

 屋根を吹き飛ばし、天高く火柱がそそり立った。

 聖堂の横に隣接する尖塔が揺らぎ、ゆっくりと横倒しに姿勢を変えた。

 落下するレンガや漆喰が教会の拷問エリアに降り注ぎ、赤黒い葉を茂らす“真実の木”を根元から押し倒した。


 フェアボーテン教会を半壊させたのは粉塵爆発だった。

 聖堂の残骸の底には、爆発の引き金となったダ○ソーの着火ライターが人知れず埋もれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ