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愚民化政策

 ありがたいことに、リカバリーユニットにかかって数十秒で、闇に光が戻ってきた。

 目が見えないということは、本当に不安をかきたてる。

 まだぼんやりと人影が見分けられる程度だが、それでも半端ない安心感だ。


 俺のすぐそばで、大きな黒っぽい人影が、覆いかぶさるように小さな人影の横にうずくまっているのが見てとれた。


 どういう状況だこれ。


 目をこらすと、片膝立ちになったキムがエリスと目線を合わせてようとしているのだとわかった。

 なにしろ全高2メートルもあるスプライトのこと、目線を合わせるにはそうするしかない。


 残念なことに、エリスはサイズが合っていない服を羽織っていた。

 どうやら俺のリュックから拝借したようだ。


 それはそうと。

 キムによると、エリス212B423のような数字と記号の羅列は、全住民が役所から与えられる食料の供給番号なのだそうだ。

 同時に氏名の代わりとして、住民の管理にも用いられているらしい。

 ことに養民は氏名を持つことが実質的に禁じられているそうだ。


 のちに、キムは肩をすくめ、脱力したような様子で説明した。

 「わたしたちの肉体は神により養われ、魂は神に帰属する。少なくとも教会が主張するところではね。だから、俗世の不純物を減らすために、余計な技術や知識、名前さえも初めから与えないのが良い行いということなのよ」


 呆れた。

 呆れ果てたよ。

 どんだけ愚民化政策イチオシなんだよこの世界。

 困ったもんだね。


 「教会が掲げる第一の大義は、できる限り多くの命をギアー神のもとにお返しすることだもの。仕方ないわ。連中はその大義をどこまでも拡大解釈して、“死出の剪定”と称して人々を苦しめているのよ」


 あーあ。

 権力は腐敗するっていうけど、聞く限りにおいて、この世界はまさに腐敗街道もドンづまりまで来てますね。

 この世界も元の世界も、権力が腐敗するのは同じようだが――そのレベルは天と地ほど違うようだ。


 「人間がおもむくところ罪と汚濁あり。人々に道を踏み外させるくらいなら、前もって剪定して無垢のうちに天に返す――冗談じゃない」

 激しいキムの言葉。

 説明するうちに、変なテンションに入ってしまったらしい。


 「よほど教会が嫌いなんだな」と、俺。


 一瞬押し黙ってからキムは答えた。

 「当たり前じゃない」


 言ってから、不安げな表情がかすかにキムの顔を曇らせた。

 エリスをチラと見やる。


 それで俺にも理解できた。

 ――ああそうか、エリスが教会に密告しないかと心配してるんだな。

 だが心配することもなかったようだ。


 エリスは宙に視線を固定して、詩を朗読するように言った。


 「食いて足るは富めん

  足るを知らずは貧せん……」


 キムはうなった。

 「ああ、それね。聖職者の定型句」


 エリスがキムを見上げた。

 その目は、驚くほど知的な光を帯びていた。

 「なんて優しいかた。わたしのような養民にも人としての尊厳を認めてくださるのですね。わたし、感激しました。ユニティ様、あなたのことをキム様と及びしてよろしいですか?」


 キムはうろたえつつも嬉しそうにしている。

 相変わらず誉められるのは苦手らしい。


 「もちろんよ。キムって呼んでちょうだい。様をつけるの禁止ね」


 キムは昔の記憶に想いを巡らす様子で、ふどこかふわふわした感じで言った。

 「そうよね、あなたたちが一番の被害者だものね。ちゃんとわかっている養民もいるのよ。ルウィン、そうね棄てたもんじゃないわね、本当に」


 「キムさm――キム、さん。わたしのような者を救ってくださる貴族がいるなんて……」

 エリスは目をキラキラさせ、すがりつくような恰好で訴えた。

 「どうか、わたしをあなた様のおそばで働かせてください」


 お、エリスちゃん。

 いきなり就活の意思をみせはじめたぞ。

 彼女は両手を祈るように組んで見上げている。


 ……やべー、かわいいんですけど。


 こりゃ破壊力抜群の上目遣いだ。

 少なくとも男なら、エリスの頼み、断れないな。

 俺なら無理だ。


 やはりキムも同様だったようだ。

 「これも何かの縁ね。いいわ、お父様にお願いしてみる。お給料は本当に少ないと思うけど」


 「金額など、どうでもよいのです。わたしのこの命、キムに捧げます」

 真摯な表情でのたまうエリス。


 あれ?

 感動的なシーンのところ申し訳ないけど、助けた手柄の半分は俺じゃね?

 俺にもなにかを捧げてくれよ。

 命までとは言わないからさ。

 エロくないこととは言わないからさ。


 ちょっとだけタッチしていい?

 そのたわわな実を揉ませてくれないか。

 5回、いや3回でいいから!

 ええい、もう1回でもよい。


 俺の邪な思念を早くも察知したキムは、おもむろにエリスの肩に手を回してかばうような仕草をみせた。

 「いかがわしい目で見るんじゃない、ヴスジーマ」


 キムはまるで正義の騎士だ。

 それ、俺の役回りじゃね?

 むしろ俺が悪者みたいになってるじゃん。いつの間にか。


 エリスは悲しむような、哀れむような眼差しで俺を見ている。


 なにこれ。

 アニメとかでよくある、ラッキースケベのあと嫌われないの法則どこー? 

 あー、これアニメじゃなくて現実だったか。


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