ドギースタイルではじめまして
頭痛がした。
おまけに口の中はじゃりじゃりとイガっぽい感触がする。
痛みの中心に手を伸ばそうとして、腕が動かないことに気づいた。
――あれ、俺どうしたんだっけ。そうだ、爆発のあと、石が飛んできて……。
ようやく、自分の置かれている状況を察知した。
崩れた石壁の山の頂上に、仰向けの状態(しかもリュックのせいで極度のエビ反り具合)で横たわっていたのだった。
どうやら、気を失って間もなく意識を回復したらしい。
近くではまだ熱風の余韻が漂っている。
ひび割れた天井から小石が降ってきてはじめて、キノコフェイクが頭上から吹き飛んでいることに気づいた。
周囲を確認すると、がれきの斜面に傘が転がっていて――真ん中にどでかい石が突き刺さっていた。
ぶ厚い傘がクッションになってくれなかったら……俺の頭は踏み潰した卵の殻みたいになっていたに違いない。
ありがとうな、傘よ。
ガレキの山で大の字になったまま、キノコの傘をつかんで引き寄せた。
石くれがガレキの斜面の転げ落ちていった。
「はは、ははは」
間一髪で命を失わずに済んだとき、人は笑うしかないのだな。
どんなにせせこましく、少しでも他人よりも有利に立ち回ろうと努力したところで――人の生命など、嵐に弄ばれる木の葉と同じ。
ほら、テレビでよくある九死に一生スペシャルでもあるじゃんか。死が理由もなく避けてくれたとき、命はもらいものだと気づく、という展開。
なるほど、こういう敬虔な気持ちになるわけだ。
体の節々が痛む。
足首あたりは血で濡れてぬめぬめしていた。
――あー動きたくねえ。
とはいえ、いつまでもこんなところで大の字になって幸運を試しても仕方がない。
「はーあーっっっと」
かけ声で勢いをつけて上半身を起こそうともがいた。
痛む首を片手でおさえ、通路を確認した。
遠くで燃える炎は弱まり、通路はもとの暗さと静寂に戻りつつあった。
ガリリと砂を踏む音が聞こえた気がした。
正面にたちこめる濃密な土煙を見つめ――息を呑んだ。
そこにぼんやりと人型の影が浮かんだからだ。
次第に影の輪郭がシャープさを増してゆく。
そこに現れたのは、身の丈2メートルに達する金属の巨人だった。
……え?
中世ヨーロッパ風世界観(仮)の異世界で?
その発想はなかったわー。
なんかもうこんなの出現しちゃうとさ、中世ファンタジー世界というより――むしろ機械に支配されし荒廃した未来社会って感じなのだが。
あのさー神様……社会貢献に目覚めて瞳をキラキラさせた俺に、いったいどういうキャリアパスを踏ませようとしてるわけ?
あまり過酷な運命は勘弁な。
というか、あいつ俺に気づかないのか?
ああそうか、と自己解決した。
体につもった埃が保護色になっているのかも。
わざわざ「やあ」と挨拶するのもなんだか間抜けな気がしたから、向こうが気づくまで観察することにする。
ソレは日本語で言うと強化服、英語だとパワードスーツかエクソスケルトンと呼べそうなシロモノだった。
マットなツヤ消し塗装の装甲は、傷がついて汚れていた。
それらの傷は汚れというよりも、むしろ勇者であることの証明と呼ぶべき歴戦の傷痕に見えた。
ハリウッド映画の小道具班一個小隊と莫大な予算があってもなお、再現できそうにないほどのリアル感だ。
腰と胸の間はくびれており、どことなく某エヴァ○ゲリオンを連想する造形で……やだ、かっこいいじゃない。
こいつのフィギュアのリリースまだ?
おっと、混乱してしまった。
――あー、ジム量産してえ。
ああっ、俺の馬鹿。こんなときにガンプラ禁断症状が再発するとは。
あ、こっち見た。
わずかな動きを察知したのか、ソレが俺の方を見て――静止した。
ソレは軽く頭を振ってから、もう一度こちらを見た。
そして、リアルに15センチはかかとを宙に浮かせてから、声もなくこちらを指さした。
その指先はなぜか震えている。
おいおい、どんだけ驚愕するんですか? と失笑しかけて俺は凍りついた。
俺の格好……ガレキのお立ち台の上でリュックの厚みでエビ反りブリッジ状態じゃね?
キノコフェイクに慣れすぎて――これが変態全開装備だってこと、忘れてました。テヘペロッ。
こっちが不思議なほど余裕だというのに、一方は人間くさい動きで慌てていた。
たぶん中に人間が入ってるっぽい。だとすると、やはりこいつロボットじゃなくて、ただの強化服か。
いや、装甲まであるから、強化装甲服と呼ぶべきか……。
などと考えていると、強化装甲服が太い腕で顔にあたる部分を覆い、イヤイヤするように体を左右に振った。
ジーッ。
不意に刃物のように細い赤色の光線が腕から放たれ、通路の奥で爆発が起きた。
爆圧でガレキから転げた俺は、ドギースタイル――つまり四つん這いの姿勢で強化装甲服の人物に尻を向ける格好になった。
もはや羞恥も極まる格好である。
でもまあ、いいか。こんな戦慣れしていそうな大男に見られたって別に構うもんか。
どうせ角刈りのシュヴァーツェ○ガ――英語発音だとシュワル○ェネッガーみたいのが中に詰まってるに違いない。
ほらどうだ、俺のケツを見ろ。
しばし硬直していた強化装甲服の人物は、足の裏で小石を粉砕しながらゆっくりと近づき、俺の傍らに立った。
強化装甲服のどこかにあるのだろうスピーカーから、サーッと雑音がもれた。
そして、中の人がおもむろに喋った。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
不二子?
とりあえず不二子だけは聞き取れた。
それ以外はからっきしわからない。
……いや、それより重大な問題があった。
中の人の声は、スピーカー越しでもはっきりとわかる――女の子の声だった。




