一寸先のスタートライン
「……う、うぅーーーん
ちぃっくしょぅ、ばめんてんか……んするたっび
にうめいてやがる……」
僕はベットの上で毛布を被り,眠っていた
ベットも布団も清潔な白色をしている
若干の痛みを感じつつも、
ゆっくりと頭を起こしてみると
右に白衣を着た白髪の少女がいるのが見えた
白衣の色は少しくすんで
白い髪の方がより透明度や鮮やかさを保っている
彼女は背もたれのない丸椅子に座っており
両手をももの上に丸めて乗せ、心配そうな目で僕をじっとみつめていた
「あ!! やっと起きたのね!
傷とかの応急処置はしておいたから安心してね」
少女は一気に笑顔になりほっと一息をつく
応急処置がどんなもんか気になり、胴体を起こすと……
僕は全身包帯でぐるぐる巻きにされていた
左右を見てみると、
僕と同じようにベットにて治療を受け,
毛布を被って寝ている負傷者が多くいる
どうやら今僕は日本でよく見られるタイプの病室にいるっぽい
「……ははっ、こんな包帯……
みっともねぇな」
今にも消えそうな声で弱々しく言う
「そんなそんな!!
みっともなくなんてないわよ!
あなた、この状態で生きていること自体奇跡なんだから」
まろやかな声で少女はそう言う
この子はおそらく僕を運んでくれた子の師匠,であろう
「あーそうなんですね…… 多分貴方様の治療のおかげですよ
本当に……本当にありがとうございました」
普通に泣きそうだった
やはり異世界召喚されて有頂天だった僕も
死というものは怖く、
そこから助け出された時の感謝は計り知れないのだ
「もう! ありがとうはみんなに言われすぎて飽きちゃったよ笑
まぁ、感謝は何回言われても気持ちがいいけどね?」
悪寒がした
居間にいた時あの奴隷商人が僕にかけた言葉と同じだ
怖い、怖い、怖い、
この子も僕をどこかへ誘拐するのか?
この子も僕を殺そうとしてくるのか?
あらゆるマイナスの想定が猛スピードで僕の脳裏を駆け巡る
「ッッッッッッツ
………大変恐れ多いのですが
あなた様にいくつか質問させていただいても?」
恐怖をなんとか押し殺し,震える声で言う
「もちろん!!
私に答えられるものならなんでもいいよ」
少女は僕のかき乱れた毛布を整えて僕の脚に毛布を掛け直す
「ありがとうございます
……えっとまず ここはどこですか?」
「んー? ここはこの港町、メーデーの中央病院よ
私が直談判して、貴方たち負傷者を受け入れてもらったのよ」
優しい声で少女はそう言う
「そうなんですか…… えっと次は、
なんで貴方様は奴隷商人から僕らを助けてくれたのですか?」
左隣の引き出し棚の上に置いてあった
コップ1杯の水を飲みながらそう問いかける
その棚の上には僕のジャージとジーンズも
洗ってもらって綺麗になった状態で畳まれている
「そりゃあ決まってるじゃない!
悪事があったからよ!!
人を物のようにして、
命を無下に奪っていく、
そんな外道な行為を貴方はただ黙って見過ごせって言うの?」
少女はこのことを聞くこと自体が邪推であると言わんばかりに
微かに怒りを込めて叫ぶ
……どうやらこの子は本当に僕らを助けてくれたのだろう
本当に僕を誘拐する気ならこの場面で怒りなどという、
相手を怖がらせるようなことはしないしな
「大変申し訳ございませんでした
このような無粋な質問をしてしまった
恥知らずの私をどうかお許しください……」
「いいわよいいわよ笑 それより傷の具合はどう?
動くと痛むから、ここ1週間は絶対安静ね」
少女の声色はまた優しさを帯び、僕に忠告をする
「はい! おとなしくしてま………イッッッッッッッッッッッツ!
ちぃ…… くっそがよぉぉぉぉぉ まった未来予知かよぅぅぅ」」」」
少女に心配はさせんと声は抑えたのだが、
頭にダイレクトに来るあの激痛は変わらなかった
痛みに身悶え、瞼を閉じてしまう
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頭の中に突如知らない光景が映し出された
静止画のようだった
白黒で、色褪せていて、若干の手ぶれも混ざっているが
するとその直後、
ノイズのある音声が聞こえ始めた
『ザザッザザッザザ、ザーーーーーーーーーーー
やめて!! はな,,,,,ザザて!! だま,,,,,ザアァアれ!おんなふ,,,,ぜいザザァが
おい!!,,,,,,,,,おまザザッらこのおな,,,,,,,,ザーーーつれ,,,,ザアてけ!!』
なんだ? こいつらは!?
この子を連れてこうとしているのか?
その静止画の場所は病院の中みたいだった
後ろには沢山のベットが置かれている
そして5人余りの大男が少女の口をハンカチで押さえて
少女を誘拐しようとしている
少女の容姿は白衣に白の長髪、そこそこある身長……
間違えない、さっき話していたあの少女だ
また、その少女を連れて行こうとしているのは
まさしくあの奴隷商人らだ
静止画で動きもないが最低限それぐらいのことは分かった
すると僕の意思とは無関係に
視界が徐々にフェードアウトしていく
直後、目の前にはあの静止画なんてなく暗闇のみが広がっていた
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「うっつはぁ……はぁはあはぁはぁはあはぁはははあはぁはあはぁ……
くぅう…… うっぷぅぅ…ウゲェェェッ」
僕は咄嗟に下に俯いて嘔吐をする
ゲボは毛布と脚に巻かれている包帯にもろあたりしてしまい、
その飛沫が右にいる少女の白衣にもかかってしまう
「ちょっと!!! い、いきなりどうしたの!?
隣の部屋から、替えの包帯と毛布とってくるわね!!」
少女は目に見えるほどに焦っていた
彼女はそのまま慌てて立ち上がり、病室の扉に向かって走っていく
「ちょっと!!
かはっ…待ってくれ
あんた……あの奴隷商人はどうしたんだ!」
恐怖に慄く心をどうにかして縛りつけて、言葉を捻り出す
敬語云々を気にする余裕はとうにない
「え? あぁ、あの外道は…………
っつごめんなさい 逃してしまったの」
足を止めてこちらに身を翻した少女は
唇を噛みながら悔しさを露わにする
「救助に来た時、倉庫の周りには見張りの末端兵しかいなくてね…
中枢の奴隷商人の足取りは未だ掴めてないわ……
で、でも安心して!!
あなたの治療が終わったらすぐに行方を追うから!
すぐにやっつけるから大丈夫よ!」
額に少しの汗を滲ませ,
必死に説明し僕を安心させようとしてくれる
違う 違う 違う それじゃ駄目だ!
少なくとも1週間以内にはあいつらはここに来ると思う
背景に、まだ退院していない大勢の患者がいたのが根拠だ
それまでに僕は何ができるんだ?
………僕は、人はいつか死ぬものであると理解している
永遠なんてものはなくて
寿命か、刺殺か、焼死か、病死か、あるいはそれ以外かで
人は必ず死ぬものだと分かっている
でも……
今こうして見知って会話を交わした
少女が殺されて、死んでいくのをただ指を咥えて見ている、
そんな薄情な真似は僕には到底出来ない
出来やしないんだ
どうするどうするどうすればいいんだ????
僕が使える唯一の武器はさっきの未来予知だ
思い出せ思い出せ
僕はあの時に……
何を聞いた?
何を感じた?
何を思った?
…………何を『見た』?
そうだ!!! 僕は見たんだ!
僕は、今回を含めずにこれまでに2回未来予知をしてきた
ただその2回はいずれも感じれたのは
『音』だけで、見ることはできなかった
でも今回は違う
視覚があった
白黒で、色褪せていて、手ぶれも大きかったが、
確かに僕はさっき『見た』んだ
それを使え
それを最大限利用しろ
僕はさっき何を見たんだ?
思い出せ、思い出せ、思い出せ
今回見たのはは奴隷商人があの少女を連れ去っていく場面だ
場所は……
背景に沢山のベットが置かれていることから
おそらくここの病院だろう
「今は奴隷商人のことは置いといて!
それよりもあなたの嘔吐物の処置をしないと!!」
少女はそう優しく怒鳴る
そして俯き考え込んでいる僕を尻目に
この病室から出て、包帯の替えを取りに行こうとする
「え…… ま、待ってくr…………
グアァ!! カアアァァァァァ…………」
少女を引き留めようとしたその瞬間、
またもや僕の脳に激痛が迸る
言葉にならない痛みに悶え文字通り頭を抱えていると
瞼がゆっくりと閉じていった
視界が闇によって閉ざされる
すると再び、脳裏に未来予知の映像が流れ込んできた




