醜い逃亡劇
『はぁ……
てめぇ、やっぱり筋金入りのキチガイなんだな
もうちょっと話が通じるものと思っていたが……』
テリウムはそうやって悪態をつきながら
右拳を強く握り締める
そしたら彼の身体の周りに渦状の炎が
堆く現れる
屋敷のエントランスにて、
デュプテルスとテリウムは数メートルの
間隔を開けて向かい合う
カルシュ侯爵の書斎目指して走り出したルナーシュは
もう既にずっと遠くに見えている
『なぁ、お前
さっきのパークが俺の全力だなんて思うなよ……
今度はぜってぇ手加減はしない』
『嗚呼……
なんか、もう面倒くさいので
あなたのお相手は私の部下にしてもらってもいいですか?』
デュプテルスがこう呟いた瞬間、
屋敷の玄関から10数人の男が一斉に乗り込んできた
先ほどまで石畳の道の上にいたデュプテルスの取り巻きたちだ
裾の長すぎる袴を履いており、黒の衣装を身に纏っている
顔並びは不気味なくらいみんな全く同じで、
揃って狂人の名を冠するに相応しい顔立ちだ
雑多どもはデュプテルスの側にまで集合して、
テリウムとデュプテルス&部下が向かい合うという構図が完成する
『それでは 部下たちも来たところで……
これでお暇しますね?
私はあの少女の後を追ってもいいですか?』
デュプテルスはこう言い残し、大きく身を翻して
書斎を目指し走っていったルナーシュの後を追おうとする
『はぁぁぁぁ!!??
待ちやがr うおっ!……』
テリウムは彼に必死の待ったを掛ける
すると突然、
部下の男の1人が瞬きの間にテリウムの目前にまで詰め寄り
手に携えた包丁を彼に振りかざす
ただ、襲ってきた凶刃をテリウムは咄嗟の2連続バク宙で華麗に回避し、
雑多どもと距離を取る
その激しい動きのせいでテリウムが纏っていた炎はまたもや霧散し
彼は悔しさを顔に滲ませる
『あゝ…… くっそ……
なんだよ、なんなんだよ!!!
てめぇらは!!
いいさ……かかってこいよ
全員皆殺しだ!!』
『あっはは
それでは頑張ってくださいよ?
さっきも言いましたが私はあの少女を追いかけます?』
デュプテルスは遥か先まで続く長い廊下を
軽快に歩きながらルナーシュの後を追い始めた
『首を洗って待ってろよ!!
すぐに雑多どもをぶっ倒して、テメェを殺しに行くからな!!!』
ルナーシュを追うため背を向け去っていくデュプテルスに、
彼は捨て台詞を吐く
デュプテルスの後を追おうにも、目の前には10数人もの
黒き敵が立ちはだかっている
『……さぁ いつでもこいよ雑多ども!!!
俺はてめぇらをさっさと片付けて、
あいつの後を追わねぇといけねぇんだよ!』
テリウムの宣戦布告をしかと受け止めた部下たちは
懐にしまっていた包丁を一挙に取り出して構える
その包丁は料理の時に使う牛刀の形状そっくりで
どうやら前回の未来予知で確認できた、
全員に突き刺さっていた包丁のようなものとはあれのことだ
……さて、ここからはこのデュプテルスの部下の男たちを
仮名で”雑多”と呼んでおこう
***
『さぁ 今回は絶対に出し惜しみしねぇ……
スコーチドパーク!!!』
魔法名を声高らかに叫びながら
身に纏っている炎の渦を集めて、
掌の上でそれを1つの塊にまとめ上げる
そしてそれを雑多どもに凄まじい速度で放った
猪突猛進する火の玉は、
テリウム目掛けて一気に襲いかかってきた
雑多どもを炎に包み、炎上させた
『ちゃっちゃかと、灰になりやがれ!!』
床に伏して、熱さに悶え苦しむ雑多
それを見下ろしながらテリウムは勢いよく拳を突き上げる
ただ雑多どもの中で1人、燃える服を脱ぎ捨てて鎮火に成功したものがいた
その雑多は上裸のまま床に落ちた包丁を持ち直し、
テリウムに襲いかかって来る
『はっ!!!
1人くらい、ちったは頭を使ってくるじゃねぇ……か!!』
テリウムはタイミングを合わせて、
雑多が振りかざしてくる包丁を手刀ではたき落とす
そして空いた雑多の腕を掴み、全身の力を込めて背負い投げをした
背中への大きな衝撃に対し声を出さずに痛み悶える雑多、
テリウムはそいつの胸元に跨り、馬乗りになる
したらばその雑多の首元に人差し指を突き立て、
『大人しく燃えといてくれ
……パーク』
そう彼は呟いた
すると人差し指から火の球体が出現し、
仰向けになっている雑多の体内に入っていく
その直後、そいつの体が炎に包まれた
1つ気になる点が……
それは、テリウムはその雑多と体を接しているのに
一切炎が燃え移っていないことだ
まるで炎が意思を持って燃やす対象を指定しているように
『アアアアアァァァァァァァァァァァ
ァァァァ!!!!…………』
業火に焼かれている雑多の悲痛な断末魔が
蒸し暑い空気中に蔓延する
やがて、馬乗りになっているもの含めた
全ての雑多が灰になって完全に燃え尽きた
結果、屋敷の絨毯や板材にはノーダメージだった
床にはかつて雑多どもが持っていた
牛刀が各所に散乱するのみだ
『ふぅ……
これでてめぇらがお望みの「あの地」、に行けたっぽいぞ
……良かったな』
腕についた埃を手でパッパと払いながら
テリウムは無人となった空間にそう呟く
***
『ザザッーーーーーザーザザーー
ザガガッッッッーーーーーーーーーーーーザザッッッ』
突如画面が暗転し
場面が切り替わった
『はぁはあはぁはぁはあはぁはぁ……
も……うお父さんの書斎って……はぁはぁ
どこだっけ?』
果てのないほど長く続く廊下を急ぎ足で駆けていくのは
片腕を欠損しているルナーシュだ
脇腹にはプラティの死体を抱きかかえている
『待ーーーってくださいよ?
あなた苦しいでしょ?
今、すぐに楽にしてあげますから、ちょっと止まってください??』
彼女の遥か後方から甲高い狂気の声が聞こえる
声の正体はどうせ、エウステノプテロン・デュプテルスでだろう
そしてその声の根源は凄まじい速さでどんどんと、ルナーシュにまで接近してくる
次の瞬間、彼女の目の前にデュプテルスが現れた
つい数秒前まで遥か後方にいたのにも関わらずだ
彼は足を地につけてはいなくて
空中に浮いている焦茶色の棒に乗っている
『……は?』
彼女はあまりのショックに足を止めてしまい、崩れ落ち、膝を地面につく
加えてデュプテルスが乗っている焦茶の棒を
怪訝そうに凝視する
当然だ
その棒の正体も、なぜ浮いているのかも何もかも分からないのだから
『あゝっ……
あなた…… これが気になるのですか?
いい、いいでしょう!!
これから私の手によって死にゆき、「あの地」へと旅立つ
あなたに! あなただけに!
特別に教えてあげましょうか???』
狂気を纏いながらも、デュプテルスは浮遊しているその棒からさっと飛び降りる
身体能力自体は低いのか
ちょっとの着地で膝を痛めているようだ
『では、では、ではではでは……
あなたがどうしてもと言うので!!
私の賜っている天与、「歪」について
ちょびっとだけ話しますね?』
そう言うと彼は腰を屈めて、
へたり込んでいるルナーシュに視線を合わせる
デュプテルスの態度は未だ余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》と言った感じである
『私の「歪」での能力は全部で2つ、
1つ目はあなたも見た通り「遠隔でものを捩る」
これは両手を前に出して空気を捻るような仕草をするのが
不変の発動条件です
因みに対象の大きさは不問……ですよね?』
自らの能力を彼は嬉々として語る
ただ、この時デュプテルスは
少しだけ首を傾げて、悩むように考え事をする
『ん〜……これってどうやって説明したらいいですかねぇ?
まぁ、あれです。
巨大な見えない手が対象の両端を掴んで、逆方向に捩る……
そんな感覚で大丈夫ですよ?
あっ、ちなみに実際には見えない手は存在しませんからね!?
あくまで想像上で、ですから?』
尚も彼は能力の説明を続ける
『そして2つ目は……
「捩ったものを自在に操作する」です
捩ったものを消去したり
自由自在に操作したりもできます
………つまり、
私はあなたを追いかける途中で
あなたのお屋敷の扉を少々拝借し
捩って、それに乗って操縦してここまで来た……ってことです?!!!!』
デュプテルスは両手をバッと広げながら,
興奮して気持ち悪く、気色悪く息を切らす
その後、視線をルナーシュの瞳から移し、
彼女が抱えているプラティの亡骸をじっと見つめる
なるほど、あの奇妙な茶色の棒の正体は
能力を使い捩り切った後のドアだったのか
『でーーはーー……
早速、あなたのためにも実演してみましょうか?
神が私にくださった「天与」、その力を』
ルナーシュの必死の制止を無視して
デュプテルスは両手でものを捻るポーズ(ジェスチャー)を取る
そして『捩れ』と呟いた
能力の行使対象は……
プラティの亡骸だった




