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異世界の歩き方!  作者: Sakaishi-Nihonshi
第2章, 信頼関係構築イベント
30/33

惨劇の答え合わせ

『神の……神の使者??』


完全に震え、怯え切った声色で

ルナーシュはそう感嘆符を口にする

まるで彼女がその『神の使者』という

単語の意味や恐ろしさを知っているかのように


『ええぇ! そうですよ?

私こそが10いる神の使者、その一翼を担う

エウステノプテロン・デュプt…』


『黙れ!!!!

ふぅぅぅぅぅ………ふうううぅぅぅぅぅ……

お前が……お前が 

あの!神の使者なのか!!!

私のお父さんを殺し!

私の家族の仲を切り裂き!

私の好きだった人を、狂人へと染め上げた!

あの!! 忌々しい「神の使者」なのか!!!』


彼女はプラティの亡骸をより一層強く、強く抱き締める

彼女の怨嗟の声が蒸し暑い空気を伝い、

あの男___デュプテルスの鼓膜にまで届く


『いや いや いやいやいや

それをしたのは

私の「歪《ゆがみ》」とはまた別の、

「堕《だ》」の天与を賜っている使者ですよ?

私ではないです?

って、言 い ま す か

本当のことを仰りますと……

あなたのお父さんを殺し

あなたの家族の中を切り裂き

あなたの好きだった人を、狂人へと染め上げた

それをしたのは「歪《ゆがみ》」の私でも「堕《だ》」の使者でもない

《《あなた》》、でーすよね?』|


デュプテルスは悪意らしきものは込めずにただ淡々と彼女に述べていく

その内容が事実か、あるいは虚偽なのかは私には分からない

ただ、次の瞬間

彼の表情が怒り混じりの濃い狂気に染まっていくのは確認できた


『それよりも!!!

先ほどあなたは私の自己紹介を邪魔しましたよね?

私が名前を名乗る途中、

あなたはそれを遮り、

傲慢にも身勝手にも話を進めていった……

それは!

私への! ひいては神への冒瀆行為《ぼうとくこうい》!! なぁぁぁのですかぁぁぁぁぁぁ?!!!』


彼はそう高らかに叫びルナーシュに

ありったけの怨嗟と軽蔑の視線を送る


『その大罪!

ただ1つの痛みによって贖(あがな)いなさいぃぃ!!』


彼は衝動に身を任せて

先刻、水の槍を弾いた時と同じようなことをする

両手を前に伸ばし、

体の前でものを捩(ねじ)るようなジェスチャーを取ったのだ

そしてそのまま、


「捩《ねじ》れ」と呟いた


次の瞬間、反撃のため

再度魔法を放とうと掲げたルナーシュの右腕が……

吹き飛んだ


……理解ができない

正体不明の力が彼女の腕に働いて、

不自然に腕が捩(ねじ)れていき骨の軋(きし)む音が聞こえた


その後、限界まで捩られた右腕は

瞬きの間に弾け飛び、肩から出た鮮血が宙を舞う

独立した右腕はそのまま石畳の地面に落下する

ルナーシュはその光景を目撃し、当惑の表情を浮かべ

遅れて彼女に激痛が襲ってくる


『は………?

あ、ああああああぁあああああああああああぁああああああああぁああああああああぁあぁあああああぁあああぁああぁああぁあああああぁあああああああぁああああぁあああぁああああぁあぁあああぁああああああぁあああああああああ!!!!!』


右肩に走る、灼熱の釘を打ち込まれたような激痛に

彼女はただ叫ぶことしかできなかった

息をするのも忘れて叫び、

肺の中の空気がどんどんとなくなり、酸欠になっていく

ルナーシュは突如として生まれた右肩から先の

「空白」に絶望を覚えるのみだ


『嗚呼ぁ…… ふふ

いい、いい叫び声ですねぇぇぇ??

嗚呼、可哀想……

実によぉぉぉぉぉく可哀想! ……ですか?』


デュプテルスの発する人ならざる金切り声も

激痛に悶(もだ)え苦しむルナーシュの鼓膜には全く届いてこない

彼女に無視されたデュプテルスは

またもや苛立ちを覚えて

再度”ものをねじるジェスチャー”を取りかける

それは先刻、ルナーシュの右腕を吹き飛ばした動作そのものであった


『え……

や…… いやだ!!

し、死にたくないぃ!!!』


彼がとりかける動作にルナーシュは本能に刻み込まれた

圧倒的、恐怖感を覚える

そしてルナーシュは咄嗟にプラティの亡骸を残った左腕に抱えて

背を向け、屋敷目掛けて走り出す


こんな状態の彼女に敵前逃亡だ、と言って唾を吐く行為など

たとえ誰であっても許されないものだ


彼女の足取りは人一人を抱えていることもあって

非常におぼつかず、とても速いとは言えない

デュプテルスがもう一度、今度は腕ではなく体全体を対象として

遠隔で捩ってしまえば、簡単に彼女の命の芽は奪えそうだ


だが彼はそれをしなかった

彼は屋敷の中に逃げ込んでいくルナーシュをみすみす見逃し

その代わりに、にやりと邪気を孕んで笑うのみであった


***


『はぁはぁはぁはぁはぁ………

ああぁ、かはっっっっ』


屋敷のエントランスに入ったルナーシュ、

息も途切れ途切れになりなんとも転びかけもしたが

なんとか立ち上がり、助けを求め歩み続ける


エントランスの正面には

カガミ=フウマ作の巨大なカレンダーが飾られており

既に過ぎた日付にはバツマークが付けられている


『姫さん!!! 今の叫び声って……?

……………は?』


右手に続く回廊の奥から焦りながら現れたのは

テリウム・エーギルだ

目の焦点があっていき、

ルナーシュとプラティのあまりに酷すぎる惨状が見えていくと

やがて彼は立ち止まり言葉を失う


『あ……ああ…… 嘘だろぉ……嘘だろ!?

おい! 姫さん!! プラティ!!』


『…………さぁ、そこのあなた?

あなたも「あの地」へ送って差し上げましょうか?』


テリウムが目の前の光景に絶望する暇もなく

ワンテンポ遅れて、屋敷の玄関に単騎乗り込んできたのは

エウステノプテロン・デュプテルスだ

彼が屋敷の敷地に足を一歩踏み入れた瞬間、

屋内の空気が一気に禍々しいものへと豹変し

絶望というものが形を縁取り、具現化してルナーシュとテリウムに降ってかかる


『あいつは……

あいつは神の……ごほっ、使者だ

私たちで敵《かな》う相手じゃ…… ううぅ、ない』


ルナーシュはテリウムの瞳、ただ一点を見つめてそう哀願をする

彼女はこれが人生で最期のお願いになることを覚悟していた

その上で彼だけでも今すぐ逃げるように諭したのだ


『……ちぃっ てめぇが、神の使者かよ』


「神の使者」その単語を聞いた瞬間、

ただでさえ暗かった彼の顔が更に曇っていった

だが彼はすぐにデュプテルスの方を向き

怒りを心の内に秘めたまま問いかける


『ええ、そうですそうです!!!

私は10つある神からの贈り物、「天与」の内

「歪《ゆがみ》」の天与を受け賜りし者ぉ!

エウステノプテロン・デュプテルス……なのですかぁ?!!!』


今度は別の人物から再び名を問われた

彼は恍惚(こうこつ)の感情に顔を歪める

したらば嬉々として自己紹介を始めた


『神の使者は狂人、キチガイ揃いと聞いてはいたが

まさかここまでとはな……

まぁ…… なんだ……

取り敢えずな、プラティを殺したその罪を

地獄で永久に後悔していろ!!』


テリウムはそう威勢よく発破をかける

そして右手を前に掲げ、


『パーク!!!』


ありったけの憎しみを込めてそう魔法名を叫ぶ

そしたら彼の掌の上に拳大の大きさの火の玉が現れて

迷うことなくデュプテルス目掛けて飛んでいく


『あーー まーたこれですか?

実は、こういう飛び道具系って私と相性最悪なんですよぉ?』


狂気に染まった笑顔でデュプテルスはケタケタと笑う

彼は変わらずに

体の前で”ものを捩るジェスチャー”を取った


するとデュプテルスに命中するまで残り三寸もない

距離のところで火の玉はあえなく霧散した

まとまりを失った火球は無数の小さな火の粉となって

屋敷の床に舞い落ちていく


『ほらね?』


落ちてゆく火の粉を眺めながら

デュプテルスはわざとらしく歔欷(きょき)の声を漏らす

取ってつけたようなつぎはぐの慈悲を纏いながらも

彼は足を動かし、満身創痍で横たわるルナーシュの元へ詰め寄っていく


『来るな!

てめぇ、姫さんに指1本触れてみろ!!

屋敷ごとてめぇを燃やすぞ!!!』


『そーんなそんな!

そんなことやめてくれませんか?

もっと、もっともっともっと、建物というものは大事にしたほうがいいですよ?

だって建物、それもこれほど大きな豪邸ですよ?

一体どれほどの人たちの努力によって築き上げられた

と思っているんですか?

そんな……そんな、血と汗の結晶である豪邸を燃やすなんて!!

残念ですけどあなたは

「あの地」に行くのには不適な存在です?!!!

一体全体、どれほど傲岸不遜な行為なのですかぁぁ????』


突如降って湧いた激情に彼は身体の操縦を任せ

テリウムの方を向いて

再び両手で”ものを捩るジェスチャー”を取りかける

やはり、そのジェスチャーを取るのが

彼の能力「遠隔でものを捩る」の絶対の発動条件なのだろうか


『あなたのその腐った心根!!

私の慈悲による介錯によって!

赦しを与えましょうかぁぁぁぁぁ?!!!』


『ああぁ もう……

くそがよ!!!』


叫びながらも、テリウムはデュプテルスの漆黒の躯体目掛けて

体当たり、タックルを繰り出した

その加速は圧倒的なもので

10数mはある2人との間合いを文字通り瞬きのうちに詰め寄って、

デュプテルスに渾身の一撃を叩き込んだ

それをモロに受けたデュプテルスは

体勢を崩し、床に倒れ込む


見てみる限り、彼がジェスチャーを取り切る前にタックルをしたので

テリウムの体には傷1つもなかった


『姫さん! 今、旦那は書斎にいる!!

そこに行け!!!

カルシュならどうにかしてくれる

こいつにも勝てるかもしれねぇ!!』


『え………でも

テリウム、あなたが……』


『誰が気にして欲しいなんて言ったんだ!?

頼むから自分のことだけ考えてくれ!!!

いいから、行け!!』


その決死の喝をしかと聞き届けたルナーシュは

プラティを片腕で抱えたまま

黙って、遥か奥にまで続いている廊下を駆けていく


 ***


『あぁぁ…… 嗚呼……

痛い、痛いぃぃぃ

私、少々興奮してしまって足元が疎かになってましたか?

失念でした……か?』


デュプテルスはやおら起き上がり、尻餅をついたときの痛みを喘ぐ

そしてお尻についた埃《ほこり》をぱっぱっと

手で払いこう話を続けた


『ところで、話は変わっちゃいますが…………

あなたの顔を見る限り、

あなた今、苦しいですよね?』


『……はぁ?

ったりめぇがろうがよ、

てめぇのせいで、こちとら人生最悪の日を迎えているよ!!』


厳戒態勢は決して解かず

警戒をしたまま彼はデュプテルスを激しく睨みつける


『いやいやいや、今に限らずに

これまでの生活の中で!

きっとあったでしょう?

理不尽なこととか、

したくないこと、

めんどうくさいこと、

痛かったことや、

言われて嫌だったこと……

必ずそれらを日頃から感じているはずですか?

そして、それに苦しんでいる

なぜあなたが苦しまきゃいけないと思いますか?

その理由はあなたが《《生きているから》》です

生きているからこそ、

苦しみが生まれてそいつがあなたに襲い掛かかってくる』


デュプテルスは戦闘中にも関わらず、

狂気に顔を染めながら話をしていく

 

『はっ!!!

なんだよ、じゃあこっちに死ねっていうのか?

それで無となり、楽になれと???

笑わせんじゃねぇよ!!』


『ぷっ、 くすくす……

そんな浅い話ではなくてですね……

良いですか? よく聞いてくださいね??

死というのは、あくまであなたの長い人生の

《《折り返し》》なだけですよ?

通過点である死を乗り越えた先には

「あの地」

があなたたちを待っているのです

そこには苦しい、痛い、絶望などの負の感情は一切存在せず

全てが文字通りに完璧な状態のまま存在している

物体は決して壊れたり風化することはなく、完全に永遠不変のままいる

いえば、この世にある全てのものは

所詮「あの地」の

物体の粗悪な複製品、模造品に過ぎないのです


そんな理想の世界、そこに到達する唯一の方法は《《死ぬ》》ことしかないのです

だったら、たったいっときの死への恐怖なんて

こんな苦しみに満ちた現世から脱し、「あの地」へ至るための

ほんのちょっとの通過儀礼だと思えばよいのですよ!?


善良で無辜《むこ》な人々には死という名の救済を!

私欲にまみれた悪人には生という名の罰を!


それが私の、

こんな下衆で傲慢で強情で卑賤(ひせん)で鄙劣(ひれつ)で粗陋(そろう)な私に、

神から与えられたたったひとつの使命なのです?!!!!!』


もはや興奮を隠しきれずに

エウステノプテロン・デュプテルスは自身の思想や主張を露わにした

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