↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の歩き方!  作者: Sakaishi-Nihonshi
第2章, 信頼関係構築イベント
26/33

悪夢の始まり

***


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁっはぁっはぁっ

ぜぇ、ぜぇぜぇ、ぜぇっぜぇっ、はっあーーーーー!!

ちょ……もう……限界や…………」


「おいおいおい!!

まだ173回だぞ!?

早々にバテすぎだろ!」


一面に広がる平面の中、

僕は仰向けに倒れ込んでいるテリウムに喝を入れにいく

空には太陽が燦々と輝きながら僕らを照らしており,

テリウムは眩しそうにしながらも

すぐに起き上がり僕を見上げる

僕らの背後に聳《そび》え立っている屋敷も

太陽光で熱せられている最中だ


正直、僕はこの屋敷のスケールを完全に把握した気でいたが……

まだまだ、未開拓地がわんさかあったみたいだ

1ヶ月前にプラティの魔法講座が開かれたあの噴水広場、

そしてそこまでに通ずる花畑に囲まれた石畳の一本道、

それはこの屋敷の庭の、ほんの一部にしかすぎなかったらしい

屋敷の裏側、つまり北方面には僕の知らない平原が広がっていたのだ

広さは小学校のグラウンドくらいで、淀みのない緑色をした芝生が生えている

それと平原を挟んで屋敷と反対側には、草木一本も生えていない荒地、

イメージ的には《《メサ》》だ

それが広がりを見せていた


「はぁはぁ……

うっせ……

はぁはぁ

フウマはまだ最高、84回の癖に

偉そうにすんじゃ……

はぁはぁ、ねぇよ!」


「あぁっ! お前、俺の痛いとこ突いてきやがったな!?

幾度となく言ってるけどこれは自分との戦いなんだよ

他人と比較なんかしてんじゃねぇよ!」


「ああもう分かった!分かったから!! 

早《は》よ水をくれ」


1分ほど寝転がり休憩したテリウムは

手をつきながらも、やおら立ち上がり僕に水分を要求する

それを聞き、僕はすぐさま懐のポケットに携えていた

動物の皮で作られている水筒を取り出し、投げてパスをする

軽く受け取ったテリウムは蓋を慌ただしく開け

中に入っている水をガブガブと飲んでいく

この水筒の原材料が、実はテリウムが狩った魔獣の膀胱なのはまた別のお話


「………ぷはぁ!

なんとか回復した

おし! 次はフウマの番だ!!

急いで準備しろ!」


彼は瞬く間に水を飲み干してしまい、

空となった水筒を芝生へポイと投げ捨てる


「今回は絶対に100回の大台、突破しちゃりますわ!!」


僕はそう意気込みを露わにし準備運動をする

そして芝生の上に引いた

白線の上に立ち膝を少し曲げ前傾姿勢をとった

所謂スタンディングスタートの体勢だ


「んじゃ行くぞ〜

よーーーーい………

ドン!!!」


テリウムの威勢の良い掛け声に合わせて

僕は草原を走り始めた

今僕らが何をしているのかと聞かれたのならこう答えるしかない

……《《シャトルラン》》、だ


***


事情を説明しよう

僕は1ヶ月前からマヤの保護下の元,怪我の治療を始めた

それで順調に治療を進めていき

つい1週間前にマヤから傷の完治を告げられた

それを受けて衝動的に始めたのが

この《《ハンドメイド、シャトルラン》》だ


やり方はこう、

まず原っぱの上に

目算で大体20メートルあたりのところを見定めて白い布を薄く引く

次にシャトルランの回数を記録するため、白紙と羽ペンを1つずつ用意し、

最後に口で例の音源のリズムを刻めば出来上がりだ


「1、2、3、4、5、6、7、8、9!

1、2、3、4、5、6、7、8、9!!」


テリウムは白線の間を往復していく僕を見ながら

拍を取ってくれる

きちんと10回おきにちょっとずつテンポが速くなることも

伝えてあるので、再現度は中々に高くなっている


僕は学生の頃、決して得意という訳ではなかったが、シャトルランが好きだった

なんていうか……あの終わりのないエンドレス感が

自分の心をがっしりと掴んでいたのだ

だから今こうして《《友達》》と一緒に

シャトルランが出来ているのがたまらなく嬉しいし、楽しいのだ



僕はこの1ヶ月の間に元の世界の色々な物を作ってきた

さっき言ったシャトルランもそうだし

あとはこの世界では庶民向けではないらしいカレンダーとか……

夏の暑さを凌げる手作りうちわとか……

書類を束ねるためのクリップとか……

まぁ、そんな感じだ


また、僕は2週間前からプラティさまとの魔法特訓も再開した

そのお陰で岩魔法の『ペイン』で生成できるのが、

ごく少量の砂利から無数の小石へとステップアップを遂げた

たかがその程度の進化?、と思うかもしれないが侮ることなかれ、

約14日間コツコツ毎日付きっきりで、特訓をしてもらってこれなんだから!


***


「はぁひぃはぁひぃはあひぃはぁひぃ

ぜはぁぜっはぁぜはぁ……

あかん……もう、無理…………」


そう言い残し、

僕は疲労の極限を迎え、白線の上でばたりと倒れ込んだ

暑さのせいで身体中汗まみれでなんとも不快感が凄い


「すげぇぞフウマ!!

101回だよ!

しっかりと有言実行したじゃねぇか!!」


若干の興奮を顔に浮かばせるテリウムは

芝生を踏み締め、僕の下にまで駆け寄って

回数を記録していた紙を僕に向けて高らかに見せる


「はぁ、はぁ

……え ま、まじで!?

まじでかよ!! ちょっと見せろ!」


僕はそれ以上の興奮を胸に携えて、

テリウムが掲げたくしゃくしゃの紙をバッと奪い取った

見てみると、確かに101の欄にまでチェックマークが

びっしりと付けられている


「笑 ……まじか

い、いよっしゃぁぁぁぁーーーーーー!!!」


芝生の上に寝転がったまま腕を思いっきり上げて

喜びを露わにする


「はいおめでとう、おめでとう

それじゃあ街に行くわよ」


「え?」


突然の出来事だった

屋敷の壁面に取り付けられている両開きの窓を豪快に開け放ち、

僕にすぐさま立ち上がるよう催促をしてきたのはマヤだ

彼女は屋敷の中から窓越しに顔を覗かせた後、

そのまま窓枠を軽々と飛び越え、芝生の上に淑女の如く華美に着地をする


そしてあっという間に僕らのもとにまで詰め寄り、

仰向けになっている僕を見下ろす


「……あ、いやーー

ごめんだけど、

職探し……めんどくさいから

今日はマヤ1人で里親探しに行ってもらって……

一緒に行くのはまた明日からでもいい??」


「無理」


「お願いしますって!!」


「無理!」


「なんで!?」


「カガミ、昨日も一昨日も街に行ってないでしょ

私が必死こいて里親探しをしているのだから、

カガミも同じく必死に定職を探しなさい!!」


そう無情にも言い放つと、

彼女は汗だくの僕の腕を強引に引っ張りながら

屋敷をぐるっと一周したところにある、エントランスの大門を目指して歩き始めた


さっきまで僕らがシャトルランをしていたこの芝生の原っぱは、

屋敷の北側、つまり屋敷の玄関である大門とは

屋敷本棟を挟んで真反対に位置しているのだ

だから屋敷領から外へ出て街に出向くには、

ここからだと屋敷をぐるっと回り込む他ないのだ


「やです 嫌です!!

待ってください! 面倒臭いですよ!!

ていうかテリウムも突っ立ってないでなんか言ってくれよ!」


彼女からの誘拐を阻止するため

引き摺《ず》られながらも四肢をバタバタさせ必死の抵抗を見せる


「……俺もマヤに逆らったら命を奪われるからな

めんご、頑張って!! 行ってこい!」


テリウムは芝生に落ちた記録用の紙を拾い上げた後

手を大きく振り、僕を見送った


「こんの薄情者がよーーーー!!」


テリウムとの距離がマヤによってどんどんと離されていく中、

僕は断末魔をあげて尚も抵抗をするまま、彼女に誘拐されていった


***


「さ、行くわよ」


「……はい」


僕とマヤ、それぞれが山を越え街へ赴く理由は異なっている

僕は自分自身で生きる術をみつかるための求職活動、

マヤは亡き肉親に代わる新たな里親探し。

と言った感じで違っているのだが、街へ行くということは共通している


「元気がないわね

今日こそ立派な職が見つかるかもしんないよ??」


彼女と僕はこの屋敷の敷地の玄関口、巨大な門(大門)の前にいる

僕は約100mくらいマヤに引き摺られたあたりで全てを諦めて、

自分で立って歩いたので、ここに来るまでにさほど時間はかからなかった


僕がこんなにも街に行くことを拒むその理由は非常に単純明快、

《《遠い》》からだ


なんていったってここから街までは

鬱蒼とした森を抜け、山1つ分を越える必要があるのだ

僕はこの1ヶ月間で確か5回、街へ行ったことがあるのだが

その経験から言って

街までの距離は10kmもあろうかという程だ


僕はじきに通ることとなるであろう

目の前の広大な森や、奥に見えるこんもりとした山を見て

「ここを歩くのか……」と思い、大きくため息をつく


「ため息はつかない!!

さぁ、日没までには戻るくらいで行きましょう」


そう発破をかけ

2人は隣町に向け、歩みを進め森の中へ入っていく


***


「結局!! なんの成果も無かったじゃねぇかよ?!」


「知らないわよ!

耳障りだから叫ぶのやめなさい

疲れた体に響いてしまうわ」


日が地平線に沈み切るほんの直前、

無事にこの道のりを歩き切り屋敷に帰ることができた

僕らは屋敷の大門の前で

疲労のあまり地面にへたりこむ


「歩きだからシャトルランほどキツくはないけど……

その分ジワジワッと足への痛みが長時間来るんだよ!」


隣には同じくマヤも息を切らし項垂《うなだ》れている

ルナーシュ様のおさがりであろう

淡い青のワンピースには大量の汗が染み付いており

びちゃびちゃになってしまっている


「もう僕、屋敷に戻ってるわ

十分に休憩したし……

カルシュ曰く、今日の夕食はシチューらしいからな

冷める前に来いよ〜」


そうマヤに言い残し

僕はよろよろになりながら

大門から屋敷までの石畳の一本道を歩いていく


***


1歩、2歩、3歩、4歩、5歩、6歩、7歩、8歩、

僕は屋敷の玄関に向かって足を運んでいく

そして、9歩目を踏み出そうとした

その刹那…………


「っくあぁぁ!! っっっっっったぁ!!!」


頭部に激しい痛みが襲いかかる

僕は咄嗟に頭を両手で抱え込みその場に崩れ落ちる


視界が縁から中央に向かってどんどん闇に染まっていく

まるで墨汁を垂らしたように、その闇は目の前の景色を飲み込んだ

僕は意識を失い、暗い海の底に身を投じるような、そんな感覚を味わう


ここから僕の『未来予知』という名の祝福による

長い、長い悪夢が始まった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。