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異世界の歩き方!  作者: Sakaishi-Nihonshi
第2章, 信頼関係構築イベント
25/33

絶望前夜

「入るぞー」


そう一言断りをいれて、扉の奥から中背の男が現れる

エッジの効いた声の正体はテリウム・エーギルだ

オールバックを櫛でとかしおり、髪を下ろしていた

額を黒の前髪が覆うだけで、夕食の時に感じていた

若干の威圧感や怖さが一気に和らいでいるように感じる


「あー

テリウムか……

てかなんで、1人ずつ交互に入ってくるんだよ……

RPGのボス戦か?

……偉そうに思われるけど、何しにきたんだ?」


「まぁ、お前の明日からの予定と……謝罪だな」


「……え? 謝罪!? 

お前がか??」


彼からの藪から棒な発言に

僕はさっきまでの眠気が完全に吹き飛び、慌ただしく体を起こしていく


「んでそんな驚くんだよ!?

まだ出会って1日もたってねぇくせに、俺の何がわかるんっていうんだよ。

あと勘違いすんじゃねぇぞ

俺が今からすんのは謝罪っていうか……

弁明、そうだ弁明だ!!」


荒々しく喋りながらも、

先ほどまでマヤが座っていた椅子にやおら腰を下ろしてく

そして両手共に腰にあてがい、僕の方に目線を合わせる


「……まずは弁明だ。

夕食の時にマヤがしたお前を馬鹿にするような発言、

どうか許してやってくんねぇか?

もう知っていると思うけど、

あいつは先月に両親を亡くしたばっかなんだ

マヤとはそれ以前から頻度は少なかったが、

それなりに交流はあってよぉ……

近くの街に住んでた、ただの心優しい少女だったんだよ」


今までの威勢を全て手放し、

一変して神妙な面持ちで話を進めていく

浮かべる表情はどこか憂《うれ》いと嘆きが入り混じったような感じだ


「え……」


「両親、特に母親にベッタリでさ

そんな少女が突然最愛の人を失ったら

あんなんにでも……なっちまうだろ??

今は心がささくれ立って、

誰にも胸を内をさらけ出せていないだけなんだ

だからあの子が無事に立ち直れるまで

どうか……見守ってやってくれねぇか?」


文の締めくくりと共に、

下に向けていた視線を再び僕の方に向けた

今しがたまでの神妙な表情とは打って変わって、

子に寄り添う母親の如く、優しく穏やかな顔をしている


「………ああ 分かった

お前の言ったこと、胸に刻み込むわ

絶対に守るよ」


「でも、変に距離を置いたりなんかすんなよ?

普通に接してもらって勿論いいけど、

あいつへの最低限の配慮だけは忘れないでほしい

……ただそれだけだ」


「了解したよ

その任務、喜んで受けさせていただこう」


「はっ! 変にカッコつけてんじゃねぇよ」


僕は数分前、体調を確認するためにマヤが押さえていた

自分の爪をじっと見つめる

既に爪床は既に人肌に馴染むピンク色に戻っていた


「ていうか、人の口調について言及する暇があるんなら

まずは自分の口の荒さを見直したほうがいいんじゃねぇのか??」


その唐突ないちゃもんにテリウムは虚を突かれたような表情を見せ、

次の瞬間、腹を抱えて大笑いをした


「はっはっは笑

それをフウマが言うんかよ?!

現にお前、俺に普通にタメ口で話してんじゃねぇかよ!?」


「ああ、違う違う!!

僕が言いたいのは初対面の時の口の強さだよ!

何回も喋ってきてタメ語になるのは当然、

でもほんとに初対面のときから、その柄の悪い口調をすんのがヤバいって話よ」


「ぐ……ぬ……ぬ

なぜか反論できねぇ」


見事に言いくるめられたテリウムは

悔し紛れに、顰《しか》めっ面を僕に見せる


「まぁこんな茶番は置いといて……

閑話休題、明日からの予定っていう話の前に、少しだけ質問してもいいか?」


「___? いいぜ

答えれるもんなら答えてやるよ」


「2つあって、

どっちも人と話している時に聞きそびれたことなんだが……

まずファースト、

マヤが言ってた《《火牛》》。それに出てきた『魔獣』

あと、スーパが自己紹介で言ってた『妖精』

……それぞれはどういう意味なんだ?」


テリウムは僕の質問を聞き終えて

悩み、ボリボリと頭を掻《か》きむしる


「それぇは簡単だ

魔獣と妖精ってのは超噛み砕いて言っちまうと

”皮膚、骨、内臓、その全てが魔法の根源である《《シャフト》》で構成されている生命体”

のことだ

ただの動物じゃねぇ

猛獣以上の知性と自我を持ってて、

体が全て魔法の原料で作られてるんだから

人間よりも魔法の扱いに非常に長けている

……って感じだ」


「だから妖精であるスーパは

魔力量がヤバい、空間操作系も扱うことができるってことか……

魔獣と妖精の違いは?」


「それも単純

妖獣よりも更に知能が発達してて、

人語も難なく話すことができる、且つ人間に友好的なのが《《妖精》》

さっきのスーパみたいにな。

対して、人間とは敵対的で深刻な害をなすのが《《魔獣》》

って具合な」


「ご丁寧にどうも

むちゃ分かりやすかったわ

やっぱ伊達に執事やってねぇんだな

教養がある」


布団の下で適当な手遊びをしながら、僕はそんな軽口を叩きにいく

僕が目覚めた時は全身、倦怠感と疲労感で全く覇気がなかった

ただ、マヤの懸命な治癒魔法のお陰か

体がグッと軽くなり、冗談を吐けるくらいには回復ができた


「……いいから

あくしろ、2つ目は?」


「あぁ、ごめん

次にセカンド、

お前が来るほんと直前、マヤがこの部屋に来たんだよ

満身創痍の僕の体調確認をして、

治癒魔法を注いでくれて……

それはすごい嬉しいし有り難かったんだけど、

なんであいつは《《自分自身に対して》》治癒魔法を使わないんだ?

マヤ自身も先月に両親を亡くした時の傷が残ってるんだろ?

腕に包帯巻いてたしさ」


当然浮かび上がる疑問だ

僕だけではなくマヤも同様に負傷をしているんだ

そもそもあいつがこの屋敷に滞在している理由が

怪我の治療と、引き取ってくれる里親探しなんだから

ちゃちゃっと怪我を治しちゃって、里親探しに専念すれば良いものを……

それをしないのは不思議に思ってしまう


「…………は?

そりゃ当然だろ?

治癒術師よろしく、治癒魔法が使えるあらゆる人は

自身を治癒することはできねぇ……

一般常識じゃねぇのか?」


回答し終えたテリウムは

不思議そうに質問してきた僕を、同じく不思議そうに見つめる


「え……

あー…… いやぁ

初めて言うと思うんだけど、実は僕

奴隷商人に拉致られる時、木刀で頭ぶん殴られたんよ

んで……

どうやらその衝撃で虫食い的に記憶を失ったみたいなんだよ

だから……たとえ常識だとしても、僕にとっては初耳でちんぷんかんぷん,

って感じなんだよね……」


嘘である

僕は頑なに異世界人であることを言おうとしない

その訳は、言わないでおくことが異世界物のお約束、

ってこともあるのだが……

何より異世界人と打ち明けることが

未来予知みたく《《ルール違反》》になることを怖がったからだ

ここで馬鹿正直に異世界人と言ってしまって

また血でも吐いたら、それこそ笑えなくなってしまう……


少々沈黙を生みながらもやりきった僕の名演技に

テリウムは文字通り目を丸くする


「はぁ……?

じゃあお前、家族とか友人とか

誰か迎えにきてくれる人は……

思い出せねぇのか!?」


「思い出せる、出せない以前に

そもそも居ないんだよね 身寄り」


「衝撃の告白をさも日常会話みたいに言ってくる

おめぇがこえぇよ」


テリウムはずいぶんとたじろぎながらも

やおら立ち上がり左にある窓の錠を外し、開け放った

今の今まで暑苦しかったこの部屋に爽やかな夜風が突き抜ける


「朝の時にルナーシュ様に言ってなかったっけ?

頼る人がいないから、隣町で求職活動をするって」


「いや、んなこと聞いてねぇよ…………

分かった

じゃあ、フウマの明日からの予定は変更だ変更!

仮にお前に身寄りがいたら、

その人にまで親書を送って迎えに来てもらう、って予定だったが……

頼れる人がいないってんなら、

怪我の治療が終わったら、その後にお前は隣町で仕事を探す。

それでいいな?」


テリウムは胸ポケットからなにやら手帳と羽ペンを取り出し、

流れるように紙面に文字を綴《つづ》る

多分、今言った内容を忘れないように、メモでもしているのだろう


「ああ、もともとそのつもりだ」


「ていうか、あえて言っておくけど……

今のマイン王国の情勢下で就職活動をするのは、茨の道だ

楽なもんじゃない」


「……え?

それと似たことをルナーシュ様にも言われたんだけど……

一体何が起こってんの? この国で」


「今、この国は他国との交易を一方的に断たれている状況だ

どことも貿易ができていないから、

この国は不景気まっしぐらで失業者も鰻登《うなぎのぼ》りだ

国家の食料の備蓄ももうあと半年もない、

こういう崖っぷちの状態なんだよ この国は」


テリウムは再び椅子にやおら腰を下ろし、

神妙な面持ちで話を進める


「まじか…… 鎖国と似た感じになってるんかよ

けど……なんでだよ? なんで他国から貿易拒否されてる?」


「はぁ……これも知らねぇんかよ 

まぁ、一言で言うと《《火牛》》だ

ここ1年で、火牛の出現頻度が異常に高くなっている

そのたびに街は燃え尽き、壊滅状態だ

更に現れる場所が港町となりゃあ、もう貿易どころじゃなくなる

他国の商船の被害があまりにも多すぎたから、交易が断たれたんだ

……しかも、出現するのはここマイン王国だけで他国には一切出ないのが、

余計にタチがわりぃ」


「やっぱ火牛ってそんなに強いのか?」


「当たり前だ

身長は建物5階分、全身に炎を纏ってて、性格は非常に獰猛、

しかもいつ、どこに、現れるのかが一切わからない神出鬼没さ。

多分、歴史上人を最も殺した野獣じゃねぇか?」


彼の表情がより一層深刻そうになる


「分かった……

要は、ここ最近火牛が大暴れして他国と貿易ができない、

そのせいで国全体が不景気となり新たな就職は困難……こんな感じか?」


「その回答は97点だな

満点の回答は、《《まともな職業への》》就職は困難……だ

まぁまぁ、どんなに早くても、3ヶ月はかかるんじゃねぇか?

手に職つくまで」


「OK

じゃあ当面の予定は

怪我の治療を終えたら隣町へ就職活動、

改めてこれで行かせてもらうわ」


「……了解した

ま、明後日《あさって》までは回復に専念してゆっくり休んどけ

隣町へ行くのはそれ以降な」


そう告げながら両開きの窓を半分くらい閉じて、

心地よいくらいの風量に調節してくれる

したらば、ドアを開けて部屋から出る時、彼は去り際にこう言った


「また今日な」


「は? また今日?

また明日じゃなくて??」


「もう日を跨いじまって、

次に会うのは朝のときだろ?

だったら『また今日』の方がよくねぇか?」


そう説明をしながら

テリウムは気前よくニカっと笑う


「まぁそれも一理あるか……

分かった 

じゃあ、また今日な」


「おう」


ドアが時分を考えてくれたお陰で

閉め切る時の音は非常に静かだった


「今度こそ……

寝るか

じゃあ自分、また今日だ」


そう小さく呟き、僕は眠りに入った


***


この日と次の日はまるまる静養のために休み,

僕は2日後から隣町へ出向き、就職活動を始めた

まぁ活動って言っても、

侯爵領の中にある街のハローワーク的な施設を尋ねてみて、

単発の仕事をしながら定職を探す、って感じだから

日帰りで終わるもんだが


ただ、僕は定職が一向に見つからないまま…………


1ヶ月が経過した!!!!!

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