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異世界の歩き方!  作者: Sakaishi-Nihonshi
第2章, 信頼関係構築イベント
22/33

可愛い人外、見参

***


「ううぅ……

ひもじい ひもじいのぉ……

今僕のお茶碗にあるのが

スープとよくわからんお野菜しかないのってさ…

お客人への待遇としてどうなん!?」


「無駄口をべらべらと叩かないでちょうだいカガミ

この奪い合いに負けたのだからしょうがないじゃない

お食事には立場の差もなにもないのよ 

……んん〜〜 うんま!」


マヤは自身のお茶碗いっぱいに

パンパンと詰まっている大ぶりのお肉やお野菜を美味しそうに頬張っている

そして口をもごもごさせながらも、ご恒例の説教を僕にしてきた


……状況を整理しよう

ことの始まりは約1分前、

カルシュが最初に箸を鍋に向かって

伸ばしていったのを皮切りに

6人によるお鍋の具材争奪戦が勃発したことに起因する


異世界に来て初めて出くわした文化らしい文化に

当然、僕は気後れしてしまって

箸を持つのが周りより10秒ほど遅くなってしまった


その結果、僕は争奪戦に惨敗。

デカデカとしたお茶碗には容量の半分の具材もなく、

肝心の具材の内容もよくわからない根菜系の野菜がほとんどとなっている

僕の大好物のお肉は既に絶滅寸前の状況だ


加えて言うと、机の中央に置かれた3つのお鍋は

既に全部すっからかんとなっている

よってもう具材のこれ以上の入手は現状望めないみたいだ


この争奪戦の戦績をぱぱっと言ってくと、

僕とカルシュはボロ負け

マヤとルナーシュ様は茶碗から溢れんばかりのお肉を拵《こしら》えている

プラティさまとテリウムはぼちぼち普通、

といった感じだ


***


でも、ここまできて言うのはなにかと憚《はばか》られるが

争奪戦の勝ち負けは正直……どうでもいい


出会った仲間たちと一緒に鍋を囲う。

その元の世界では比較的当たり前だった行為が

今は…… 今は……

途轍もないくらい楽しく、心が弾み躍っている

たとえそれが一期一会の出会いで、すぐに離別する運命だとしても

僕は今この瞬間を目一杯楽しんでいたい

異世界の厳しさに四苦八苦しながらも、ようやく掴み取った平和と安寧なんだ

それを不安なく享受することは、

こんな僕にだって受け取ることのできる権利だと……

僕は思う


僕がそんな思慮に耽ってると、みんなの笑い声が聞こえてきた

勿論、嘲笑《ちょうしょう》でも嗤笑《ししょう》でもなく

食事をしながら快活に談笑をしている、そんな笑い声だ


そんな和やかな雰囲気の中、

僕はお椀の具材求めて、必死に箸を進める

いくら謎の食べ物ばかりって言っても

鍋にぶっ込んだら何でも美味しくなるからな

旨いか不味いかでいったら当然旨いのだ


***


『むしゃむしゃむしゃ……』


食事も後半に差し掛かった頃、

右後ろからそんな音が聞こえてきた

まるで人でないなにかの動物が餌を貪り食うような、

そんな音が……

みんなの話し声で少し聞こえにくいが確かにするのだ


僕は体を固定したまま、眼球を大きく右へ動かして

正体を確認しようとする

だけど、音の正体がいる場所はちょうど死角となっており

残念ながら見ることはできなかった


なので今度こそ正体を目に収めるため

一旦食べるのをストップし

直接胴体を右へ向ける


「はぁ!!?

く、くま!??」


信じ難い光景が眼前に広がっていた

テリウムが座っている椅子の後ろに、

一般的な柴犬サイズの《《子グマ》》がそこにいたのだ

そして床に置かれた巨大なブロック上のお肉をガブガブ食べていた

食べかけのお肉にははっきりと歯形が付いており、

如何《いか》に恐ろしい牙を持っているのかが窺《うかが》える


「……え??」


普通ではありえない光景に僕は腰を抜かしてしまった

したらば少しでもあの子グマから離れようと

椅子から立ち上がり、机の向かいにいるマヤのところに助けを求め素早く駆け寄る

僕はその椅子の背もたれを盾にしてしゃがみこんだ


「はぁ…… 何?

ただの子グマが怖いの?」


マヤはすぐ後ろを振り向き

床に座り込んで怯えている僕を見下ろす


その質問に対し、僕はマヤの顔を見上げて

全力で首を縦に振り肯定する

そりゃあそうだ。

いくら子どもサイズって言っても、クマは変わらずクマだ

怖いに決まっている

しかも僕が上京する前の地元は

北陸の田舎で、秋になるとクマが普通に道路を歩いているような地域だった

だから余計にクマの怖さは身に染みて分かっている


「ルルル、ルナーシュ様!! 逃げて!

クマに食い殺されちゃいます!

逃げてください! 今すぐに!!

絶対に背中を向けず、相手と目を合わせながら

ゆっくりと後ずさりしてください!」


突然の緊急事態に僕は戦々恐々とする

だが必死に恐怖を押し殺して、

平静を保ったまま食事を続けているルナーシュ様に対し声を張りあげる


「ん? えーーっと?

何を言っているのか分からないけど……

あの子は……テリウムの飼いクマよ?

だから逃げなくても大丈夫だと思うけど……」


彼女は斜め後ろを振り向き、

ビビり散らかしている僕を優しく諭してくれる

その一幕を見た

プラティさまとマヤは口に含んだ食べ物を吹き出し、

威勢よくげらげらと笑い始めた


「おいおい! フウマ!!

おめぇ、人のペットをまるで

凶暴な動物みたいにしてんじゃねぇよ!

こいつはぁ俺の可愛い飼いクマだ、飼いクマ!!

二度とんなこと言うなよ!!」


その笑いの渦の中に割り込むように、テリウムが声を上げた

まだ食べ物を噛んでいる最中だったのか、

若干滑舌は怪しいが……


「まぁいいや、お前は仮にも姫さんの恩人だからな……

特別に許してあげるわ……

っていうか撫《な》でさせてやってもいいぜ! 別に危害は加えねぇし

こっちぃ来てみろ!!」


テリウムは椅子から立ち上がり

背もたれの後ろに蹲《うずくま》っている僕の顔を見る

僕はその言葉を信じて、

マヤの後ろ盾から巣立ちをし、ゆっくりと起き上がる

したらば僕はすり足をしながら、机を回り込むようにその子グマに近づいていく


僕が着々と近づいているのが見えていないのか、

子グマは変わらずに下を向き、肉をガブガブ喰べている


そして触った

子グマの前でしゃがみ込んで頭を優しく撫でる

背中のふわふわの毛をそーっとなぞっていって、

最後には頭を2、3回ポンポンとさすった


「__いやーー

最初はあんなに僕のこと怖がってたのに……

やっぱり僕の可愛さに見惚れちゃったのかな??」


ブロック状のお肉を食べ終えた

子グマは僕の方を見て少しの沈黙の後

そのように《《しゃべった》》


「はぁぁぁ!!??」


動物が喋った。

その先ほどを遥かに上回る驚きが僕を襲い、

僕は咄嗟に手を後ろについて、四肢を使って後退《あとずさ》りをする


「ちょっと! ちょっと!

そんなに怯えないでよ

傷ついちゃうよ!

僕には君を襲ったり、食べたりする気なんて

これっぽっちもないんだからね?」


子グマは慌てた様子で僕を説得してくる

説得を聞き終えた僕の動きが止まったのを見ると

よちよち歩きで僕の元にまで来た


「それじゃあ、自己紹介いい?

僕の名前はスーパ!

テリウムの相棒で可愛い可愛いクマの妖精!

よろしく!」


子グマはそう気丈に話しかけ

不安定ながらも二足歩行で立ち上がり、丸っこい右手を僕に差し出してくる

立ち上がっても身長は50cm強しかなく、

僕が片膝立ちをしようもんなら余裕で抜かせるくらいだ


「へっ?? は? えぇ?」


「おーーい

僕よろしくって言ったんだけど!

返事してよ〜」


目を疑って呆然とする僕の額を、

その子グマは持ち前のプニプニの手で小突いてきた


「あ……あぁ うん

よ、よろしく」


僕はスーパの意志に応えて、右手を差し出す

スーパの手の形は某猫型ロボットみたいな球形となっており

握手の仕方が分からないので、

取り敢えず手を思いっきり広げて、その手を包み込んでみた

まぁこれで形式上、握手にはなってくれたと思う


「まぁ……そうだよな

ここは異世界なんだから、

喋るクマの1つや2つくらい何らおかしくはないんだ

ゆっくりでも時間をかけて受け入れていこう……」


「ん?? 

なんか言ったの フーマ?」


「んぇ? ああ、いや…… なんでも

っていうか、もう僕の名前知ってるんだ!?」


「さっき自己紹介の時に自分から言ってたよね!

僕、あの時机の下にいて、ばっちり聞いてたよ!?」


スーパは誇らしげに腕をクロスさせ、腕組みをする

謎文化に喋る人外とかいう、

インパクトもりもりのイベントが立て続けに起こったんだ

だから僕は自分から自己紹介していたのをすっかり忘れていた


ひとまずこの状況を虚心坦懐(きょしんたんかい)に

受け入れることはできたが……

唯一、この子グマとの接し方だけが分からなかった

心を通じ合わせることのできる昵懇(じっこん)の仲として接するのか

みんなにとっての可愛いペットとして接するのか_____

人生で初めて遭遇する属性の持ち主なので、

僕はそのことについて少しの間困惑をする

まぁ、こんな贅沢な悩みができるだけ、今僕は究極の幸せ者なのだろう


そんな思慮(しりょ)を巡らせながら、

僕は覚悟を決めて、テリウムに『スーパを抱き上げてもいい?』と聞く

そしたら2つ返事で彼から了承を貰えることのできた

なので善は急げ、で早速スーパを自分の胸に引き寄せて抱え上げる


スーパは不意を突かれ、ほんの少しだけ焦るような仕草を見せた

ただ、彼はすぐに身を委ね、僕の胸に擦り寄ってくる

だから僕はようやっと自分の席に戻って、

その子グマを抱いたまま腰掛ける


「ごめんな〜

さっきはあんたを人食いみたいに言っちゃって!

こうやってまじまじと見てたら、

ほんとに可愛いな! こんのー!!」


「ちょちょちょ!!

くすぐったいって!

やめてよ〜」


スーパのけむくじゃら、ふわふわのほっぺたを

存分につねって、つまんで、揉んだ

それにスーパは照れながらも、

現実世界の犬猫のような愛くるしい笑顔を浮かべる


***


僕とスーパの戯(たわむ)れの只中、

突然何の脈略もなく、少ない具材を全て食べ切った

カルシュが僕に向かって口を開いた


「ところで……

ひとーーーつだけカガミ君に質問をしてもいいかネ?

この質問はこの場にいる全員が満場一致で

知りたがっているものだからネ」


「ふぉえ?? え、なんですか?」


カルシュの不意打ちに驚き、焦りながらも横を向く

そしてスーパの体をこちょこちょして遊んでいたのを中断させる


「でぇはぁ……………」


カルシュはじっくりと、じっくりと、間を貯めて

この場にいる全員が静かになってからこう口にした


「2日前の話だ

……なんで君は、

あの奴隷商人が山の頂上にいると分かったのかなネ??」


「……え?」

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