血反吐
「……え?」
「だってネぇ……
君は基礎魔法もまともに扱えなく、
見たところ特別な才もない、
なぁのぉにぃ……
あの逃げ隠れが上手い奴隷商人を見つけることができた……
それって、ちょっと出来すぎで、都合が良いとは
思わないかネ?」
ひとしきり喋り終えたカルシュ、
その黒光りの仮面の奥には
懐疑心や猜疑心に満ち満ちているように見える
「は?」
「おぉーー 確かに!
どうやって見つけたのか気になるー!」
お肉を口いっぱいに頬張っているプラティ様、
彼女がモゴモゴさせながらも話に割り込んできた
100%純粋な気持ちで聞いてくるのが、
却って僕の退路を悉く塞いでいっていることに
いい加減気づいて欲しい
「カガミ君?
突然聞いてしまい、申し訳ないという気持ちはあるけど……
どうしてもそこだけが気がかりなんだよネ
答えてくれる?」
まずいまずいまず……い
ど、どうする?
どうすればいい?
勿論、嘘偽りなく正直に未来予知のことを言うのが
いっちゃんベストなのだが……
どうしてもの懸念点となっているのが、あの港町の病院での出来事だ
ルナーシュ様に奴隷商人が山頂に居ると
豪語した時、その根拠を求められ、
馬鹿正直に未来予知のことを喋ろうとした
……そしたら吐血をしてしまった
『未来予知』、
その単語を言い切る前に何故かつっかえてしまい、
言葉を繰り出せすことができなくなり、
そのまま血を吐いたのだ
このメカニズムは当然だが分からない
この力を与えた神にも神なりの事情があるのだろう
それよりも今考えるべきことは、
今、ここで、未来予知のことを話しても大丈夫かどうかだ
もし《《『未来予知』という単語を口にしてはいけない》》というルールが
あの病院に限らない不変の約束だとしたら、
現状僕は絶賛崖っぷちにいることになる
…………なら、試してみるか?
この場で超小声で喋ってみて、体に異常がないかどうかを
そしたら簡易的だがそのルールが有効なのかを
判別できるのではないか?
スーパを胸に抱きつけたまま、様々な思いや思索を逡巡させる
考えが纏まった後、
僕は椅子から立ち上がり、
抱き締めていたスーパをテリウムに手渡しでお返しする
ほどなくして、僕は元の席に戻り大きく俯き下を向く
そして僕は小さく、小さく、こう呟いた
決して誰にも聞かれないように……
「未来予知」
…………何も起きなかった
吐き気も眩暈も動悸も倦怠感も……
待てど暮らせど、一切合切なかった
唯一、みんなからの僕を訝しむような視線があり、
それによる気まずさはあった
さぁ、これで未来予知のことを言っても大丈夫という
根拠は得ることができた
ただ、まだ確信には至っていない
僕はもう二度と、血なんて吐きたくないので
石橋を叩いて渡るくらい慎重にいきたい
なので再度、僕はこう呟いた
「未来予知」
もう1回、
「未来予知」
ダメ押しで、
「未来予知」
……なにも変化らしい変化はなかった
ただただ、僕を怪しむ視線がさらに強まっただけで
「よーし! これで確信に至った!!
みんな耳をこっちに傾けてくれ!」
顔を上げ、既に僕に視線を向けてくれている5人と1匹を見渡す
したらば両手の掌を机に押し当て、
勢いのままに立ち上がり、こう言った
「僕があの奴隷商人を見つけることのできた理由、
それは……!!
みr…………
ウゥゥッッッッッッッッ
ガハッ、」
眼下には一面、鮮血に染まった机がそこにあった
***
「ちょっと!?
フウマ! フウマ!!
大丈夫なの!?」
真っ先に反応したのはルナーシュ様だ
恐らくあの病院での一悶着があったから、
人一倍警戒してくれていたのだろう
素早く大机を回り込み、怯え体がすくんでいる僕の背中をゆすってくれる
そのまま彼女は僕を椅子に優しく座らせて、
首あたりに手をそっと当てる
そしたら瞬く間にその手が水色の光球に包まれていき、
青色の光の粒が続々とその球の中に入っていっているのが見えた
「今治癒魔法かけているから!
治るまで我慢して!!」
「待ってくださいルナーシュ様!!
治癒魔法は私の方が得意ですので、どうぞ任せてください!」
すかさずマヤが焦りを隠さずに声を張り上げる
その紫色の髪をゆらしながら僕に駆け寄ってきた
その間も僕は、
喉奥に感じる微妙な血液の感触を排除するため、口を動かし続ける
でもってルナーシュ様からマヤへ治療担当を交代する
その瞬間、
僕は失血によって意識を失っていた
***
「うぅ……う、ぅ」
「あ! やっと起きてくれた?
も〜心配させすぎないでよ」
「その声はルナーシュ様………
じゃなくてスーパか」
極度の疲労感を感じながらも体をゆっくりと起こしていく
僕は白のベットの上にいて、
右側には子グマのスーパがいた
彼は人並みの大きさの椅子にちょこっと座っていて、なんとも可愛らしい
「なんでちょっと残念そうなのさ?
目覚めた時、隣にいるのはルーナの方が良かったの?」
「残念に聞こえたのはそっち側の幻聴だと思うよ……
あと、勝手に脚色しないでくれ」
「ん? 今、さらって流しちゃったけど
……ルーナって?」
「これはルナーシュの渾名だよ〜
ルナーシュの”ルナー”の部分取ってチョコっといじったら
《《ルーナ》》の出来上がり!
僕と彼女ってなんだかんだ付き合いが長いから、
いつのまにか渾名で呼んでたんだよね〜」
スーパは椅子の上に直立して立ち、
小さく腕組みをする
「フーマもルーナ呼びしてみたら?
一気に親近感湧いちゃうよ?」
「いやいや……
僕にはとても……時期尚早すぎます
それと、この部屋は?」
僕の体を襲う疲労感は、夕食の時のとは比にならない程だ。
それ故に、発する声には微塵も元気が籠もっていない
「ん? あー
ここはさっきの居間とは別の部屋、
まぁ〜 強いて名前を付けるなら……
療養室かな??」
「そんなんすね……
質問続きでごめんだけど……
僕は何分くらい意識を失って?」
「分単位じゃないよ!!
ざっと、倒れた時から半日も経ってるよ!
もう日も跨いじゃったし……
だーから、無理せずにそのまま朝まで寝てていいよ」
僕が被っている布団の上に飛び移って、
スーパは気遣ってそう言ってくれた
「お言葉に甘えて、そうします……
ああっ、寝る前に1つ……
お願い事をしてもいいですか?」
覇気のない声でそう問いかける
スーパは悩むことを一切せず「いいよ!」
と即答してくれたので話を続けた
「他のみんなに言っておいてください
”あの奴隷商人を見つけれた理由は話せない”……って」
「…………分かったよ
じゃあ善は急げ、ってことで今からみんなに伝えてくるよ!」
そう言い残し、スーパは二足歩行のまま部屋から出ていった
彼はドアノブに手をかける時、
身長が足りないせいでドアノブにまで右手が届かず、必死にジャンプしていた
それが僕にとってのせめてもの癒しだった
それを見届け、僕1人となった空間で僕は力無く、こう呟く
「はぁ……
これでよかったんかな
余計にあの変態仮面の疑念を深めるだけになった気がするんだけど……
現時点の一番の折衷案が占いとかお告げとか、
《《未来予知以外の嘘の手段》》を伝えることだと思うけどぉ…
今からでも遅くないし実践してみる?
いやぁ……
でも、それすらもアウトだったらどうする?
血を吐くなんて不快な感覚、二度と味わいたくないんだよな……」
「さっきから何をぼそぼそ喋っているの?
私が入りづらくなっちゃうから止めなさい、カガミ」
閉まり切った扉の奥から、冷淡な少女の声が聞こえた




