平和という名の休戦期間②
テリウムが用事によって退出した後、
この部屋には僕とルナーシュ様の2人しかいなくなった
男女が同部屋に2人きり……
何も起きないはずがなく………
***
「誠に、申し訳ありませんでした!!!!」
僕は椅子から降り、地べたにひれ伏した
そして頭の額を床に押し付けて
古来から伝わる日本式土下座をしていた
「ふふっ笑
いつ謝ってくれるのかなって思ってたら、
やーーっと! 謝ってくれたわね」
ルナーシュ様は「やっと」の部分をやや強調しながらも
頭を下に傾け、土下座をする僕の後頭部をじっとみる
足を組むとかいう本来なら
高圧的な意味を持つ行動も、ルナーシュ様にかかれば気品と優しさすら感じられる
「はい……
申し訳のしようがありません
先般の奴隷商人について、
ルナーシュ様のご忠告を無視して
脅すような真似をして
果てには、吐血まで浴びせてしまって
……どうか私目のご無礼をご容赦ください」
額をグッと床に押しつけたまま精一杯の謝罪をする
この行動をした理由は
相手が侯爵家のご令嬢だから、ってのも当然あるが
なによりも普通に、僕と同じ年齢くらいの少女にこんなことをしてしまったのが
申し訳ないと心から感じたからだ
正直土下座なんて、友達同士のネタでやる以外で初めてしたけど……
想定よりも気まずい空気が充満していた
「まぁまぁ 取り敢えずその姿勢、
よく分からないからやめて頂戴ね」
ルナーシュ様は
ロッキングチェアを前後にゆったりと揺らしながら
僕に恩赦をよこしてくれた
それを聞いて、僕は顔をあげ正座をする
一応まだ申し訳なさを出すために
ルナーシュ様に見せる表情は固くしておこう
「いいのよいいのよ……
結果的に私も助けられたんだしね
でも……
私を説得してくれたあの患者さんがいなかったら
もしかするとあなたを見つけ次第、首チョンパしてたかもね〜
私ってあの時、すんごく怒ってたもの」
ルナーシュ様の剽軽な笑顔はそのままに
手で口を隠すような仕草を見せる
彼女のくすくす笑うその態度には微塵も悪意がない
……ように思われる
「だーからあの患者さんにもしまた再会したら、
お礼を言ったほうがいいわよ」
「えーえっとぉ
チョンパって……
そのギロチンとかの処刑……ですよぉ……ね?
は、はは、はははは…… 流石冗談がご上手ですね」
正座による脚の痛みとルナーシュ様の恐ろしい宣言が合わさって
体が身震いを起こす
「うふふっ 本当よ!
私、嘘はつかない主義だから!
でーも、そんなのはもう過去の話
今は半分くらいは感謝の気持ちがあるわよ!」
「はは 後半分は怒りのままなんですね……
自重します」
***
その後、僕はこの屋敷とこの国についてルナーシュ様から
いろいろなことを聞かせてもらった
この国の名前はマイン王国で,
曰くこの異世界で最も国土面積が大きい王国らしい
そんで中央には王都があって、
そこから国土の東西南北の端にそれぞれ広大な侯爵領があり
このマグレガー家はその内、西側の国境警備を担当してるとのこと
さらにマイン王国の西側は唯一他国と国境を接しているので
4つの侯爵領の中で最も交流が盛んな土地であることも
***
「笑 なんか急にスケールが大きくなってきたな……
えっと確か侯爵って立場的に言ったら国王、公爵に次ぐお立場ですよね?」
「ええ、まぁそうよ」
改めて僕は椅子に座り直し、
ルナーシュ様と真正面で向き合う
彼女の白髪は朝日に照らされて眩く輝いていて、
なんとも幻想的な容貌だ
「えぇと……
それで1つだけ疑問なんですけど、
なにゆえあなたのようなお偉いさんがわざわざ危険な奴隷商人討伐へ?」
僕は彼女に率直な問いをぶつけた
こういう危険な犯罪集団の確保とかって
高位な立場にいるルナーシュ様のような貴族ではなく
この世界にいるかは分からないが、警察とか軍隊とかに任せるのが
道理ってもんじゃないのか?
というのが僕の腹の中だ
僕のクエスチョンに対して、
彼女はふふんと可愛らしく鼻を鳴らして、自信に満ち溢れた様子で
話し始めた
「ふふっ、愚問ね
なぜかといわれれば……
王都からの殺害の依頼、まぁ命令ね
それが下ったの
もっちろん私も以前から征討を目論んではいたんだけど、
あいつらって悔しいけど中々のやりてでさ……
居場所、移動経路、顔……
ほとんどが不明のままだから、私も手をこまねていていたの
んーで、そんな時に王都から
あいつらの居場所とかの情報提供の代わりに
奴隷商人の殺害と、被害者の保護の命が下って__って感じ
ちょっと言い方おかしいかもしれないけど
あいつらの討伐って昔からの、
……悲願だったの!
なんてったって、
他の国へ奴隷として船で送られた国民は
外交上の関係で、2度と連れ戻すことができなくて……
そのせいで今まで何千、何万もの無辜の人たちが
見知らぬ土地で働き、苦しみながら……死んでいって…………」
未練を抱えたまま死んでいった御霊に思いを馳せて、
ルナーシュ様は苦しそうに泣き始めてしまった
彼女の色白の肌が感情の高まりによってやおら紅潮していく
「______ごめんね
みっともないとこ見せちゃって……」
約30秒もの間、
彼女の静かな哀咽の声がこの空間に響きわたる
やがてルナーシュ様は涙に濡れた目を袖で拭い取り、
再び声に優しさと穏やかさが宿った
「いえ、みっともなくないです
全くもって、
……むしろかっこいいですよ 人を思って泣ける人って」
「そうなの? だったらいいけど……
だから、そんな奴隷商人らの居場所を突き止めて
新たな犠牲者を生むことを防いでくれた、フウマには
返しきれないくらいの恩がある……のよ」
際限なく溢れ出てくる涙を必死に抑えて、
ルナーシュ様は僕に感謝の言葉を言ってくれた
「そんな苦しそうな顔をなさらないでください
これ以上あいつらによる犠牲者は生まれなくなった___
今はまず、そのことを喜びましょうよ」
「……うん!! そうね!
フウマの言う通りだわ!」
ルナーシュは普段の調子を完全に取り戻し、
ただの元気活発な少女へと回帰した
彼女は真正面に座っている僕ににっこりと優しく微笑みかけた




