これからの予定
「そういえばですけど……
僕って怪我の治療が終わったら
どうしたらいいんですか?」
「あーー………
別に恩人みたいなものだから
居たければいつまでも居てもいいけど……
どうする?」
「……あぁ でしたら
僕って今現在進行形で無職なので……
近くの街とかでなにか定職につけるまで
この屋敷に居候させてもらいますね?」
「え? 無職って……
あなた……奴隷商人に誘拐される前は何をしてたの?」
「あ……あぁ…………
えーっとぉ、
僕は北にある国から放浪の旅でここにまで来たんです
それに故郷に戻ったとしても、頼れる人がいなくて……」
この場で作った即興の嘘をぶつけたが、
普通に少女は疑う様子もなくこのことを信じてくれた
「そ、そうなんだ
あなたって思ってたよりも絶体絶命の状況だったのね?
……分かったわ
この屋敷から出て、山1つを越えると領内に街があるから
怪我が治ったら、そこであなたのお仕事探し___
それが当面の予定で大丈夫?」
「はい! 大丈夫です!」
「まぁ……最近はこの王国全体が不景気で
手に職つけるのはなかなか難しいから
最低1ヶ月は探すのにかかる、って覚悟したほうがいいわよ」
ルナーシュ様は表情をさらに曇らせ、
深刻そうに僕に忠告をしてくれた
そうか、異世界だとしても人々の営みによる経済自体はあって
それによる好況、不景気も当然あるか
……なんか、現実世界と同じで興醒めしてしまうな
……それで突飛な質問なんですけど
あの港町の山の頂上にいた、鉄格子の中にいた人たちは無事でしたか?
それだけが心配で……」
質問できそうな隙間を見つけ、僕は彼女に問いをぶつけた
僕はあの檻にいた人たちの安否を確認できないまま
気絶してしまったので、
彼らの生死が本当に気がかりだったのだ
「……うん、大丈夫
あの後、病院にいる仲間たちを山頂にまで集めて
無事に全員保護できたわ
危ない状態だった人もいたけど、死者0よ
今は食料を与えて、病院で治療している最中」
「そうですか……
まじで、まじで良かったぁ」
「ふふっ、本当にね
これも全てあなたの手柄だからね
……そろそろ《《あなた》》呼び、止めたいんだけど
あなたの名前ってなんだっけ?」
少女は首を傾げて、テリウムの方を向く
テリウムは慌てて首を横に振り、自分も知らないことを表明する
「あぁーー……
そっか……
まだお互いに自己紹介してなかったわね!!
じゃあまずは私から!」
少女は思い出したかのように早口でまくしたてる
そして僕の返答を待たずに
1人で自己PRを始めてしまった
「私の名前はルナーシュね これといった特徴はないけど…
一応マグレガー・カルシュっていう侯爵の里子ね
今は……お嬢様ごっこ?をしてるわ」
「あー ありがとうございます
では次はぼk
……え?
こ、侯爵?
このお屋敷の主人が??
は……ははっ 笑えない冗談ですね」
「何が冗談なのよ笑
本当に決まってるでしょう!
マグレガー家は
ここ、マイン王国の西側の領土と国境の警備全般を担ってる一家よ」
少女は首にかけているネックレスを手に持ち、
僕に掲げて見せてくる
1センチ四方の小さなもので
外縁は紅色、
内側は馬らしき動物の印が彫られていた
あれが恐らくこのマグレガー家?の人間であることを示す
徽章なのであろう
「はは……
それであなた様はその侯爵様の里子という訳と……」
「__? ええ、そうよ」
「…………笑
いやいやいやいや……
本当に、ほんとーーーうに無理です嫌です!!
私を下界に連れ戻してください!!
僕ってただの庶民一般ピーポーですよ!?
いくら僕がパシリ日本チャンピオンだからって
王国の貴族の屋敷にづかづかと分け入ってイイと思いますか!?
いいわけないじゃないですか
早く僕をここから追放してください!!!」
毛布を乱雑に散らかし,ベットの上で胡座をかく
そして少女の肩を掴み涙ながらに訴える
普通に考えてもよいのなら,
こんな他人の家で堂々と胡座をかくなんて
非常識極まりないのだが……
今は体中を走り回る衝撃が僕の思考をジャックしているから
この暴走を止めることはできない
「おいてめぇどうしたいきなり!!
病人なんだろ? だったら大人しくしとけって!」
「そうよ、一旦落ち着いて……
いーったん落ち着いてみよ? ね?」
少女は肩に乗っかっている手をぱっと払う
浮かべる表情には焦りと驚きが共存しているようだ
そりゃそうだ
さっきまで普通に応対できていた人物が
突然肩を掴んで発狂し始めたのだから
「やめてください!!やめてください!
出せ!! 出してー!!
僕をぉぉ追放しろーー!!」
***
約1分強の押し問答の末,僕はなんとか理性を取り戻すことができた
少女はベットの下から折りたたみ式の椅子を用意してくれる
キリキリとした痛みを感じながら
僕は地に足をつけ椅子に腰掛けた
「はぁはぁ……なんとか冷静になれました
つ,つまりあなた様は貴族のご令嬢様で,
ここの領土と国境の警護をしていると……」
そしてゆっくりと息を吸って,吐いて
呼吸を整える
結果,1メートルほどの間隔を空け
僕と少女が向かい合う構図となった
「令嬢とかそんな大層なものじゃないけどね
そ れ よ り !
もう『あなたさま』じゃないでしょ!
ルナーシュって名乗ったんだから」
少女は若干の照れを見せながら,
赤く熟れたほっぺたを膨らませる
「そ,そうですよね
では,ルナーシュ様これから宜しくお願いします……」
「はい!! こちらこそ!
それで次は貴方の番ね」
ひとしきり自己紹介を終えた少女______
ルナーシュ様は両手をももの上にポンと乗せて
僕の返答をじっと待つ
「あ…ああ そういえば
次は僕の番でしたよね……
では,僕の名前は
各務 楓馬…………
いやカガミ=フウマ!!!
古生物学者志望で,大学では地球惑星科学科所属!
そして全日本パシリ選手権三連覇の,
人呼んでパシリの王である!!」
椅子から立ち上がり思いっきり胸を張る
その表情は虚偽の自信とプライドに満ち満ちている様だ
因みに自己紹介でパシリという文言を使ったことについてだが……
パシリだったのは退屈なだけであって別に苦痛ではなかったから
この際,ファーストインパクトのために利用させてもらった
「……ださっ」
少女の隣に立っていた男……
テリウムが静寂の中でそう小さく呟く
「んだと,テリウム!!
人の華々しい経歴を軽く一蹴だと?!
いいぜ 売っている喧嘩は勝てるものだけ買うのが僕だ
表立とうぜ!!」
僕は座っていた椅子から離れて
テリウムのそばにまで歩いて詰め寄る
「ちょっっと…」
少女は大きく動じることのなく
椅子の肘掛けに軽く腕を乗せる
そして笑い4、怒り6くらいのブレンドで呆れるように僕を諭した
「はい……ごめんなさい」
椅子に座り直す
言葉にはしにくいが正直なところちょっとだけ楽しい
ここ直近,苦しい体験しかしていないから
こうやって誰かとドタバタふざけ合うっていう……
ただそれだけ……たったそれだけのことなのに,
今はそれが途轍もなく楽しく感じる
「まぁいいや,
それじゃあ改めてこれから宜しくね!
フウマ!!」
少女の怒りは再び消え失せて僕に微笑みかける
「承知しました!
ルナーシュ様!!」
背筋をきっちりと伸ばして,少し前のめりになる
したらば変に噛まないように口の中の唾を引っ込めさせて
僕は元気よく返事をした




