ご挨拶と試練
シリーズ第3弾
彼のご両親へ挨拶しに行くことになった。
彼は、彼女と付き合うことを両親に知らせ、
彼女を実家へ招待し、紹介すると言ってくれた。
「凄い。とんとん拍子で進んでいる」
「ラティ、そのにやけ顔なんとかならんか?」
今は依頼が終了し、今回組んだパーティのメンバーは、荷馬車に揺られながら
ギルドへ帰還するところだ。
南の地区での盗賊討伐依頼で、6人。
今回は、Aクラス以上の者達だけのパーティだ。
ギルド長から直々に、彼らは集められた。
「それにしても、Aクラス以上の人間が6人集められると、凄いですね」
「いや~、この目で氷のアサシンの攻撃、初めて見たけど圧巻だね」
「そうそう、Aクラスの私でもあの動きは着いて行くのが必至」
「息が上がってたからなあ」
「はははは、もう少し体力が必要だな」
今回のAクラスは、20代半ば~30代の者達。
ラティと女性魔術師ベル以外は、既婚者の男性。
彼らの話題は、戦い方や討伐の時の反省等。
ラティとベルは、直ぐに蚊帳の外になる。
「まあ、仕方がないですね。男性はいかに倒せるかが問題のようですから」
「ははは」
ベルの話に、ラティは乾いた笑いになる。
「ラティは、見た目美青年だけど、中身は本当に女性なのね。
最近よくパーティでお会いしますから、ようやく人となりが
分かってきましたわ」
ベルは、興味深々でラティを見つめてくる。
「そうそう。それで、さっきの話ですが、アーティア様のご両親へ挨拶?」
「・・・、まあ、そうなんだけど」
急にしおらしくなっていく。
「あらあら、先ほどは、楽しそうでしたのに」
「う~ん。嬉しいし、楽しみなんだけど。私は外見が・・。
ラリーのご両親にどう思われるかと思うと、だんだん不安になってきた」
深刻そうな顔になっていく。
「ははは、大丈夫だよ」
「ランスロッド・アーティア殿の両親なら、大丈夫さ」
急に男性陣が、話に入ってきて、ベルが怪訝そうな顔つきになった。
「まあ、どうしてですの?何か知っていらっしゃるの?」
「ランスロッド・アーティア殿の父親については知らないのか?」
聞かれて、知らないことに気付く。
「北軍の副将軍だぞ」
「そういえば、何も知らない」
「ははは。気楽な氷のアサシン様だな」
男性陣が笑うと、ラティは複雑な心境になってきた。
もしかしたら、婚姻するかもしれない彼の両親。
「あ、ちょっと。氷のアサシンって、何?」
「お前の事だ」
「私?何それ」
「え、知らないの?ラティは、ギルド「ベルバ」の美青年の凄い冒険者で
2つ名が氷のアサシンと皆に言われているよ」
ベルが何気に返答すると、ラティは顔を青くさせて酷く動揺し始める。
「ええっ、何その変なニックネームは」
「ニックネームって、お前いくつだ」
「通り名って言うんだ」
律儀に教えてくれる男性陣。
ラティはそれどころでない。
「誰、そんな変な通り名。嬉しくない。凄い冷たいイメージ。
そんな通り名知られたくない~」
「たぶん、知ってる」
ベルの言葉に、その場にいた全員が頷いた。
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ギルド前に到着すると、今回のリーダーの男性が、受付で話をして
書類を書いて終わりになった。
「じゃ、久々の休暇だな。じゃ、またな」
「おう、またな」
ギルドの玄関前で解散となった。
「ラティ、頑張って」
全員に応援されながら、ラティはひとり落ち込み気味の家路に急いだ。
「あ、お帰りなさい」
「お譲さん、アーティア様が応接間でお待ちです」
店の前で、従業員達に言われて、ラティは慌てて応接間へ走った。
扉を開けると、両親と雑談中。そして、いくつかのドレスが並べてあった。
「あ、ラティ、お帰りなさい」
「見て、貴女に合うかどうか、似合いそうなデザインと選んでみたのだけど」
1着手にして、扉前で立ち尽くすラティの前にドレスを肩まで上げると
母は困った顔、父は「う~ん」、ラリーも驚きの目をする。
(どういう反応なんだ)
「やだわ。似合わない」
「そのデザインがかな。こっちのは」
いくつか合わせてみるが、顔が青年ばかりに、可愛らしいドレスはどれも
似合わず。
どうしても女装に思える。
「ラティ。普段はどんな服装?」
ラリーに聞かれて、男子が着るようなズボンが多いと伝えると
「え・・、まあ、男性でも女性でも着る感じの中間的な服装かな」
「そうか」
いろいろ話し合って、可愛らしいドレスでなく、マーメイドタイプはどうかと
従業員が持ってくると、
「これならなんとか」
ただ、ラティの心情は、可愛いドレスが似合わない自分が情けなくて
椅子に座ると、項垂れた。