↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/8

水谷ガラシャという女性


『こないだ戦国映画見て知ったんだけど、水谷さんのガラシャって名前、細川ガラシャからとったの?』

『いや、赤ん坊の私が動くと"ガラシャ ガラシャ"って音がしたから、らしいです。』

『え?おもちゃのガラガラ持ってたってこと?』

『さぁ。』


その会話が耳に入った時から、

俺の脳内では、水谷さんが歩いているのを見るたびに、"ガラシャ""ガラシャ"と、巨大ロボのような効果音が鳴った。


それは物静かな水谷さんには、一見不似合いな気もするが、不思議と自分の中でしっくりきた。



『黒田くんって休みの日何してるの?』

『趣味とかあるの?』


高校生くらいから、環境が変わるタイミングでこの手の質問をよく受ける。


『何もしません。』

『ありません。』


ただ俺がありのままを答えていると、段々と周囲から人は減っていく。


時々、「図書館司書なんてやってて、本も読むなら、読書が趣味だろう」と指摘されることもある。


そういう時は

『僕の中で読書はあくまで暇つぶしで、好きで読んでいるわけではありません。他の時間つぶしがあるなら読んでいません』

と答える。


子供の頃から本は沢山読んだ。


本が好きだからではない。

したいことのなかで、許されることが読書しかなかったからだ。


俺は生後3日で、仁王立ちしたらしい。

生後1ヶ月には歯も生えて、ベビーチェアから乗り出して、親のごはんをつかみ取って食べ

5ヶ月には、もう走っていたとか。

とにかく力が有り余っていた。


だけど力を振るう先も無く、運動や格闘技を習っても、続けると段々嫌な空気になって自分から辞めた。

必ず、賞賛の中に、疑念や恐怖が混じる瞬間が訪れるのだ


本は良かった。

一人で読んでいれば、両親に迷惑をかけることもないし、一日を持て余すことが減る。


身体と同様に、頭の回転も早くて、理解したり覚えようと思えば、それこそ勉強も難なくこなせた。

ただ興味は持てなかった。


だから全てほどほどで、一回きりで辞めた。


唯一何回も繰り返したのは

"桃太郎"の絵本だ。

俺は桃太郎が羨ましかった。


桃から産まれたおかしな出自にも関わらず

何も疑うことなく強く育ち、

存分に力を奮う、鬼ヶ島や鬼まで用意されている。

きっと、倒したところで誰にも咎められることもない、何なら大義名分のもと、正義として大暴れできる。


(ものすごく、スッキリしただろうなぁ…)


地下にある閉架書庫、古くなった絵本をしまっている時、大量にある桃太郎が目に入り、ひさしぶりに子供の頃の憧憬に浸ってしまった。


ガシャガシャガシャガシャガシャ


突然、書庫の巨大なラックが移動する音が鳴り響き、俺の意識は現実に戻る。


(俺以外居たか?)


しかも巨大ラックを移動させる時は安全上先にアナウンスを流す。

俺は不思議に思って動き出しているラックに小走りで近づいていく。


(な、なんなんだ?)


ラックが、勝手に動いていた。

誰もいないのに、書架の脇のハンドルがぐるぐると回転している。


(車輪がイカれた?超常現象?)


俺はハッとして、今まさにピッタリと重なり合いそうな巨大な本棚と本棚の間の見える位置に走った。


何と、今にも押し潰されるその場所に、水谷ガラシャが突っ立っていた。


俺は慌てて本棚のレバーの位置に移動すると、ぐるぐる回転するハンドルを掴んで反対回ししようとする。


(な、なんなんだ、この!止まれ!)


ハンドルは俺の馬鹿力を持ってしても回転を押し留めるのが精一杯。

なんなら、やや押されている。


見えない巨大な"何か"が、ものすごい力で本棚の間の水谷ガラシャを押し潰そうとしている。


『ぬぐ、ぐおおおぉぉぉぉぉ〜!』


俺が、気合いの声と共に、全力を持ってハンドルを回す。

なぜか腹の下腹部が燃えるように熱くなったが、気にしている場合ではなかった。


その時だった


本棚の間から


ガラシャ ガラシャ ガラシャ ガラシャ


と、何か硬い、複数の物が、ぶつかり合う音がした。

俺は音に構わずハンドルを回し続ける。


ガラシャ ガラシャ ガラシャ ガラシャ


不意にハンドルが回しやすくなる。


俺はそのままぐるぐると回して、本棚と本棚の間は、人一人分の優に取れるほどの隙間が空いた。

不思議なことに、ハンドルの謎の回転も止まっていた。

俺は、急いで本棚の隙間に入り込んで、水谷ガラシャに近寄った。


水谷ガラシャは何事も無かったように、ただ立っていた。

そして俺の脇をすり抜けて、閉架の階段を上って出ていった。


彼女の顔色が、いつも土気色とは比べ物にならないほど、血色が良かった気がした



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。