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俺の知ってる戦国時代と違う! ~歴史知識が通じない世界で、優秀すぎる家臣たちが天下を目指す~  作者: チャプタさん


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第九十八話 動かぬ主

第九十八話 動かぬ主


「殿は天下を望まぬ。されど、天下が殿を望んでいる」――この言葉が、保護圏全体に、静かに、しかし確かに、広まりつつある頃、拠点には、これまで以上に、重大な意思決定を、迫られる場面が、続いていた。


ある日、これまでにない、極めて重要な案件についての、緊急の会議が、開かれることとなった。義元本隊が、これまでの方針を、大きく見直そうとしているという情報が、確かなものとなりつつある中、この機に、今後の東海地方全体の情勢を、どのように見据えるべきか――その重要な議論が、四天王、そして、主要な旧臣たちを交えて、行われることとなったのである。


私は、その会議の開始を前に、これまでにない、深い重圧を感じていた。(この会議で、これからの、俺たちの、そして、東海全体の未来を、決めることになるのかもしれない。俺には、そんな重大な決断を、下す自信なんて、正直、全然ないのに)


会議が始まると、居並ぶ面々は、次々と、それぞれの立場からの意見を述べていった。ある旧臣は、この機に、より積極的な外交戦略を、展開すべきだと主張し、別の豪族は、慎重に、現状維持を保つべきだと、提案した。議論は、次第に白熱し、様々な意見が、複雑に、交錯していった。


私は、その議論を聞きながら、次第に、精神的な限界を感じ始めていた。(みんなの言うことは、それぞれ、もっともに聞こえる。でも、俺には、この中から、最も正しい答えを、選ぶ自信なんて、全然ないんだ……)


議論が長時間に及ぶ中、私は、これまでにないほどの、深い疲労を感じていた。頭が重く、思考がまとまらない。責任の重さが、これまで以上に、私の心を、圧迫していた。


(もう、限界だ……。これ以上、この重圧に、耐えられない)


会議の途中、私は、ついに、その場で、意識が朦朧とするのを感じた。誰かが、私の名を呼ぶ声が、遠くから聞こえてくるような気がした。しかし、私は、その声に応える気力すら、もはや残っていなかった。私は、その場で、静かに、深い眠りへと落ちていったのである。


会議の場は、突然の私の様子に、一瞬、動揺の色を見せた。しかし、四天王たちは、すでに、慣れた様子で、いつもの解釈へと、切り替えていった。


「殿は、この重大な局面において、あえて、深い熟考に入られたのだ」一益が、落ち着いた声で告げた。「我らは、殿の御下知を待つのではなく、これまでの殿の御方針を胸に、自らの判断で、事に当たらねばなるまい」


こうして、私が意識を失っている間、四天王を中心とした会議は、私の与り知らぬところで、着々と進められていった。彼らは、これまでの拠点の方針――力による支配ではなく、慈しみによる庇護、そして、犠牲を最小限に抑えながら、確実に相手を疲弊させていくという戦略を、改めて確認し、義元本隊の変化に対する、具体的な方針を、練り上げていったのである。


数時間後、私は、ようやく意識を取り戻した。目を開けると、拠点の一室に、静かに横たわっている自分に気づいた。傍らには、心配そうな表情を浮かべた、お市の姿があった。


「兄上……。お目覚めになられたのですね」お市が、安堵の声を漏らした。


私は、ぼんやりとした頭で、身を起こした。「会議は、どうなったんだ?」


利家が、その場に現れ、誇らしげに報告した。「殿、御安心くだされ。殿の御沈黙の間、我らは、殿のこれまでの御方針に従い、今後の方針を、しっかりと取りまとめましてございます」


私は、その報告に、複雑な思いを抱いた。(俺が倒れている間に、みんなが、ちゃんと物事を進めてくれていたのか……)


一益も、続けて報告した。「殿の御沈黙、まことに大きな意味を持っておりました。あの重大な局面において、殿が、あえて動じることなく、静かに構えておられたことで、我らも、冷静に議論を進めることができました」


私は、その解釈に、もはや、訂正する気力もなく、ただ曖昧に頷くしかなかった。(俺、単純に、疲れすぎて倒れただけなんだけどな……。でも、結果的に、みんなが、ちゃんと方針を立ててくれたなら、それでいいのかもしれない)


その後、私は、藤吉郎から、決定された方針について、詳しい説明を受けることとなった。「殿、此度の会議において、我らは、今川方の変化を、慎重に見極めつつ、これまで通り、平和を最優先とする方針を、貫くことと、決定いたしました」


私は、その方針に、深く頷いた。「うん、それでいい。それが、俺の、一番望んでいることだから」


その夜、私は寝所で一人、この日の出来事を、静かに振り返っていた。(俺一人が、すべてを決めなくても、みんなが、ちゃんと考えて、道を切り開いてくれる。それって、本当に、ありがたいことなんだよな)


その素朴な感慨を胸に、私は、静かに、再び眠りへと落ちていったのだった。以後も、こうした重要な局面で、私が精神的な限界から、意識を失う――あるいは、深い眠りに落ちる――という出来事は、拠点の中で、確かな伝統として、繰り返されていくこととなるのである。

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