第九十二話 保護を望む者たち
第九十二話 保護を望む者たち
堺の商人との交易が始まり、拠点周辺の経済が、さらなる発展を見せる中、この繁栄と平和の噂は、これまで以上に、多くの地域へと、広がりを見せるようになっていた。ある日、拠点に、伊勢、そして美濃から、避難してきたという、多くの人々が、次々と訪れることとなった。
「信照様、御助けください」その一団を代表する、初老の男が、切迫した様子で訴えた。「我らは、伊勢の内乱に巻き込まれ、住む場所を失った者たちにございます」
私は、その話に、深い同情を覚えた。「それは、大変な思いをしたんだな……」
(訳:戦乱に巻き込まれて、住む場所を失うっていうのは、本当に、辛いことだよな)
男は、続けた。「信照様の保護圏では、戦乱から逃れ、平穏に暮らせるという話を聞き、藁にもすがる思いで、この地を目指して参りました」
私は、その切実な訴えに、深く頷いた。「分かった。とりあえず、安心して、休める場所を用意しよう」
私は、藤吉郎に、この避難民たちの受け入れについて、迅速な対応を求めた。「藤吉郎、この人たちが、安心して暮らせるように、力を貸してくれるか」
(訳:住む場所を失った人たちが、これ以上、辛い思いをしなくて済むように、何とかしてあげたいんだ)
藤吉郎は、深く頷いた。「承知いたしました。まずは、一時的な宿泊場所と、食糧の手配を、急ぎ、進めて参ります」
こうして、避難してきた人々は、拠点周辺の、これまで培ってきた仕組みを活用し、迅速に、生活の基盤を整えていくこととなった。空き家となっていた家屋が提供され、農作業に従事できる者には、未開の土地が、開墾のために与えられていった。
数週間後、私は、この避難民たちの、新たな生活の様子を、実際に見に行く機会を得た。かつては、不安と絶望に沈んでいたはずの彼らの表情には、今や、確かな安堵と、これからの生活への、静かな希望が、浮かび始めていた。
「信照様」あの初老の男が、私の来訪に気づき、深々と頭を下げた。「おかげさまで、我らは、こうして、新たな暮らしを、始めることができました」
私は、その言葉に、素直な喜びを感じながら答えた。「みんなが、少しずつでも、落ち着いて暮らせるようになったなら、それが、何よりだよ」
男は、続けた。「信照様の御庇護がなければ、我らは、いまだ、当てもなく彷徨っていたことでございましょう。この御恩、決して忘れませぬ」
私は、その言葉に、深い感慨を覚えた。(俺は、ただ、困っている人たちを、放っておけなかっただけなんだけどな。それが、こんな風に、多くの人たちの、新たな生活の礎になっているなんて)
私は、傍らにいた一益に、率直な想いを打ち明けた。「なあ、一益。こうやって、避難してくる人たちが、これから、もっと増えていくかもしれないよな」
一益は、静かに答えた。「はい、殿。保護圏の評判が広まるにつれ、こうした避難民の受け入れは、今後も、増え続けることでございましょう」
私は、その説明に、少し不安を覚えながら尋ねた。「それって、俺たちの手が、回らなくなるってことは、ないだろうか」
一益は、慎重に答えた。「殿。これまでも、そうであったように、保護圏内の各村や豪族が、それぞれ、自立した支援の体制を、着実に築いて参りました。この避難民の受け入れもまた、その仕組みの中で、確かに、対応していけるものと存じます」
私は、その説明に、深く頷いた。「そうか……。みんなが、それぞれの力で、支え合ってくれているなら、それでいいのかもしれないな」
その日の夕刻、私は、避難民たちが、新たに開墾を始めた土地を、実際に訪れる機会を得た。まだ、荒れた土地ではあったが、そこには、確かな、これからの生活への、力強い意志が、感じられた。
「信照様、この土地を、いずれ、立派な田畑に変えて御覧に入れます」一人の若者が、力強く、そう語った。
私は、その言葉に、深い感動を覚えた。「うん、頑張ってな。何か困ったことがあったら、いつでも、頼ってきてほしい」
(訳:本当に、みんなが、こうやって、新しい生活を、力強く築いていってくれるのが、俺にとって、何よりも嬉しいことなんだ)
その夜、私は寝所で一人、この日の出来事を、静かに振り返っていた。(俺は、これからも、困っている人たちを、できる限り、放っておかないようにしていきたいな。それが、俺にとって、この場所を守る、一番大事な理由なんだから)
その素朴な想いを胸に、私は、静かに眠りについたのだった。保護を望む者たちの流入は、こうして、保護圏の、さらなる拡大の、確かな一部として、その物語を、静かに、しかし着実に、紡いでいくこととなるのである。




