第八十六話 命を守る戦
第八十六話 命を守る戦
保護圏内の平和な発展が続く中、今川方は、依然として、慎重な姿勢を保ち続けていた。しかし、その膠着状態も、いつまでも続くわけではなかった。ある日、今川方の一部隊が、これまでの慎重さを捨て、拠点周辺の村へ、突如として攻撃を仕掛けてくることとなった。
一益からの緊急の報せを受け、利家は、直ちに、対応の部隊を率いて、現地へと向かうこととなった。私は、拠点で、その戦況の報告を、緊張しながら待ち続けていた。
「殿、利家殿の部隊、無事に、村を守り抜きましてございます」数時間後、一益が、報告に来た。
私は、その報告に、心底から安堵した。「よかった……。犠牲者は、出ていないか?」
(訳:これまでも、いつも聞いてきたことだけど、今回も、やっぱり、一番心配なのは、そこなんだ)
一益は、丁寧に答えた。「はい、殿。我らの側の犠牲者は、軽傷者が数名出た程度にございます」
私は、その報告に、深い安堵の息をついた。しばらくして、戦から戻ってきた利家が、拠点に姿を現した。彼の表情には、これまでにない、確かな充実感が浮かんでいた。
「殿、御報告いたします」利家は、丁寧に頭を下げた。「此度の戦、我らの側の死者は、一人も出ませんでした」
私は、その報告に、心の底から安堵しながら答えた。「本当に、良かった……。利家、ありがとう」
利家は、少し誇らしげな表情を浮かべながら答えた。「殿の御方針――兵を損なわぬ戦を、この利家、これまで以上に、深く肝に銘じて、戦に臨んでおりまする」
私は、その言葉に、深い感慨を覚えた。(利家が、こんな風に、俺の想いを、しっかりと理解して、実践してくれているんだな)
私は、続けて尋ねた。「今回の戦で、味方の兵たちの様子は、どうだったんだ?」
利家は、丁寧に答えた。「はい。皆、無事に、村を守り抜けたことを、心から喜んでおりました。中には、初めて戦に参加した若い兵もおりましたが、その者も、無事に、家族のもとへ帰ることができました」
私は、その話に、深い安堵と共に、素朴な喜びを感じていた。「その若い兵の家族も、きっと、安心しただろうな」
利家は、深く頷いた。「まことに。殿は、いつも、兵一人一人の命を、大切に思っておられます。それがしも、そのお気持ちを、しっかりと胸に刻みながら、これからも、戦に臨んで参りたいと存じます」
私は、その言葉に、少し照れくささを覚えながらも、素直な感謝を述べた。「利家、本当にありがとう。お前が、そうやって、みんなの命を守ってくれるおかげで、俺は、こうして、安心して、この場所にいられるんだと思う」
その日の夕刻、私は、戦から戻ってきた兵たちの様子を、実際に見に行くことにした。彼らは、疲れた様子を見せながらも、皆、確かな安堵の表情を浮かべていた。
「信照様」ある若い兵が、私に気づき、深々と頭を下げた。「殿の御庇護あればこそ、我らは、こうして、無事に、戦を終えることができました」
私は、その言葉に、素直な喜びを感じながら答えた。「本当に、みんなが無事で、良かった。ゆっくり休んで、また、家族のもとへ帰ってあげてほしい」
(訳:本当に、こうやって、みんなが、無事に日常に戻っていけることが、俺にとって、何よりの喜びなんだ)
若い兵は、その言葉に、深く感激した様子であった。「殿は、まことに、我ら兵一人一人を、覚えておられるのですね」
私は、その言葉に、少し戸惑いながら答えた。「いや、正直、一人一人のことを、全部覚えているわけじゃないんだけど……。でも、みんなが、無事に帰れることを、いつも、心から願っているんだ」
その様子を、傍らで見守っていた利家は、感慨深げに呟いた。「殿は、兵の顔を、すべて覚えておられずとも、その心は、常に、我ら一人一人に、確かに向けられておられる。これこそが、まことの名将の証にございましょう」
私は、その言葉に、複雑な思いを抱きながらも、静かに、その日の平穏な夕暮れの光景を、心に刻んでいたのだった。
その夜、私は寝所で一人、この日の出来事を、静かに振り返っていた。(誰も死なずに、また、こうやって、平和な日常が戻ってくる。これが、俺にとって、一番、大事なことなんだよな)
その素朴な想いを胸に、私は、静かに眠りについたのだった。命を守る戦――このシンプルな理念は、こうして、拠点の、確かな指針として、これからも、変わることなく、貫かれ続けていくこととなるのである。




