第八十五話 街道の主人
第八十五話 街道の主人
保護圏内の経済発展が、これまで以上に確かなものとなる中、拠点周辺の街道――かつて藤吉郎の発案によって整備された「信照公の街道」は、東海一円における、商業活動の、確かな中心地として、その存在感を、さらに増しつつあった。
ある日、拠点に、街道を利用する商人たちの、有力な代表者数名が、揃って訪れることとなった。
「信照様、御相談がございます」商人の代表が、丁寧に切り出した。「この街道を利用する商人の数は、日を追うごとに増え続けております。されど、その分、街道の維持や、さらなる整備に、多くの費用が、かかるようになって参りました」
私は、その話に、興味を惹かれた。「維持費か……。それは、確かに、考えなきゃいけない問題だよな」
商人は、続けた。「我ら商人一同、この街道の維持費を、進んで負担させていただきたく存じます。これも、信照様の御庇護あればこその、我らの商いの発展にございますゆえ」
私は、その申し出に、少し戸惑いを覚えた。「いや、それは、ありがたい話だけど……。無理に負担しなくても、いいんじゃないか?」
(訳:本当に、みんなが自主的に、そこまでしてくれるのは、すごくありがたいけど、負担が大きすぎないか、少し心配なんだ)
商人は、その言葉に、深く感じ入った様子であった。「信照様は、まことに、我らの負担を、常に案じてくださいますな。されど、この街道の安全と便利さがあってこそ、我らの商いは、成り立っております。この維持費は、我らにとって、決して、重い負担ではございませぬ」
私は、その説明に、深く頷いた。「そうか……。それなら、ありがたく、受け取らせてもらうよ」
こうして、街道の維持は、商人たちからの自主的な拠出によって、これまで以上に、確かな体制のもとで、進められることとなった。藤吉郎が、その資金の管理を、丁寧に担っていくこととなったのである。
数か月後、街道は、これまで以上に、確かな整備が行き届いたものへと、変貌を遂げていった。要所には、旅人が休める簡素な茶屋が設けられ、危険な箇所には、より頑丈な橋が架けられ、さらには、夜間の治安を守るための、簡易な見張り小屋までもが、設置されるようになっていた。
私は、ある日、この発展した街道を、実際に歩いてみる機会を得た。かつては、ただの、整備された道に過ぎなかったはずのその街道が、今や、確かな一つの、経済圏の中心として、活気に満ちた様相を呈していた。
「これは、本当にすごいことになったな……」私は、その光景に、思わず感嘆の声を漏らした。
傍らにいた藤吉郎が、満足げに答えた。「殿。この街道は、もはや、単なる道ではなく、保護圏全体を繋ぐ、確かな大動脈として、機能しております」
私は、その言葉に、深い充実感を覚えた。「本当に、みんなの協力があってこそだよな」
その日、私は、茶屋の一つで、休憩を取っている、旅の商人たちの様子を、興味深く眺めていた。彼らは、様々な地域からやってきた者たちであり、それぞれの土地の言葉や、商いの話を、活発に交わし合っていた。
「信照様のこの街道のおかげで、随分と、商いが楽になった」ある商人が、そう語る声が、私の耳に届いた。
「まことに。安全で、しかも、これほど整備された道は、他の土地では、なかなか見られぬものだ」別の商人も、そう応じていた。
私は、その会話を聞きながら、静かな喜びを感じていた。(俺の、ちょっとした発案から始まったことが、こんなに多くの人たちの、確かな助けになっているなんて、本当に、嬉しいことだよな)
その帰路、私は、藤吉郎に、率直な想いを語った。「なあ、藤吉郎。この街道の発展を見ていると、俺、なんだか、すごく誇らしい気持ちになるんだ」
藤吉郎は、深く頷いた。「殿の御方針――力による支配ではなく、皆の自発的な協力を重んじる姿勢が、この街道の発展の、確かな礎となっております」
私は、その言葉に、少し照れくささを覚えながらも、深い充実感を抱いていた。(俺は、天下とか、そんな大それたものは、望んでいない。でも、こうやって、みんなが、それぞれの形で、豊かに、そして安心して暮らせる場所が、少しずつ広がっていくなら、それは、決して悪いことじゃないんだ)
その素朴な想いを胸に、私は、夕暮れに染まる街道を、拠点へと向かって、ゆっくりと歩んでいったのだった。「魔王街道」――この呼び名は、以後、保護圏全体の、確かな経済的繁栄の象徴として、さらに広く、知られていくこととなるのである。
その夜、私は寝所で一人、この日の出来事を、静かに振り返っていた。(俺の小さな一言が、こんなに大きな発展に繋がっていくなんて、本当に、不思議な話だよな。これからも、みんなの力を、大切にしていきたい)
その素朴な決意を胸に、私は、静かに眠りについたのだった。




