第六十七話 義元の決断
第六十七話 義元の決断
尾張における膠着状態が、これまで以上に長引く中、義元は、ついに、これまでの慎重な姿勢を、大きく転換する決断を下すこととなった。彼は、駿府の居城に、腹心の重臣たちを召集し、これまでにない、重大な軍議を開いた。
「これまで、幾度となく、尾張への討伐を試みて参ったが、いずれも、決定的な成果を得られなんだ」義元は、重々しい口調で切り出した。「もはや、これまでのような、小手先の対応では、この者たちを、討ち果たすことはできぬ」
重臣の一人が、慎重に問うた。「義元様は、いかなる方針を、お考えでございましょうか」
義元は、しばし、深い沈黙を保った後、ついに、その決断を口にした。「尾張の完全平定を、命じる。これまでにない、最大規模の軍勢を送り、この地を、根こそぎ、我が手に収めるのだ」
その言葉に、居並ぶ重臣たちは、しばし言葉を失った。義元は、続けた。「これまでの、じわじわとした攻略ではなく、一気呵成の、掃討作戦を行う。数万の兵をもって、この地を、徹底的に制圧するのだ」
重臣の一人が、慎重に進言した。「義元様。それほどの規模の軍勢を動かすとなれば、駿河、遠江、三河の防備にも、少なからぬ影響が出ることになりましょう」
義元は、深く頷いた。「承知しておる。されど、この尾張という一国を、いつまでも掌握できずにいることこそが、我が構想全体にとって、より大きな損失なのだ。今こそ、この地に、我が全力を注ぎ、決着をつける時である」
この決断は、義元にとって、まさに、これまでの尾張攻略の総決算とも言うべき、重大な選択であった。彼の構想――駿河、遠江、三河、尾張を一つにまとめた、東海の巨大な独立国家――その完成のためには、もはや、この一戦をおいて、他に道はなかったのである。
軍議の後、松平元康もまた、この決断についての知らせを受けることとなった。彼は、自らの陣屋で、深い動揺と共に、この報せを受け止めていた。
「義元様が、ついに、最大規模の軍勢を……」元康は、独り言のように呟いた。「これまでの、じわじわとした攻略とは、まったく異なる次元の戦いになるやもしれぬ」
元康の胸中には、複雑な感情が渦巻いていた。義元の決断は、これまでの膠着状態を打破する、確かな一手であるかもしれない。しかし同時に、それは、これまで彼が積み重ねてきた、慎重な分析と進言を、根本から覆すものでもあった。
「わしの進言は、義元様には、届かなかったのか……」元康は、深いため息をついた。
しかし、元康は、今川家に仕える身として、この決断に従わざるを得なかった。彼は、自らの陣屋で、これから始まるであろう、最大規模の掃討戦への準備を、粛々と進めていくこととなった。
この義元の決断についての情報は、一益の情報網を通じて、拠点にも、迅速に伝えられることとなった。ある夜、一益が、これまでにない緊迫した表情で、私のもとへ駆けつけた。
「殿、火急の報にございます。義元様が、尾張への最大規模の掃討戦を、正式に命じられました」
私は、その報せに、思わず全身が凍りつくような感覚を覚えた。「最大規模……。これまでとは、比較にならない規模ってことか」
一益は、深刻な表情で頷いた。「はい。数万の兵をもって、尾張全域を、徹底的に制圧しようとする作戦にございます」
私は、その言葉に、深い恐怖を覚えた。(数万の兵……。これまで、俺たちが、何とか工夫して切り抜けてきたけど、これほどの規模の攻撃に、本当に、対抗できるんだろうか)
その夜、拠点全体に、これまでにない、緊迫した空気が流れることとなった。四天王たちは、緊急の軍議を開き、この最大規模の脅威に対する、対策を、必死に検討し始めた。私は、その議論の輪の中心で、これまでにない、深い不安と共に、静かに座り続けていた。
(これまで、なんとか、平和を守ってこられた。でも、今度こそ、本当に、みんなの命が、危険に晒されることになるかもしれない)
その素朴な、しかし切実な恐れを胸に、私は、この日、これまでにない長い夜を、過ごすこととなったのである。この義元の決断は、後に、拠点にとって、まさに最大の試練として、その姿を現すこととなるのだった。




