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俺の知ってる戦国時代と違う! ~歴史知識が通じない世界で、優秀すぎる家臣たちが天下を目指す~  作者: チャプタさん


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第六十五話 今川軍監の限界

第六十五話 今川軍監の限界


保護圏の経済的、そして軍事的な発展が着実に進む中、今川方の軍監は、これまで積み上げてきた分析を、根本から見直さざるを得ない状況に、追い込まれつつあった。彼は、これまで、従来の戦のあり方に基づき、様々な角度から、拠点の実態把握を試みてきた。しかし、その試みは、いずれも、決定的な壁に突き当たっていたのである。


軍監は、自らの陣屋で、これまで集めてきた膨大な報告書を、改めて整理しようと試みていた。しかし、その作業は、開始早々から、深い困難に直面することとなった。


「徴税の記録が、まったく見当たらぬ……」軍監は、独り言のように呟いた。「通常であれば、いかなる勢力であろうと、年貢や税の徴収の記録が、必ず存在するはず。されど、信照方には、そのような、明確な統治の証が、まったく見出せぬ」


軍監は、続けて、別の資料に目を通した。「兵籍も、存在せぬ……。いったい、誰が、いかなる形で、あの軍勢を構成しておるのか、正確な把握が、まったくできぬ」


軍監は、深いため息をついた。これまでの、あらゆる戦の常識――明確な統治機構、体系立てられた軍制、そして、記録に基づく資源の管理――そのいずれもが、信照方には、まったく存在しないように見受けられた。それでいて、確かに、その勢力は、着実に拡大を続けている。


軍監は、配下の物見たちを集め、改めて問うた。「信照方の統治の実態、これまで、いかなる調査を行ってきたか」


物見の一人が、答えた。「これまで、様々な角度から調査を試みましたが、いずれの村も、独自に自治を行っており、統一された統治機構というものが、そもそも、存在しないように思われます」


軍監は、その報告に、しばし深い沈黙を保った。「統治機構が存在せぬのに、それでいて、これほどの結束と拡大を見せるとは……。これは、もはや、我らが理解してきた『国』というものの、根本的な定義そのものが、通用しない存在なのやもしれぬ」


軍監は、自らのこれまでの分析を、改めて整理し、義元本隊への報告書を、慎重にまとめ始めた。「織田信照方、従来の国家、あるいは軍事勢力としての枠組みでは、その実態を、正確に捉えることが、極めて困難でございます。徴税記録、兵籍、統治機構――いずれも、明確な形では存在せず、それでいて、確かに、着実な拡大を続けております。この者たちに対して、従来の戦術、あるいは統治への圧力といった手法は、もはや、有効に機能しないものと、結論せざるを得ません」


この報告書は、義元本隊において、これまで以上に、深刻な議論を呼び起こすこととなった。ある重臣は、この報告に、強い苛立ちを覚えたという。「国ですらないものを相手に、いかにして戦えというのだ」


しかし、義元は、この報告に、むしろ、深い興味を示していたという。彼は、報告書を、何度も読み返しながら、密かに、こう呟いていたと伝えられている。「奪わず、支配せず、それでいて、着実に力を蓄える――これは、もしや、我が構想を超える、新たな国家のあり方なのやもしれぬ」


拠点においては、私は、こうした今川方の深い分析など、まったく知る由もなく、日々の平穏な暮らしを、静かに続けていた。ある日、一益が、この今川方の困惑についての情報を、私にもたらした。


「殿、今川方の軍監、我らの実態を、まったく把握できずに、深く苦悩しているようにございます」


私は、その報告に、少し苦笑した。「まあ、俺たち自身、正直、そんなに緻密な仕組みで動いているわけじゃないからな。統治とか、記録とか、そういうの、全然やってないし」


(訳:本当に、みんなが、それぞれの判断で、自然に動いてくれているだけなんだけどな)


一益は、深く頷いた。「されど、殿。この『把握できない』という事実こそが、今川方にとって、最も大きな脅威として、映っておるようにございます」


私は、その説明に、複雑な思いを抱きながらも、少し安堵した。「そうか……。まあ、俺たちが意図的に、そうしているわけじゃないんだけどな。でも、それが、結果的に、みんなを守ることに繋がっているなら、それでいいのかもしれないな」


その夜、私は寝所で一人、この一連の出来事について、静かに考えを巡らせていた。(俺たちのこの、緩やかで、自然な繋がりが、こんな風に、大きな国の統治の常識を、覆すことになるなんて、正直、まだ、実感が湧かないよ)


その素朴な感慨を胸に、私は、静かに眠りについたのだった。今川方の軍監は、この日以降も、決定的な対策を見出せぬまま、深い苦悩を、抱え続けることとなるのである。

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