第六十一話 守れる者は守れ
第六十一話 守れる者は守れ
第3部前半の終わりから数週間が経ち、義元本隊による大規模な兵の派遣は、依然として、具体的な形を見せずにいた。しかし、その静けさの裏で、拠点の保護圏内では、新たな試練が、静かに芽生えつつあった。
ある日、拠点に、美濃南部の複数の豪族から、切迫した相談が寄せられた。彼らは、それぞれ独立して、拠点の保護圏に加わっていたが、今回、今川方の別動隊による、同時多発的な襲撃に、直面しつつあったのである。
「殿、美濃南部の三つの豪族の領地が、それぞれ、今川方の襲撃を受けつつあります」一益が、緊迫した様子で報告した。
私は、その報せに、大きな不安を覚えた。「同時に三箇所……? 俺たちの兵力で、全部に対応できるのか」
一益は、慎重に答えた。「それぞれの規模は、さほど大きくございませぬ。されど、同時多発的に対応する必要があるため、拠点からの直接的な援軍は、限られたものとなりましょう」
私は、その説明に、深い焦燥を覚えた。(三箇所を、全部守るなんて、俺たちだけの力じゃ、絶対に無理だ。どうすればいいんだ……)
私は、必死に考えを巡らせた。(そうだ……。これまで、それぞれの豪族は、自分たちの力で、自立できるように、少しずつ準備を進めてきていたはずだ)
私は、四天王を前に、率直な想いを口にした。「近い者同士で、助け合えばいいんじゃないか」
(訳:拠点から、遠く離れた三箇所すべてに、俺たちの力を分散させるより、隣り合う豪族同士が、お互いに助け合ってくれたら、もっと効果的なんじゃないかと思うんだ)
その言葉に、四天王たちは、しばし考え込んだ様子であった。やがて、藤吉郎が、深く感じ入った様子で口を開いた。
「なるほど……。殿は、保護圏同士の、相互援護という新たな仕組みを、お考えになったのですな」
「え、あ、うん、まあ、そういうことになるかな」私は、曖昧に頷いた。
一益は、続けた。「これまで、我らは、拠点を中心とした、放射状の庇護体制を築いて参りました。されど、殿の御提案は、保護圏内の各勢力が、互いに、水平的な連携を築くという、新たな段階への移行を意味しております」
私は、その説明に、複雑な思いを抱いた。(そんな高尚な考え、全然なかったんだけどな……。ただ、単純に、みんなで助け合った方が、効率的だと思っただけなのに)
その日のうちに、藤吉郎を中心として、美濃南部の三つの豪族への、緊急の連絡が行われた。「殿は、皆様が、互いに助け合うことを、お望みになっておられます」――そんな言葉が、各豪族に伝えられていった。
この呼びかけに応じ、三つの豪族は、これまでにない速さで、互いに連携を取り始めた。ある豪族は、隣接する豪族の危機に対し、自らの兵の一部を、即座に派遣した。別の豪族は、物資の融通を、迅速に行った。
結果として、三箇所すべてで、大きな被害を出すことなく、今川方の襲撃を、退けることに成功したのである。
数日後、拠点に、この一連の成果についての報告が届けられた。「殿、美濃南部の三豪族、いずれも無事に、今川方を退けましてございます」一益が、誇らしげに報告した。
私は、その報告に、心底から安堵した。「よかった……。誰も、大きな怪我をしていないか?」
「はい、軽傷者が数名出た程度にございます」
私は、深く息をついた。「本当に、良かった」
(訳:拠点からの直接の援軍が限られていても、みんなが、自分たちで助け合ってくれたおかげで、大きな被害を防げたんだな)
この一件は、初めて、主人公抜きで、保護圏が独自に連携する、確かな成功事例となった。以後、この「豪族同士の相互援護」という仕組みは、保護圏全体の、重要な防衛戦略として、定着していくこととなる。
その夜、私は、四天王を集め、この成功について、改めて話し合った。
「みんな、本当にありがとう。俺一人の考えが、こんな風に、実際の形になるなんて、正直、思ってもみなかったよ」私は、素直な感謝の言葉を述べた。
利家が、力強く答えた。「殿の御意向あってこそ、この成功が生まれたのでございます」
私は、その言葉に、少し照れくささを覚えながらも、深い充実感を抱いていた。(俺一人じゃ、絶対にできなかった。みんなが、それぞれの知恵と力を合わせてくれたからこそ、こんな結果が生まれたんだな)
その素朴な感慨を胸に、私は、静かに眠りについたのだった。この日を境に、保護圏という仕組みは、拠点を中心とした、単純な庇護関係を超えて、より複雑で、より強靭な、相互扶助のネットワークへと、確かに進化を遂げていくこととなるのである。




