第六十二話 援軍は援軍を呼ぶ
第六十二話 援軍は援軍を呼ぶ
美濃南部での豪族同士の相互援護が成功して以来、この仕組みは、保護圏全体に、着実に浸透しつつあった。しかし、その効果は、拠点が想像していた以上に、驚くべき広がりを見せることとなる。
ある日、拠点近くの、一つの小さな村が、今川方の別動隊による、小規模な襲撃を受けた。一益からの報告によれば、その規模は、決して大きなものではなかった。
「殿、この村への襲撃、そこまで深刻なものではございませぬ。恐らく、我らからの直接的な援軍がなくとも、村人たちの自警団だけで、十分に対応できるかと存じます」
私は、その報告に、少し安堵しながらも、念のため、状況を注視することにした。しかし、その日のうちに、一益から、思いがけない続報がもたらされた。
「殿、意外な事態が起きております。隣接する三つの村が、それぞれ、自主的に、この村への援軍を派遣したとのことにございます」
私は、その報告に、驚きを隠せなかった。「え、誰も、頼んでいないのに、勝手に援軍が集まったのか?」
一益は、深く頷いた。「はい。この村が、以前、水害の際に助けたことのある村々が、恩返しとして、自主的に、援軍を送ったようにございます」
私は、その説明に、深い感慨を覚えた。(俺たちが、何か特別に指示を出したわけじゃないのに、みんなが、自分たちの意志で、こうやって助け合ってくれるなんて)
さらに、その報告は続いた。「加えて、援軍として駆けつけた豪族の一つが、さらに、別の地域の商人たちにも、協力を呼びかけたようにございます。商人たちは、荷を運ぶための人手を、護衛として派遣いたしました」
私は、その連鎖に、ある種の感動を覚えていた。(一つの村を助けるための援軍が、また新たな援軍を呼んで、それが、さらに広がっていく……)
結果として、当初は、小規模な村同士の助け合いで済むはずだった対応が、最終的には、複数の村、豪族、そして商人までもが参加する、大規模な連携へと発展していった。今川方の別動隊は、予想をはるかに超える兵力の集結を目の当たりにし、戦うことなく、速やかに撤退することとなった。
戦の後、私は、この一連の出来事について、藤吉郎から詳細な報告を受けた。「殿、今回の一件、まことに興味深い現象にございました」
私は、その説明に、深く頷いた。「本当に、援軍が援軍を呼ぶって、こういうことなんだな」
(訳:俺たちが、直接、すべてを指示しなくても、みんなが、自分たちで助け合いの輪を、どんどん広げてくれる。これって、本当に、すごいことなんじゃないか)
藤吉郎は、興奮した様子で続けた。「殿。この現象は、単なる一時的な助け合いにとどまらず、保護圏全体の、確かな結束の証にございます。誰かが困っていれば、周囲が、自主的に助け合う――この文化が、今や、我らの保護圏の、根幹をなす価値観となりつつあるのでございましょう」
私は、その言葉に、少し誇らしい気持ちを覚えながらも、素朴な疑問を口にした。「でも、藤吉郎。こんな風に、どんどん援軍が集まってくるのって、逆に、混乱を招くこともあるんじゃないか?」
藤吉郎は、しばし考え込んだ後、答えた。「確かに、そのような懸念もございましょう。されど、これまでのところ、皆、それぞれの判断で、必要に応じて動き、必要がなくなれば、自然と、それぞれの場所へと戻っていっております。これは、まさに、殿がこれまで築いてこられた、自主性を重んじる仕組みの、確かな成果と言えましょう」
私は、その説明に、深く頷いた。「そうか……。俺が、みんなを強制的に統率しようとしていたら、こんな風に、自然な形で、助け合いが広がっていくことは、なかったのかもしれないな」
その夜、私は寝所で一人、この日の出来事を、改めて振り返っていた。(俺は、天下とか、そんな大それたものは、望んでいない。でも、こうやって、みんなが、自然と助け合える場所を作れているなら、それは、俺にとって、何よりも誇らしいことなんだ)
その素朴な誇りを胸に、私は、静かに眠りについたのだった。援軍が援軍を呼ぶというこの現象は、以後、保護圏の、確かな特徴として、さらに広く知られていくこととなる。今川方にとっては、この予測不可能な連鎖反応こそが、まさに、「幻影の織田軍」という伝説を、より確かなものへと押し上げる、新たな要因となっていくのだった。




