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俺の知ってる戦国時代と違う! ~歴史知識が通じない世界で、優秀すぎる家臣たちが天下を目指す~  作者: チャプタさん


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第三十九話 東海の魔王

第三十九話 東海の魔王


尾張全土が、実質的に保護圏として機能するようになると、その評判は、もはや尾張一国の枠を超えて、周辺の諸国へと広がりを見せ始めていた。武田、上杉といった、遠く離れた強国の耳にすら、この奇妙な「魔王」の噂が届くようになっていたのである。


甲斐の武田家の陣中では、家臣の一人が、興味深そうに主君に報告していた。「殿、尾張に、奇妙な男がおるようにございます。今川の大軍を相手に、正面から戦うことなく、じわじわと追い詰め、ついには撤退させたとのこと」


その報告を聞いていた武田家の重臣は、しばし考え込んだ後、静かに問うた。「その者、いかなる素性の男か」


「織田信秀の九男、信照なる者とのこと。しかし、詳しい素性は、いまだ判然といたしませぬ」


「桶狭間で信長が討ち死にした後、織田家を継いだというわけか」


「左様にございます。されど、その戦い方、これまでの武将の常識とは、まったく異なるものにございます。奪わず、支配せず、それでいて、確実に力を蓄えていく――そのような戦い方、これまで耳にしたことがございませぬ」


武田家の重臣は、興味深げに頷いた。「面白い。この者の動向、今後も、注意深く探るがよい」


同様の噂は、越後の上杉家にも届いていた。上杉家の家臣たちの間では、こんな会話が交わされていたという。


「尾張の信照なる者、義を重んじる、確かな器量の持ち主とのこと」


「されど、その真意は、いまだ測りかねる。奪わぬのに従う者が増えるというのは、油断ならぬ話ではないか」


「まことに。この者が、いずれ、より大きな野心を抱くようになれば、我らにとっても、決して看過できぬ存在となりましょう」


こうして、東海の一角で生まれた「魔王」の噂は、遠く離れた諸国の武将たちの間でも、次第に確かな存在感を持つようになっていったのである。


拠点においては、こうした遠方からの反応を、一益がもたらす情報を通じて、少しずつ把握するようになっていた。ある日、一益が、これまでにない緊張感を漂わせながら、報告に来た。


「殿、武田、上杉といった、遠く離れた国々にも、殿の御高名が届いておるようにございます」


私は、その報告に、思わず息を呑んだ。「え、遠く甲斐や越後にまで……? いや、俺、そんな大それたことをした覚えは、全然ないんだけど」


一益は、静かに続けた。「今川方を撤退させたという一件、そして、保護圏という前例のない仕組みの構築――これらは、もはや、尾張一国の話ではなく、東海地方全体の勢力図を揺るがす出来事として、諸国の目に映っておるようにございます」


私は、その説明に、深い困惑を覚えた。(俺、ただ、みんなを守りたかっただけなのに……。それが、こんな風に、天下の情勢にまで影響するなんて、想像もしていなかった)


その日の軍議では、この遠方からの反応について、四天王たちの間でも、活発な議論が交わされた。


「殿の御高名が、これほどまでに広がっておるとは、まことに喜ばしいことにございます」利家が、誇らしげに言った。


「されど」一益が、慎重な口調で続けた。「これほどの評判が広まれば、いずれ、諸国の武将たちが、殿の真意を確かめるべく、何らかの行動を起こしてくるやもしれませぬ」


私は、その言葉に、新たな不安を覚えた。「まさか、他の国からも、攻めてくるなんてことは……」


一益は、首を横に振った。「いえ、殿。むしろ、逆でございましょう。奪わず、支配せぬ殿の姿勢を知れば、諸国も、いたずらに敵対する理由を見出せぬはず。それよりも、殿の真意を探るべく、間者を送り込んでくる可能性の方が、高いかと存じます」


私は、その説明に、複雑な思いを抱いた。(間者かぁ……。まあ、探られたところで、俺には、特に隠すような大それた野心なんて、何もないんだけどな)


その夜、私は寝所で一人、この日一日の出来事を振り返っていた。(東海の魔王か……。俺、本当に、そんな大層な存在になってしまったんだろうか)


窓の外に広がる、夜の静けさを見つめながら、私は、これまでの日々を、改めて思い返していた。廃屋で目覚めた、あの絶望的な夜から、まだそれほど長い時間が経っているわけではない。それなのに、自分を取り巻く状況は、もはや、当初とはまったく異なる次元へと、進みつつあった。


(俺は、これからも、変わらず、みんなを守ることだけを、大事にしていきたい。天下がどうとか、そんな大それたことは、俺には、正直、まだ実感が湧かないけど……)


その素朴な想いこそが、この時の私にとって、唯一確かな指針であった。しかし、その願いとは裏腹に、私の名は、もはや尾張一国の枠を超えて、東海地方全体の、そして、遠く離れた諸国の耳にすら届く、確かな評判として、着実にその存在感を増しつつあったのである。「奪わぬのに従う者が増える男」――そんな評判が、東海の各地に、静かに、しかし確実に広まっていくのだった。

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