第十三話 織田四天王
第十三話 織田四天王
旧臣たちの合流により、拠点は急速に組織だった様相を呈し始めた。かつては廃寺一つに寄り集まっただけの寄せ集めの集団であったものが、今や数百名規模の勢力へと膨れ上がりつつあった。しかし人数が増えれば増えるほど、統率が求められる。誰が指揮を執り、誰が何を担うのか――その体制が定まらなければ、いずれ混乱を招くことは目に見えていた。
林秀貞をはじめとする旧臣たちの間からも、次第にそうした声が上がるようになっていた。
「殿。これほどの人数を抱えるとなれば、然るべき家臣団の序列を定めねばなりますまい」
私は面倒な人事など、正直なところ考えたくもなかった。歴史オタクとしての知識はあっても、実際に組織を運営した経験など、この体の持ち主にも、私自身にも、何一つないのだから。しかし、避けて通れる話でもないことは、さすがに私にも分かっていた。
その日の夜、私は寝所で一人、悩み続けていた。(利家、藤吉郎、一益、小六――この四人が、これまで実質的に拠点を支えてきてくれた。彼らを何らかの形で正式に認めないと、他の旧臣たちとの間で、いつか揉め事になるかもしれない)
翌日の軍議で、私はついに、腹を括ってその場に臨んだ。広間には、利家、藤吉郎、一益、小六の四人に加え、林秀貞をはじめとする旧臣たちも顔を揃えている。
「殿。家臣団の序列を、いかがなさいますか」林秀貞が改めて問うた。
私は面倒な人事など考えたくもなかった。「……好きにやれ」
(訳:正直、俺には誰が上とか下とか、決める資格なんてないと思う。でも、みんなが納得できる形にはしてほしい。任せた、頼む)
私のその一言に、広間はしんと静まり返った。利家たちは互いに顔を見合わせ、しばし言葉を失っていた様子であった。
やがて、一益が静かに口を開いた。「殿は、我らに序列そのものをお委ねになるおつもりか」
「あ、うん、まあ、そういうことになるかな……」
私自身、自分の言葉がどのような意味を持つのか、正直なところよく分かっていなかった。ただ、面倒な決定を自分で下したくないという、あまりにも情けない本音があっただけだ。
しかし利家たちは、深く頭を垂れた。そして数日後、正式な儀式が執り行われることになった。拠点の広場には、これまで集った者たちのほぼ全員が集まり、厳かな雰囲気の中、儀式が始まった。
私は上座に据えられ、その前に、利家、藤吉郎、一益、小六の四人が並んで平伏していた。彼らの表情には、これまでにない緊張と、そして確かな期待が滲んでいた。
私は用意された言葉を、努めて重々しく口にした。「前田利家、木下藤吉郎、滝川一益、蜂須賀小六――この四名を、織田四天王に任ずる」
その瞬間、広場に集まった人々から、どよめきが起こった。四人は同時に涙を流し、拳を地に突いた。
「この身命、殿に捧げまする!」利家が声を震わせながら叫んだ。
「わしのような農民出の者に、これほどの栄誉を……」藤吉郎も声を詰まらせている。
「素性も知れぬ渡り忍びであったこの身に……」一益は珍しく感情を露わにしていた。
「盗賊と蔑まれ続けたこの小六に、まさかこのような……」小六もまた、涙を堪えきれない様子であった。
素性も知れぬ浪人であった彼らが、初めて正式な「織田家臣」としての地位を得た瞬間であった。私の適当な丸投げが、彼らにとっては「尊厳の回復」という重い意味を持っていたことを、私はまだ知らなかった。
儀式が終わった後、私は四人を密かに呼び出し、個別に言葉を交わす機会を持った。まずは利家。
「利家、これからもよろしく頼む」
利家は目を潤ませながら答えた。「殿。それがし、これまで正当な家格の武士たちから見下され続けて参りました。しかし殿は、それがしの武の力のみを見て、この地位をお与えくださった。この恩、生涯忘れませぬ」
私は内心で複雑な思いを抱いた。(家格とか、そんなの俺、全然気にしてなかったんだけどな。ただ、お前の槍働きに何度も助けられてきたから、それだけの理由なんだけど)
続いて藤吉郎。「わしは、農民の出ゆえ、これまでどこへ行っても能力を認められたことがございませんでした。しかし殿は、わしの才を見出し、全権をお預けくださった」
「いや、才を見出したっていうか、ただ食糧の心配をしてただけで……」
一益もまた、静かに語った。「渡り忍びなど、誰からも信を置かれることのない身。しかし殿は、この身を疑うことなく信じてくださいました」
小六は最も感情的であった。「盗賊、野武士上がりと蔑まれ続けたこの身が、まさか正式な家臣として認められる日が来ようとは……」
私はその一つ一つの言葉に、返す言葉を見つけられずにいた。(俺は、そんな崇高な理由で動いていたわけじゃない。ただ、目の前の面倒事を、能力のある人に任せていただけなんだ)
しかし、その事実を誰かに伝える術も、伝える勇気も、私にはなかった。ただ、四人の忠誠に満ちた眼差しを前に、私はただ静かに頷くしかなかったのである。
その夜、四天王となった四人は、拠点の一角で密かに集まり、酒を酌み交わしていた。
「殿は、まことに稀有な御方よ」利家が感慨深げに呟いた。「我らのような、日の当たらぬ場所を歩んできた者たちを、ただの一言で正式な家臣として迎え入れてくださるとは」
「殿の御心は、常人には測り知れぬ深さがある」一益もそう答えた。「我らはただ、殿の御意思に応え続けるのみ」
私はそんな会話が交わされていることも知らぬまま、寝所でぐっすりと眠っていた。しかし、この夜を境に、四人の忠誠心は、これまで以上に確固たるものへと変わっていったのである。素性の知れぬ者たちを、実力のみで評価し、全権を委ねる――私の何気ない振る舞いは、こうしてまた一つ、拠点の結束を強める大きな柱となっていったのだった。




