第百二十四話 静かな夜明け
第百二十四話 静かな夜明け
義元本隊による、正式な尾張撤退が、確かに、実行に移されようとする中、拠点には、これまでにない、静かで、しかし、深く、確かな、安堵の空気が、満ちるようになっていた。長きにわたる戦乱の日々が、ついに、その終わりを、迎えようとしていたのである。
ある日の早朝、私は、いつもより、少し早く、目を覚ますこととなった。窓の外は、まだ、薄明るい、夜明け前の、静かな時間であった。私は、珍しく、自ら、拠点の外へと、静かに、足を運ぶこととした。
拠点の門をくぐり、私は、周囲に広がる、田園風景を、ゆっくりと、歩いていった。朝露に濡れた草むらが、足元で、静かに、光を、反射している。遠くの空には、これから昇る、朝日の、確かな、淡い光が、少しずつ、広がり始めていた。
私は、その静けさの中で、これまでの、長い道のりを、改めて、振り返っていた。(本当に、色々なことが、あったよな……)
私は、田畑の傍らを、ゆっくりと、歩き続けた。すると、そこに、早朝から、すでに、農作業を、始めている、一人の老いた農夫の姿が、見えた。彼は、私の姿に気づくと、少し驚いた様子で、深々と、頭を下げた。
「信照様、このように、早くから……」
私は、少し照れくさそうに、答えた。「うん、なんとなく、目が覚めてしまってな。精が出るね」
農夫は、優しい笑みを浮かべながら答えた。「はい。信照様の御庇護のもと、我らは、こうして、安心して、日々の、農作業に、専念できるように、なりました」
私は、その言葉に、深い喜びを感じながら答えた。「みんなが、平和に、暮らせているなら、それが、何よりだよ」
(訳:本当に、これが、俺にとって、一番、大事なことなんだ)
農夫は、続けた。「聞くところによりますと、いよいよ、あの、長きにわたる戦乱にも、確かな、終わりが、訪れようとしているとのこと。まことに、感慨深いことにございます」
私は、その言葉に、深く頷いた。「そうだな……。本当に、長い、長い道のりだったよな」
私は、その老いた農夫と、しばらくの間、他愛のない会話を、交わし続けた。彼の、これまでの、長い人生における、様々な苦労の話、そして、これから先の、確かな希望への、静かな期待――そうした、素朴な、しかし、確かな言葉の数々が、私の心に、深く、染み渡っていくのであった。
朝日が、次第に、その、確かな輝きを、増していく中、私は、この農夫に別れを告げ、拠点への、帰路を、静かに、歩き始めた。道すがら、私は、他にも、早朝から、それぞれの日々の営みを、始めている、多くの人々の姿を、目にすることとなった。
漁師たちが、川辺で、静かに、網の準備を、している姿。商人たちが、早くも、街道を、行き交い始めている姿。そして、子供たちが、寺子屋へと、元気に、駆けていく姿――そのすべてが、私にとって、これまでにない、深い、確かな幸福感を、もたらすものであった。
(本当に、これが、俺が、ずっと、望んでいたことなんだよな。みんなが、それぞれの場所で、それぞれの形で、平和に、暮らせるようになること――それだけが、俺にとって、一番、大切なことだったんだ)
拠点に戻ると、すでに、四天王をはじめとする、多くの人々が、それぞれの、日々の仕事に、取り掛かり始めていた。「殿、おはようございます」利家が、私の姿に気づき、丁重に、挨拶を、告げた。
私は、その挨拶に、素直に、応じた。「おはよう、利家。今日も、よろしく頼むな」
その日、拠点全体には、これまでにない、静かで、しかし、確かな、穏やかな空気が、朝から、満ち続けていた。長い戦いの、終わりが、確かに、近づいている――そのことを、拠点に集う、すべての人々が、それぞれの、静かな、しかし、確かな喜びと共に、感じ取っているように、思われたのである。
その日の夕刻、私は、お市と共に、拠点の縁側で、この、静かな夜明けの日を、改めて、振り返る、穏やかな時間を、過ごすこととなった。「兄上、今朝は、珍しく、早くから、お出かけになっていらしたのですね」
私は、少し照れくさそうに答えた。「うん、なんだか、朝日が、見たくなってな」
お市は、優しく微笑んだ。「まことに、良き、朝であったことでございましょう」
私は、深く頷いた。「本当に、良い朝だったよ。みんなが、それぞれの場所で、平和に、暮らしている姿を、改めて、見ることができて」
(訳:本当に、これが、俺の、確かな喜びなんだから)
その夜、私は寝所で一人、この日の、静かな、しかし、深い、確かな喜びを、改めて、噛み締めていた。(俺は、これからも、この、確かな平和を、大切に、守り続けていきたいな)
その素朴な、しかし、揺るぎない願いを胸に、私は、静かに眠りについたのだった。「静かな夜明け」――この、確かな平和の予感に満ちた朝は、物語の、まさに、最終章への、静かで、しかし、深い、確かな橋渡しとして、その意味を、刻んでいくこととなるのである。
翌日、私は、四天王を集め、これから、正式に、義元本隊の撤退が、確定した際の、この場所の、これから先の在り方について、改めて、話し合う機会を、持つこととなった。
「みんな、いよいよ、本当に、この日が、近づいてきているんだよな」私は、これまでにない、確かな緊張と共に、そう、切り出した。
一益が、静かに答えた。「はい、殿。義元様の撤退が、正式に、確定した暁には、この東海の地に、確かな、新たな時代が、訪れることでございましょう」
私は、その言葉に、深く頷きながらも、なおも、複雑な想いを、抱いていた。「そうか……。俺は、これから、どんな風に、この場所を、支えていけばいいんだろうな」
藤吉郎が、丁寧に答えた。「殿。これまでと、何も、変わることは、ございませぬ。ただ、これから先も、殿の、その、確かな御心のままに、この場所を、大切にし続けていただければ、それで、十分にございます」
私は、その言葉に、深い安堵を覚えた。「そうだよな……。俺は、これからも、変わらず、みんなを守ることだけを、大事にしていきたい」
小六も、力強く、続けた。「殿がおられる限り、我らは、いかなる未来にも、確かに、立ち向かっていけましょう」
私は、その言葉に、深い感謝の念を、抱きながら、これから先の、確かな未来への、静かな、しかし、揺るぎない、決意を、改めて、胸に、刻んでいったのだった。




