第百八話 保護を望む国
第百八話 保護を望む国
血なき勝利の積み重ねが、これまで以上に、確かな評判として定着していく中、拠点への保護圏加入の申し出は、これまでにない、より大きな規模でも、寄せられるようになっていた。ある日、拠点に、これまでとは異なる、驚くべき規模の申し出が、届けられることとなった。
「信照様、御相談がございます」訪れた使者は、これまでにない、緊張した面持ちで、切り出した。「それがし、遠江の一部を治める、豪族に仕える者にございます」
私は、その言葉に、深い驚きを覚えた。「遠江……? それって、今川家の、まさに、お膝元の地域じゃないか」
(訳:今川家の中心地域から、こんな申し出が来るなんて、正直、想像もしていなかったよ)
使者は、続けた。「我が主家は、これまで、今川家に仕えて参りました。されど、義元様の、長きにわたる尾張攻略により、我らの領地からも、多くの兵と物資が、動員され続けており、その負担が、もはや、限界に達しつつございます」
私は、その話に、複雑な思いを抱いた。「そうか……。今川家の中でも、そんな苦しい状況にある人たちが、いるんだな」
使者は、慎重に続けた。「信照様の御庇護のもと、我が主家も、この苦境から、逃れたく存じます。されど、それがしも、これが、あまりにも、大胆な申し出であることは、重々、承知しております」
私は、その申し出に、深い葛藤を覚えた。私は、傍らにいた一益に、率直な想いを打ち明けた。「なあ、一益。これって、正直、今川家との、決定的な対立を、招くことにならないだろうか」
一益は、慎重に答えた。「殿。この申し出を受け入れることは、確かに、今川家との、これまで以上に、明確な緊張関係を、生むことになるやもしれませぬ。されど、殿。これまでも、そうであったように、我らは、決して、積極的に、今川家への敵対を、掲げてきたわけではございませぬ」
私は、その説明に、深く考え込んだ。「そうか……。でも、今川家の、まさに中心地域からの申し出を、受け入れるっていうのは、これまでとは、ちょっと、意味合いが違う気がするんだ」
私は、この重大な決断について、四天王をはじめとする、主要な旧臣たちと、慎重な議論を、重ねることとなった。「みんな、これは、本当に、慎重に、判断しなきゃいけない問題だと思うんだ」私は、率直な想いを口にした。
藤吉郎が、丁寧に答えた。「殿。この申し出を受け入れるかどうかは、確かに、慎重な判断が、必要にございます。されど、殿。これまで、殿が、一貫して貫いてこられた御方針――困っている者を、決して見捨てないという、その姿勢を、ここで、崩すべきではないと、それがしは、存じます」
私は、その言葉に、深い感慨を覚えた。「そうだよな……。結局、俺は、いつも、そう考えて、動いてきたんだから」
私は、最終的に、この申し出を、慎重に、しかし、確かに、受け入れることとした。「あなたの主家が、そこまで困っているなら、俺たちにできることを、していきたいと思う」
(訳:本当に、これが、俺の、確かな想いなんだ。今川家との関係とか、そういうことより、まず、目の前で困っている人を、放っておけないんだ)
使者は、その言葉に、深く感激した様子であった。「信照様、まことに、有り難きことにございます」
この一件は、今川家にとって、これまで以上に、深刻な、内部からの動揺として、受け止められることとなった。義元本隊においては、これまで以上に、拠点への対応について、緊迫した議論が、交わされることとなったという。
拠点においては、私は、この決断の重みを、改めて、実感していた。ある夜、私は寝所で一人、この日の出来事を、静かに振り返っていた。(今川家の、中心地域からの申し出まで、受け入れることになったなんて、正直、俺、まだ、この決断の重みを、完全には、理解できていないのかもしれないな)
その素朴な不安を胸に、私は、なかなか寝付けぬまま、長い夜を、過ごすこととなった。「保護を望む国」――この、これまでにない、大胆な保護圏の拡大は、後に、義元本隊との、さらなる緊張関係の、一つの、確かな契機となっていくこととなるのである。
翌朝、私は、この一件について、改めて、藤吉郎と、話し合う機会を持った。「藤吉郎、これから、今川家との関係は、どうなっていくんだろうな」
藤吉郎は、静かに答えた。「殿。これまでの、我らの一貫した方針を、貫き続ける限り、いかなる状況においても、殿の御名は、決して、揺らぐことはございますまい」
私は、その言葉に、少しだけ、安堵を覚えながら、その日の、新たな一日を、静かに始めていったのだった。




