第百七話 血なき勝利
第百七話 血なき勝利
精鋭部隊による攻勢を、犠牲なく退けたという実績は、拠点の評判を、これまで以上に、確かなものへと押し上げることとなった。この一件以降、今川方は、これまで以上に、慎重な姿勢を、貫くようになっていったのである。
ある日、拠点の保護圏の一角にある、比較的規模の大きな城が、今川方からの、降伏の申し出を、受け取ることとなった。この城は、これまで、今川方に忠誠を誓っていた、一部の勢力によって、守られていたが、周辺の情勢の変化により、その存続そのものが、次第に、困難になりつつあったのである。
「信照様、御相談がございます」その城を治める武将が、拠点に、直接、使者を送ってきた。「我らは、これ以上、今川方に従い続けることが、困難な状況にございます。願わくば、信照様の御庇護のもと、この城を、平穏に、明け渡したく存じます」
私は、その申し出に、深い感慨を覚えた。「そうか……。無理に、戦う必要は、ないんだからな」
(訳:みんなが、無駄に、命を懸ける必要なんて、本当は、まったくないんだから)
私は、四天王と共に、この申し出への対応を、慎重に検討することとなった。「みんな、この申し出、どう対応すればいいと思う?」
一益が、丁寧に答えた。「殿。これは、まさに、殿がこれまで貫いてこられた御方針――力による支配ではなく、慈しみによる庇護――を、実現する、確かな機会にございます。快く、受け入れるべきかと存じます」
私は、その説明に、深く頷いた。「そうだな。みんなが、平和に、この城を、明け渡してくれるなら、それに越したことは、ないんだから」
こうして、この城は、戦火を交えることなく、静かに、平穏に、保護圏へと、迎え入れられることとなった。城を守っていた武将は、拠点に、自ら赴き、私に、深い感謝の言葉を、述べることとなったのである。
「信照様、まことに、有り難きことにございます」その武将は、深々と頭を下げながら、語った。「これまで、我らは、いつ、攻め滅ぼされるかという、確かな恐怖の中で、日々を過ごして参りました。されど、信照様の御庇護のもと、こうして、平穏に、この城を、明け渡すことができ、心から、安堵しております」
私は、その言葉に、素直な喜びを感じながら答えた。「本当に、誰も傷つかずに済んで、良かったよ」
(訳:これが、俺にとって、いつも、一番望んでいることなんだ)
武将は、続けた。「信照様は、我らのような、かつての敵であった者たちにすら、これほどの慈悲を、お示しくださる。この御恩、決して忘れませぬ」
私は、その言葉に、深い感慨を覚えながら答えた。「敵とか、そういうのは、あまり、気にしなくていいと思う。みんなが、これから、平和に暮らせるようになるなら、それが、一番大事なことなんだから」
その日の夕刻、私は、この新たに保護圏に加わった城を、実際に、訪れる機会を得た。城内では、これまでの緊張が、確かに解け、住民たちが、穏やかな表情で、日常を、取り戻しつつあった。
「信照様」ある年配の女性が、私に気づき、深々と頭を下げた。「これで、我らも、ようやく、安心して、暮らせるようになりました」
私は、その言葉に、深い喜びを感じながら答えた。「本当に、良かったです。これからも、みんなが、安心して暮らせるように、俺にできることを、していきたいと思います」
その夜、私は、拠点への帰路で、傍らを歩く一益に、率直な想いを語った。「なあ、一益。こんな風に、戦うことなく、平和に、勢力が広がっていくのが、俺にとって、本当に、一番嬉しいことなんだ」
一益は、静かに頷いた。「殿がこれまで、一貫して、貫いてこられた御方針の、確かな成果にございます」
私は、その言葉に、少し照れくささを覚えながらも、深い充実感を抱いていた。(俺は、天下とか、そんな大それたものは、望んでいない。でも、こうやって、誰も傷つくことなく、少しずつでも、確かな平和が広がっていくなら、それは、決して悪いことじゃないんだ)
その素朴な想いを胸に、私は、夕暮れに染まる道を、拠点へと向かって、ゆっくりと歩んでいったのだった。この「血なき勝利」の積み重ねは、以後、保護圏の、確かな誇りとして、さらに、その重みを、増していくこととなるのである。
その夜、私は寝所で一人、この日の出来事を、改めて振り返っていた。(これからも、この、誰も傷つけない在り方を、絶対に、大切にしていきたいな)
その決意を胸に、私は、静かに眠りについたのだった。




