第百話 天下の望み
第百話 天下の望み
保護圏の拡大が、これまで以上に、確かな規模へと成長し、東海地方全域における、拠点の影響力が、揺るぎないものとなりつつあった頃、拠点には、これまでで最も、大規模かつ、象徴的な集まりが、開かれることとなった。
その日、拠点近くの広大な場所には、尾張、美濃、伊勢、そして三河の一部からも、実に多くの代表者たちが、一堂に会していた。これまでの、様々な会議とは、明らかに、規模も、そして、その意味合いも、異なるものであった。
「殿、此度は、まことに、重要な集まりにございます」藤吉郎が、慎重な口調で告げた。「これまで、保護圏に加わった、すべての地域から、その代表者たちが、集結しております」
私は、その説明に、これまでにない緊張を覚えた。「そんなに、大規模な集まりなのか……」
(訳:正直、これほどの規模の集まりに、俺が、どう関わるべきなのか、まったく想像がつかないよ)
藤吉郎は、続けた。「殿。此度ばかりは、殿御自身に、御出席いただきたく存じます」
私は、その要請に、少し戸惑いながらも、これまでの経緯を踏まえ、意を決して答えた。「分かった……。俺も、この目で、みんなの様子を、見てみたいと思う」
その日、私は、これまでにない緊張感の中、四天王を伴い、この、大規模な集まりの場へと、足を運ぶこととなった。会場には、実に、これまで見たこともないほどの人々が、集まっていた。それぞれの地域を代表する、豪族、村の名主、寺社の代表者、そして商人たち――その光景は、まさに、東海地方全体の、確かな縮図であった。
私が姿を現すと、会場全体が、深い静寂に包まれた。誰もが、私の一挙手一投足に、注目していることが、痛いほど、伝わってきた。
(緊張する……。本当に、俺、こんな場に相応しい人間じゃないんだけどな)
やがて、代表者の一人が、進み出て、深々と頭を下げた。「信照様。此度、我ら、東海各地の代表者一同、殿への、確かな忠誠を、改めて、お誓い申し上げたく、この場を、設けた次第にございます」
その言葉に続き、集まった代表者たちが、一斉に、深く頭を下げた。「我らは、殿に従います」――そんな声が、会場全体から、静かに、しかし確かな重みを持って、響き渡った。
私は、その光景に、思わず、言葉を失った。(え……。こんなに、大勢の人たちが、俺に、こんな風に、想いを寄せてくれているなんて……)
「えぇ……?」私は、思わず、そんな、間の抜けた声を、漏らしてしまった。
会場には、しばし、微妙な沈黙が流れた。しかし、それも、すぐに、温かい笑いへと、変わっていった。ある年配の代表者が、優しい笑みを浮かべながら、告げた。「信照様の、その、飾らぬ御姿こそが、まことに、我らが、最も、信頼を寄せる理由にございます」
私は、その言葉に、少し、照れくささを覚えながらも、深く、頷いた。「みんなが、こうやって、この場所を、一緒に、支え続けてくれることに、心から、感謝しているよ」
その言葉に、会場は、さらなる、深い感動に包まれた。誰かが、静かに、しかし、確かな重みを持って、こう口にした。
「織田信照は、天下を望まぬ。されど、天下が、織田信照を、望んでいる」
この一言は、これまで、局地的に語られてきたものであったが、この、東海全域の代表者が集う、まさにこの場において、初めて、確かな、公式の言葉として、語られたのであった。この一言は、瞬く間に、会場全体に広まり、そして、この日を境に、東海一円へと、さらに、確かな重みを持って、広まっていくこととなるのである。
私は、その言葉を、直接、この耳で聞くこととなった。私の心の中には、深い動揺と、そして、拭いきれない、複雑な感情が、渦巻いていた。
(天下を望まぬのに、天下が望むって……。俺、本当に、そんな大それたことは、望んでいないのに……)
その日の会議が終わった後、私は、静かに、拠点への帰路を歩んでいた。傍らには、一益が、静かに寄り添っていた。「殿、此度の集まり、まことに、大きな意味を持つものと、なりました」
私は、深いため息をついた。「そうだな……。正直、俺、まだ、この状況に、全然、慣れないんだ」
一益は、静かに答えた。「殿。それでも、殿は、これからも、変わらず、みんなを守るという、その御心を、貫いてこられるのでございましょう」
私は、その言葉に、深く頷いた。「うん、そうだな。俺は、これからも、変わらず、みんなを守ることだけを、大事にしていきたい」
その夜、私は寝所で一人、この日の出来事を、改めて、静かに振り返っていた。桶狭間の敗戦から始まった、絶望的な逃避行。それが、こうして、東海全域の代表者たちが、こぞって集う、確かな一体感へと、繋がっていくとは、まさに、想像を超えた展開であった。
(俺は、これから、どんな未来を、迎えることになるんだろうな……。でも、少なくとも、俺の中の、この想いだけは、絶対に、変わらずにいたい)
その変わらぬ決意を胸に、私は、静かに眠りについたのだった。「天下は誰を望むか」――この言葉は、こうして、公式の場において、確かな重みを持って語られ、以後、物語の、大きな転換点として、その存在感を、さらに、増していくこととなるのである。




