車
この世界の車はまだ技術も発展途中。
速度もそう出るものではないし、乗り心地も抜群ではない。車の中もまぁ、狭かった。
「思ったよりも道が綺麗ですね」
「君以外の土魔法使いたちも戦場に投入し始めてな。最前線に立って一人で信じられない規模の塹壕を作ったり……なんて化け物じみたことは出来ないが、道の舗装を数名の部隊で行うことはできる。土魔法の工兵たちのおかげでかなりの道を綺麗に舗装出来ている」
「自分と同じものたちが活躍出来ているのは嬉しいですね」
そんな車に僕はニュースベック大将閣下と二人で乗り込み、西方戦線に向かって進んでいた。
「最も、ウィルアード准将ほどに土魔法を使いこなせる人もいないのが現実なのだが」
「それもそうでしょう。僕は貴族ですから。魔法の鍛え方が違います」
市井の人たちも魔法を活用する。料理に、仕事に、家事に。様々な活用がなされる中で、当然、土魔法も普通に活躍する。農作業などで土魔法は最高の活躍を見せてくれる。
ただ、それは貴族の役目ではない。
戦い、民を守ること。それを本懐とする貴族にとって戦争の役に立たない土魔法は不遇でしかなかった。
銃と対魔法結界で近代化した戦場なら、土魔法が最強であると判明したのはつい最近。貴族として生まれながら不遇の土属性に生まれた者たちは誰もが魔法の道を諦め、魔法の腕を磨かなくなる。
ただひとえに土魔法を洗練させた気狂いなんて僕くらいだ。
「最も、別に僕も土魔法がこんな活躍するとは思っていなかったんですがね」
「むっ?そうなのか?」
「えぇ」
日本に居た知識から塹壕線とかになったら強そうだなぁ~、とは思っていたけど、この世界の貴族らしく僕も戦争から魔法が廃れるとは思っていなかった。
「戦える術は用意しておかなきゃ、そんな後ろ向きな理由で鍛えていたんですよ。土魔法使いの三男がずっと侯爵家でぬくぬくしてもいられませんから。少し、前の頃までは」
「あぁ……そうだな」
僕の言葉にニュースベック大将閣下は苦々しい表情で頷く。
「土魔法でめっちゃ固い障害物を作れば、強力な魔法相手にも自分の身を守れるはず!そんな思いで鍛え出した土魔法がちゃんと戦争で活躍して僕もびっくりですよ」
「それで自分だけではなく、味方も守れているのだから、立派なものよ」
「ありがとうございます」
「うむ……そろそろ、司令部が近づいてきたな」
「そうですね」
既にかなりの時間、車に揺られていた。
一晩を近くの街のホテルで明かし、二日目。時刻はそろそろ正午が近づいていた。
「奇襲を受ける可能性もある。すぐに動けるよう準備は怠るなよ?」
「もちろんです」
「最後の休息だ」
ニュースベック大将閣下は自身の懐へと手を入れ、そこから一つの包みを取り出す。
「チョコだ……少し、溶けてしまっているがまだ美味しい。食べるか?嫌いだと言っていたが、ホワイトチョコならば、まだ食べられるのではないか?」
「いや、今は大丈夫です」
甘いものはお腹いっぱいだ。
嗅覚だけでお腹いっぱいになっている。
「そうか……?」
「心づかいの通り、ホワイトチョコならば、僕も苦手意識なく食べられます。ぜひ、またの機会に」
「おぉ?……うむ。では、また欲しい時に言ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
僕がニュースベック大将閣下の言葉に頷き、彼女がその口へとチョコを放り込んだその次の瞬間。
「「……ッ!?」」
僕は魔力反応を感じ、ニュースベック大将閣下の方へと手を伸ばし、車の扉を蹴破る。
そんな、僕と同じようなことをニュースベック大将閣下もしていた。互いに伸ばし合っていた手をガッチリと掴んでいた僕とニュースベック大将閣下はそのまま抱き合うような形で車から転がり落ちる。
「ふぐっ」
地面に落ちた衝撃で悶絶していた僕を抱きかかえた状態で、その足を地面に置いたニュースベック大将閣下が叫ぶ。
「はっはっは!私の野生の勘はまだ健在だなっ!」
「……上」
僕のことをガッチリ掴んでいるニュースベック大将閣下の手からするりと抜けた僕は上を見上げる。
「……あれが、飛行魔法か」
人が長年渇望し、ようやく鉄の力を借りることで届いた空の世界。
ニュースベック大将閣下から聞いていた通り、そんな空の世界へと生身のまま足を踏み入れている者たちが、僕たちの上に漂っていた。
「対魔法結界を、自分の体を覆うように張っているのか?」
ずいぶんと、特徴的な魔力の流れだ。
飛行魔法は無属性魔法だった。その魔力の流れからある程度、飛行魔法の発動方法は分かった。その上で、わからないのが彼らの体を覆っているように見える対魔法結界。
「どういうことだ……?」
彼らは自分たちの身を守るように対魔法結界を展開した上で、飛行魔法を発動するという離れ業を見せていた。
「おぉい!ぼーっと上を見ているな!逃げるぞ!」
どういうことか。
理解できず呆然と空を眺めていた僕の手をニュースベック大将閣下が取り、そのまま引きずるような形で僕を走らせる。
「おわぁぁぁああ?!」
その直後、僕とニュースベック大将閣下に向けて空にいた二人の兵士が銃弾の雨を降らしてきた。
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