ヘラ
「いや、……確かに、確かにそうだ。私はウィルアード准将の着任の際に自己紹介をしていなかったな。ニュースベック大将閣下。そう、呼ばれ、当たり前のように名前を知られていると思っていた」
「申し訳ありません。上官の名前は当たり前に覚えているものでしたね」
「……そんな、ウィルアード准将に罪はない。確かにファーストネームまではわざわざ覚えていないよな。私もそうだ。うん。君に罪はないとも」
「いえいえ、そんなことは……」
僕が名前を覚えていなかった。
その事実に対するダメージは深かったようだ。顔を突っ伏し、ぐったりとした様子を見せるニュースベック大将閣下を励まそうと何か声をかけようとはするのだが……何を言えばいいのか。僕の語彙の中にこれだと思えるようなものがなかった。
「うぅ……すまない。上官なのに、君に気を使わせてしまって」
「いや!そんな、気を使ってなど……ニュースベック大将閣下は数多の功績をあげ、東方戦線でも絶大な戦果をあげられたではないですか。ニュースベック大将閣下が居なければ、東方での大勝利はなかったですよ!自慢の上官です。自身をもってください」
「うぅ……」
何とか励まそうとするのだが、いい言葉は何も出てこなかった。
ただ、功績を褒めるだけでは足りていなかった。
「お嬢様」
そんな僕に代わり、リリスが一歩前に出る。
「……っ」
「お任せを」
幼少期から仕えてきた貴方なら……!この状況を何とかしてくれるかもしれない。そんな期待を込めた僕の言葉に深々と頷いたリリスは自信満々の様子で口を開く。
「私は最初にリリスと名乗りましたよ?」
「えっ?」
だが、その口から告げられたのは慰めの要素など何もない。ただシンプルなマウントだった。
「のぉぉぉおおおおおお……お前ッ!上司である私を前にマウントを取って楽しいかぁッ!」
当然、そんなマウントに対してニュースベック大将閣下は悲鳴をあげるだった。
「あー」
なんかちょっと面倒になってきたのかもしれない。
もう、放置でいいんじゃない?勝手に立ち直るんじゃないかな?
「お嬢様。そんなに喚いてばかりだと、ウィルアード准将閣下に引かれてしまいますよ?そうでしょう?ねぇ、ウィルアード准将閣下」
「んなぁっ!?」
「……いえ、そんなことありませんよ?」
リリスの言葉を僕はニュースベック大将閣下からそっと視線を外しながら否定する。
「私の目を見てくれぇぇえええっ!」
ニュースベック大将閣下は再び、机へと顔を突っ伏せる。
ずいぶんと重たい一撃が入ってしまったようだった。
「……」
どうするか。
僕が頭を掻き、悩んでいたところ、急にニュースベック大将閣下が顔を上げる。
「私の名前はヘラだ。覚えてくれ」
そして、急に真面目な顔となり、淡々と己の名前を名乗る。
「えっ」
「肩の力は抜けたか?君の昔馴染みの商会の人間とも会う機会があってね。君のことを正義感が強く、マイペースなほんわかした男の子だったという風に聞いている。ここ最近、自然に笑えたことが少ないのではないか?」
「えっ……いや、急にこう、自分の評価を改めて言われると何処かむず痒いものがあるんですがっ」
「戦争に、いいことなんてないだろう。現実を向き合い、人を殺す。その日々に君が疲弊していることはわかる。自然に、己の感情を発露させることに罪悪感からストップさせてしまってはいないかい?自罰的になってはいないか?」
「……ニュースベック大将閣下」
「先の、少し呆れた表情。あれで、ようやく私は君の素というものを見られた気がするよ」
「いや、急に真面目ぶっても一度下がった評価は戻りませんよ?」
「……リリス!君は少し黙っていろ!」
「……うぅん」
ちょっと、リリスには本当に黙って欲しかったかもしれない。
なんか、ニュースベック大将閣下がいい感じに締めてくれそうだったのに、全然締まらなかった。
「私と街に行こう!ウィルアード准将。西方へと行く前の余暇だ。君は姉とも会うだろう?」
「……えぇ、そうですね」
「辛気臭い表情は辞めだ!行くぞ!」
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