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不遇だった土魔法、実は戦争の役に立つ~土魔法使いに転生してしまった僕の、思わぬ成り上がり戦記~  作者: リヒト


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名前

「……僕がこの家の邸宅に足を踏み入れるのは少し、勇気がいるね」


 メイドさんの後についていき、ニュースベック公爵家の邸宅の前にやってきた僕はそこで足を止める。


「……何か、おありなのですか?」


「まぁねぇ……」


 ウィルアード侯爵家とニュースベック公爵家はそこまで仲良いわけではない。

 前にニュースベック公爵家の当主を相手に商売をした際、物凄い皮肉の嵐を浴びたのを覚えている。それもあってあまり、ニュースベック公爵家は得意じゃなかった。


「そんなことを言っても仕方ないから行くんだけど。ニュースベック大将閣下の元まで案内をお願いね?リリス」


「はい、お任せを」


 メイドさんの名前を呼び、僕は案内をお願いする。


「こちらです」


 ちょっとだけ居心地が悪く感じてしまうニュースベック公爵邸の中を進み、僕は一つの部屋の扉の前で立ち止まる。

 ノックをするのは僕ではなく、メイドさんだった。


「お嬢様。お客人を連れてきました」


「うむ。入れ」


「失礼します」


 リリスが開けてくれた扉を通り抜け、ニュースベック大将閣下の待つ部屋へと入っていく。


「おー!ウィルアード准将。待っていたぞ」


「おまたせてしてしまい申し訳ありません」


「いや、何の。東方はどうだ?」


「問題なく旧ポルン王国領の統治を進められています。ヤーキーズ国王陛下にも正式に王族として戴冠していただいています。あとは国家承認を他国から取り付けるところでしょうか」


「うむ。ポルン王国内を我が国の人間で完全に統率を取るのは難しいからな。現地民をうまく活用できるようでよかった」

 

 ニュースベック大将閣下の部屋へと入った僕はまず、東方戦線についての話を交わす。

 軍人二人。会って交わす会話はやはり、軍に関係するものばかりだった。


「それで、西部は?」


「悲惨なものよ。戦線は総崩れ。戦線の南部は耐えたが、北部はおじゃんだ。ルノア王国領にまで入られ……西方の最重要地帯。ラーメス鉱山都市までもが占拠された」


「……それは」


 ニュースベック大将閣下の言葉を聞いた僕は思わず眉を顰める。

 思ったよりも最悪の状況だった。ラーメス鉱山都市はルノア王国で最大の鉱山都市であり、鉄を始め様々な資源を獲得できる。


「戦況が、……完全にひっくり返ったのですが」


 戦争初期段階において、ルノア王国軍は攻勢を成功させ、フリース王国の鉱山地帯を奪取していた。

 それによって資源面において、我が国はフリース王国よりも僅かばかりに有利な立場にあった。

 だが、此度の西方の失態で立場が逆転してしまった……らしい。


「……うむ。そうなるな。南部は耐えた。南部にあったフリース王国の鉱山は未だ我々の手中にある。まだ、完全に資源的劣勢へと立たされたわけではないのだがっ」


「我々は未だ二正面を抱えている。勝ちが絶望的になりましたね」


「まだ、諦めてはならん。ウィルアード准将に声をかけたのは鉱山都市内に商会の根を広げていたからだ。それら商会をうまく活用し、我らの都市からフリース王国軍を叩きだせないとか思って」


「……そう、ですね」


 自分の頭の中にあった青地図が真っ白になっていく様を呆然と、眺めていた僕はそれでも、目の前のニュースベック大将閣下の言葉に頷く。


「……努力は、しましょう」


「あぁ、期待している」

 

 とはいえ、僕の商会はあくまで商売を最優先にさせている。

 何処まで、役立つかはわからないのだが……うーん。いや、それよりも改めて、西方でフリース王国優勢に傾いたのが痛いな。あまりにも。


「暗い話題はやめにしようか」


 明らかに沈んだ表情をしている僕に気を使ったのか、ニュースベック大将閣下が明るい声を上げる。


「明るい話をしよう。何か明るい話題はないか?」


「えぇ……?」


 だが、その肝心の明るい話題は僕に全振りだった。


「あぁ、そうだった。リリス。預けていたものを」


「むっ!?」


「こちらですね」


 ただ、それで土産を持ってきていたことを思い出した僕は隣に立っていたリリスから預けていた紙袋を貰う。


「こちら、ワルミールで見繕った土産ものです。よろしければ」


「あ、あぁ……ありがとう」


 紙袋の中に入っていたポルン王国の銘菓を貰ったニュースベック大将閣下はお礼の言葉を口にする。

 だが、その表情は何処かぎこちなかった。


「ニュースベック大将閣下?」


「……の、のぅ?」


「何でしょう?」


「……ここ、ニュースベック公爵邸では我が家の名を冠する者は多くいる。どうだろう?ここらで私を下の名前で呼ぶというのは」


「ん?あぁ、確かにそうですね……では」


 ニュースベック大将閣下の言葉に頷き、その名を呼ぼうとしたところで僕は口を閉じる。


「……」


「……ど、どうした?」


「……あの、すみません。ニュースベック大将閣下の下の名前って何でしたっけ?そういえば、聞いていなかった気がするのですが」


 この貴族社会でファーストネームを呼ぶことは少ない。

 基本的には家名とその人の立場を合わせて人を呼ぶ。下の名前で呼ばれることが多いのなんて、王家の名前で呼ばれたくないから『エマ』って呼んで。そう、強く公言しているエマ第二王女殿下くらいなものだ。

 そんな社会だからこそ、僕も下の名前まで全然覚えていなかった。


「んなぁぁああああああああああ!?」


「にゅ、ニュースベック大将閣下っ!?」


 素直に、己の今を伝えて聞いたニュースベック大将閣下はあまりに絶望的な表情を浮かべ、そのまま叫び声を上げるのだった。

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