メイドさん
ルノア王国の王都。
かつて、僕がここに来た時はまるで戦争の余波は感じなかった。
しかし、今の王都を眺めてみれば、その余波は確かにあった。戦争開始後、かつてルノア王国に入ってきていたフリース王国並びにその植民地が生産していた食料品が一切入ってこなくなった。
また、北海帝国など、その他の国からの食料輸入に関してもこちらが足元を見られ、値段が高騰している。
それらの影響もあり、王都に並ぶ食料品の顔ぶれにも少し変化があるように見えた。
「まさか、戻ってくることになるなんて」
僕が最後に王都へとやってきたのは東方戦線へと向かうよりも前の時。
それからしばし。僕は自分の予期していないタイミングで王都に戻ってきていた。
「それも、今度は一人で」
ニュースベック大将閣下に呼ばれてやってきたという点では、来た理由は同じ。
でも、その目的は前の時と真逆。
かつて、西部から東部に向かう為、その中継地として王都にやってきた僕は今度、東部から戦線が崩壊したという西部に向かう為、まずは王都へとやってきていた。
「……はぁー」
東方戦線からニュースベック大将に加え、僕もいなくなる。
そんな中で、ニュースベック大将閣下の代理として最高司令官の立場にあったエマ第二王女殿下まで東方戦線を離れられるわけがない。
だというのに、私もついていくと駄々をこね続けていたエマ第二王女殿下の姿を思い出してしまった僕は静かにため息を吐く。
「……ウィルアード准将閣下ですね?」
そんな僕の背後から声をかけられる。
「……メイドさん?」
それに反応し、後ろへと振り返った僕の視界に映ったのはメイド服を着た一人の女性だった。
「はい。お嬢様……ニュースベック大将閣下の御付きのメイドをしております。リリスと申します。28歳、独身です。よろしくお願いします」
「はぁ」
独身という情報は必要だったか?今。
「ニュースベック大将閣下に聞いていた通りの御方でしたね。左目は大丈夫ですか?」
「あぁ、はい。少し、視界は狭まりましたが、問題なく動けますので問題なく」
まだ、僕が傷を負ったのは左目だけだ。
戦場帰りとしはまだ軽傷な部類だろう。あれだけ無茶しているんだし。うん。
「軍服を着ておられないということで、見つけられるか不安でしたが、無事にお声をかけることが出来て安堵しています」
「あぁ、わざわざご足労おかけいたしました。流石に軍服を着ていると目立ってしまうので」
ノア・ウィルアード。
その名は僕の工作活動によって英雄として轟いている。だが、僕の顔を知る者は前線でないと少ない。基本的にこれまで表舞台になんて立ってこなかったからね。
変装をせずとも、ただ私服でいるだけで僕だとバレることはない。
「それとウィルアード准将閣下。私はあくまでメイドにございます。もっと気兼ねない言葉で大丈夫ですよ。わざわざ敬語を使われる必要はありません」
「……そうかな?最近は敬語で話していることも多くて、こっちの方が慣れなくなっている自分もいるんだけど」
「ですが、そのままで。ただのメイドが敬語で話しかけられるわけにもいきませんので」
「それなら、大人しく従おうかな」
「それに、私がウィルアード准将閣下よりため口を使われている方がお嬢様の面白い反応を見られるでしょうし」
「ん?」
「いえ、何でもございません。それでは、向かいましょうか」
「え、えぇ?」
いや、何だ今の発言。
何か、メイドとしてありえない愉悦を見た気がする僕は少し首をかしげながら、彼女の後についていった。
ご覧いただきありがとうございました。
ここより少しスクロールして広告の下にある『☆☆☆☆☆』から評価することが可能です。
ブクマ登録、いいねも合わせて評価していただけると幸いです。
また、感想は作品を作る上での大きなモチベとなります。
感想の方もお待ちしておりますので、気軽にお願いします。




