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不遇だった土魔法、実は戦争の役に立つ~土魔法使いに転生してしまった僕の、思わぬ成り上がり戦記~  作者: リヒト


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むち打ち

「あぁァアアアアアアアアアアアアア!?」


 男の、絶叫が響く。

 それは一つではなく、複数だった。

 鞭の空気を切り裂く音が不気味に響き、血の匂いが拡散される。


「……いいものでは、決してないね」


 ヤーキーズ国王陛下はポルン王国の独立を宣言した。

 それに伴い、ポルン王国の法で女性への強姦未遂を起こしたルノア王国の兵士たちはむち打ちの刑となり、長らく使われず放置されていた見せしめのための刑場で罰を受けていた。


「……おぉ」


「久方に」


「あれが……ルノア王国の兵士か」


 鞭の一打で皮膚が裂け、血が噴き出し、絶叫が上がる。

 その光景は決して気持ちの良いものだとは言えない。

 だが、そんな光景を見る為、ワルミールに住民は刑場へと集まっていた。やはり、ルノア王国の兵士たちに思うところが多分にあるのだろう。

 ルノア王国の兵士が、ポルン王国の人間の手によって処罰されるという光景はスカッとするものがあるのだろうか。悲惨な光景を見るワルミールの住民の表情は決して暗いものじゃなかった。


「(……舐められないようにする必要はあるな)」

 

 次、ワルミールを出て別の街に行くときは大規模な行軍にした方がよさそうだ。


「はぁー」


 なんてことを考え、現実から少し目を逸らしていた僕はため息を一つ漏らす。

 ……。

 …………目の前で、愚かなことをしたとは言え、ルノア王国の為に命をかけて戦った者が絶叫している。血を流している。拷問じみた、刑罰。

 こんなのが正しいとはまるで思えない。


「……」


 だが、目の前の光景は僕の行いを発端として行われたものだ。

 エマ第二王女殿下の決断を止められる立場に、僕はあっただろう。僕が強固に反対すれば、エマ第二王女殿下は自分の考えを退けただろう。

 しかし、僕はそれをしなかった。


「……慣れてしまったものだね」


 実を言うと、僕がむち打ちの光景を見たのはこれが初めてではない。未だ文明レベルの低い国に赴いた際、その刑罰としてむち打ちがされているのを見かけたことがある。

 その時は、その光景の悲惨さに吐いてしまった。最後まで見切れなかった。

 だけど、今の僕は静かに目の前の光景を見ることが出来ていた。


「……」


 最後まで、見届けるのが僕の義務だろう。

 あくまで一般の観衆として。僕は変装して刑場の光景を見つめ続けていた。


 

 昔はプロと言えるような技術を持った執行人がいた。

 むち打ちという過酷なものを、殺さぬように手加減出来る人間がいたのだが、既に最後のむち打ちが行われてから何十年という月日が流れている。

 当然、むち打ちをやったことがある者などいなかった。

 加減も知らず、ただがむしゃらに鞭を振るった結果、ルノア王国の兵士たちはむち打ちを二十と少し受けたところで命が危ないところにまでなり、刑罰は途中で終了となった。


「あれがむち打ちなのね」


 刑罰終了後、僕はエマ第二王女殿下と合流していた。

 ここで表舞台に立つのはあくまでエマ第二王女殿下だ。少しでも僕の功績を薄め、エマ第二王女殿下の功績をあげる為、ここ最近の僕は何もしないようにしていた。別に僕は出世欲がある訳じゃないし、軍上層部と敵対したいわけじゃない。

 今回の件をルノア王国の代表として、刑罰を見届ける役目を与えられたのはエマ第二王女殿下だった。


「貴方も見ていたでしょう?」


「えぇ、見ないわけにもいかないでしょう」


「……そうねぇ。私には、見届ける役割があったわ。思ったよりも、酷いものだったけど」


 エマ第二王女殿下は顔を俯かせ、気落ちした様子で語る。


「失望、したかしら?……普通はしない選択を取った私を」


「今は戦時下です。非道な決断の一つや二つ、してこその指揮官です。それよりも僕は准将であるはずの自分を不当に監禁したことにこそ、罪悪感を感じて欲しいのですが」


 今回の件について、深く話を掘るのはあまり得策ではないだろう。

 ……あまり、僕も話したいような内容ではないしね。


「むっ!そっちの方は間違えたとは今も思っていないわよ?あれはほいほい前線に出る貴方の方が悪いわよ!」


「……ん?」


「別に私の欲望も込みでの行いだけど……それはそれとして、貴方はちゃんと自分の立場を認識した上で行動するべきよ!准将なのよ!何のために上が貴方にその立場を与えたと思っているの!?それは、決して貴方が最前線に赴くためのものではないわ!」


「ん?」


「すっとぼけるんじゃないわよ!」


 そうそう。

 僕とエマ第二王女殿下の間の空気感はこれくらいなものだ───己の判断に迷っている司令部など、許されるものじゃないだろう。

 表に何て、出さない方がいいのだ。


「た、大変ですっ!」


 いつもの空気感だと。

 ぶつかり合うやり取りを僕がエマ第二王女殿下と楽しんでいたところ、いきなり執務室へと一人の伝令兵が転がり込んでくる。


「なにか───」


 そのいきなり入ってきた伝令兵の無礼に対し、少しばかりムッとしながらエマ第二王女殿下が用を尋ねようとする───そんな、彼女の声さえも遮って告げられた伝令兵の言葉。


「せ、西部戦線が突破されたのと伝令が今!?」


「は?」


「……はい?」


 それは僕とエマ第二王女殿下の頭をショートさせるには十分すぎるものだった。

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