旧法
逃げ切ることはできなかった。
司令部は僕ではなく、エマ第二王女殿下は庭。司令部に詰めかけていた兵士の手で僕は優しく捕らえられ、そのままエマ第二王女殿下からグチグチ言われながら、医者からの手当てを受けた。
エマ第二王女殿下は気づかないだろう。流石の過保護っぷりに治療へと当たっていた医者が困惑していたのを。
「……」
そして、今。
元の予定通り、僕とエマ第二王女殿下は旧ポルン王国の王族の方との顔合わせの為、王城の応接室にまでやってきていた。
「……あの」
「何かしら?」
まだ、その王族の方がお見えにならない中、エマ第二王女殿下はジットリと僕を見つめ続けていた。
椅子に座ったまま、首だけを信じられない角度まで動かし、斜め後方に立っている僕をただ見つめ続けていた。
「……エマ第二王女殿下。ポルン王国の方が」
「……わかっているわ」
こちらへと近づいてきている足音は僕も、エマ第二王女殿下も聞こえている。
エマ第二王女殿下は視線を前へとただし、座っていた態勢を整える。
ちょうどそのタイミングで部屋の扉が開き、恰幅の良い壮年の男性が入ってくる。
「いやはや、申し訳ありません」
その男性はまず頭を下げながらこちらへと近づいてくる。
「少々、忙しく……お待たせしましたか?」
「王族として国家の運営に携わる多忙さは、同じ王族の人間として理解できますから、構いませんよ。お座りください」
立ちながら謝罪の言葉を口にする旧ポルン王国の王族に対し、エマ第二王女殿下は部屋の上座に座ったまま笑みで返し、席へと座るよう告げる。
「……ハハ」
今、統治しているのはうちの軍だけどな?というエマ第二王女殿下の迂遠な皮肉に苦笑しながら、旧ポルン王国の王族は席に座る。
まだ、立場はこちらの方が上である。
「お初御目にかかります。私はエマ・ヴィルサイド。ルノア王国ヴィルサイド王朝が第二王女にして、ルノア王国軍中将であります。以後、お見知りおきを」
「これはご丁寧に。私はフォックス・ヤーキーズと申します。こちらこそ、お見知りおきを」
「では、ヤーキーズ国王陛下」
「……っ」
国王。
確かにそう呼んだエマ第二王女殿下の言葉に対し、対面に座る男は僅かに眉をあげる。
「色々とこれからについて、積もる話がございますが、まずは謝罪を。今より一時間ほど前。我々の軍に属する数人が一人の女性を襲うという本来はあってならない事件が起きてしまいました。申し訳ございません」
「……えぇ、存じております。事実確認に少々時間を要しましたが、確かとこちらの方でも確認できました」
「さしあたり、我々はその兵士たちに処罰を下すつもりです」
「えぇ、厳しい処罰をここ、ワルミールに住まう一人の人間としてお願いしたいところです」
「ルノア王国軍の軍務で裁いても良いですが、同盟国で起こした軍人の不始末は同盟国の法で裁くのが道理です。領事裁判権など、認められるものでもないでしょう」
「ここはローシャ帝国傘下の一都市、ワルミールですから。ここに尊重されるべき法など」
「ポルン王国の法律をお読みしました」
「……ポルン王国の?」
「はい。その法にそって裁くべきであると、我々は判断いたしました。これより、この国はルノア王国の同盟国。ポルン王国として再出発するのですから」
「お待ちをっ!?」
本気の声色を感じ取ったヤーキーズ国王陛下は異論の声を上げる。
「それは、……ご自身が何をおっしゃっているのか、おわかりなのですか!?」
「はい。私は本気で話しています」
「ポルン王国の法……つまりは、貴国に分割される前の法で裁くと?」
「えぇ」
「……本当に、わかっておいでですか?かつてあったポルン王国における性犯罪者への処罰内容はむち打ち百回の公開刑。決して、今。現代の時代に即したものではありません」
「……ふっ」
冷や汗を垂らし、正気かと問うヤーキーズ国王陛下に対し、エマ第二王女殿下は小さな笑みで返す。
「それくらいやってこそ、見せしめとなるでしょう?愚か者たちがむち打ちされているところを見れば、我が国の規律も締まり、同じような真似をする人間が居なくなるでしょう」
そして、エマ第二王女殿下はそのヤーキーズ国王陛下が冷や汗を垂らしながら告げるむち打ち刑を見せしめであると、断言するのだった。
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