背中
自国の兵士の蛮行を止めてきた僕はそのままエマ第二王女殿下のいる司令部へと向かっていた。
「貴方!勝手に抜け出して!ちゃんと家で待っていてって言ったのに!」
「それよりも大事なことがあるでしょう?」
「……ぁう」
まず、僕の顔を見るなり何故、監禁していたはずの家から出てきているのか。
それについて言及したエマ第二王女殿下は一番最初の僕の言葉一つで一気に勢いを失う。
「ある女性が強姦されかけていた……僕があの場に居なければ、我々の蛮行を防げなかったでしょう」
「……ッ」
僕の言葉にエマ第二王女殿下が言葉を詰まらせる。
「我々の目的は旧ポルン王国を独立させ、そのまま友好国になってもらい、自領の治安維持と統制を任せ、我々はローシャ帝国軍との戦闘へと専念できるようにすること。ここで遺恨が残り、背後から撃たれるような事態に繋がってしまうのは最悪と言えるでしょう」
「……そう、ね」
そして、エマ第二王女殿下は力なく頷く。
「私の失態だわ。私の方針が、間違えていたのかもしれないわ……」
「いや、エマ第二王女殿下のせいってわけでもないですよ」
彼女の勢いがそがれたところで僕は慰めの言葉をかける。
「僕もきっと同じような方針を取ったでしょうから」
数を増やしたからと言って無くせるような事件でもないだろう。
むしろ、少数の方がこういう事態の起こる可能性は減らせるだろう。
占領したての街。街を歩くルノア王国軍の数は少数。そんな状態で女性を強姦しに行く奴らが無謀なのだ。
「それよりも重要なのはこれからでしょう。次が起こらないようにする。それが第一と言えるでしょう」
「……えぇ、そうね」
僕の言葉にエマ第二王女殿下は頷き、その手を自身の顎にまでもっていく。
「……ねぇ、ノア」
「何でしょう?」
「貴方は旧ポルン王国の法律を読んだかしら?」
「法律、ですか?いえ、ローシャ帝国のものはある程度頭の中に入れていますが、旧ポルン王国のまでは」
「東方に来るとわかった時、ある程度は頭に入れて置こうと思って数回読んだのよ。ずいぶんと、古い法だったわ。近代国家のそれとは思えないものだったわ」
「近代を待たずしてポルン王国は我々に分割されましたから」
「……これから、旧ポルン王国の王族と面会する手筈になっているわ。問題はお相手の人が旧ポルン王国の法律を覚えているかどうかね」
「何をお考えで?」
「被害者には悪いけど、これを見せしめとして活用しようかと思って」
「二度目の凶行を防げるのであれば、良いのではないですが」
「今回の件は私の管理不足が原因よ。二度はないよう心掛けるわ」
「その言葉が聞けて安心ですね。それでは、僕は自分の商会へと向かいます。被害にあられた女性への賠償をひとまず商会の方に投げましたので。その確認をしてきます」
「……仕方ない。認めるわ」
「ふふっ、ありがとうございます」
平然とした顔で会話しているが、僕は背中に刺し傷を受けている身である。
少し布で刺し傷を押さえ、軽く止血しているだけの状態。さっさと商会に向かってちゃんとした治療をしてもらおう。死ぬようなものではないが……普通に刺されているので、泣きたくなるくらい痛い。
「それでは」
僕はエマ第二王女殿下に背中を向け、この部屋を後にしようとする。
「……ねぇ、待って頂戴」
そんな僕を、エマ第二王女殿下は止める。
「ん?」
「その背中。どうしたの?」
「……あっ」
あぁ、ちゃんと怪我で意識が朦朧としているのかもしれない。
何普通に背中をエマ第二王女殿下の方に向けているんだ。後悔を抱えながら僕はエマ第二王女殿下の方に視線を向ける。
「……」
そこには、こちらを感情のない瞳でジットリ見つめ続けているエマ第二王女殿下の姿があった。
「……逃げる」
しばしの見つめ合いの果て、僕は全力で走ってエマ第二王女殿下から逃げる。
「待てぇぇえええええええ!ってか動くなぁ!傷がァァァ!誰か、誰かノアを捕まえなさいぃ!」
その後を迷うことなくエマ第二王女殿下も追いかけてきた。
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