蛮行
「あぁ、何だ。焦った」
にらみつける僕に対し、女性の腹に腰を下ろしていた兵士が立ち上がる。
その兵士はこちらへとへらへらとした笑みを浮かべながら近づいてくる。
「ただの二等兵か。他の部隊の奴かと思ったぜ、一人か?」
「そっちこそ。一部隊丸々で強姦ですか?」
近づいてくるその男の胸につけられている階級章は伍長のもの。
他の兵士たちがつけている階級章は一等兵か、はたまた二等兵か。本当に小さな一部隊の反抗だった。
「……醜い」
地面に組み伏せられ、今も口元を押さえられている女性の服は強引に剥ぎ取られ、下着姿を露わにしている。その瞳には涙が溜まり、体は震えている。
あぁ……そう。本当に、悍ましい。
「何、ぼそっと呟いているんだ?ァア?ずいぶんと小さな体躯だな。そんなんでやっていけるのか?」
「それはこちらのセリフです。市井の者には手を出さないこと。それが上の命令だったはずです」
僕は内心の想いを一度収め、淡々と口を開く。
「おいおい!そんなの守ってられるっかよ。俺たちは命を懸けて戦い、そして勝利したんだぜ?少しくらいの褒美はあってもいいだろう?女の強姦。市街戦の花だろぉ?」
そんな、僕の怒りを嘲笑うかのように伍長の男はへらへらと笑い、軽口を叩いてくる。
「アァァァアアアアアアアアアアアッ!」
その、伍長に対して僕がなんて言葉を返すか。
悩んでいた間に、僕の後ろから叫び声が聞こえてくると共に、小さな衝撃が僕の体に走る。
「……」
後ろを振り向けば、そこには涙目の一人の、小さな少年がいた。
その手には包丁が握られており、僕の背中を突き刺していた。
「それは、気軽に扱っていいものじゃないよ」
僕よりも五歳は若いだろう。
そんな子が全力で包丁を突き立てたところで致命傷にはならない。包丁を少年の手から奪い、僕は自分の傷口を布で抑える。
「か、返せぇぇええ!?」
そんな僕へと少年は縋りつき、その手を伸ばす。
「お、お姉ちゃんに触れるなぁ!?」
その子から出てくる言葉は、あまりに重かった。
「あぁー、ほら。見なよ。所詮俺たちは侵略者。ローシャ帝国の人間に攻撃されるのが落ちだ。なら、ほら。変に好感度を稼ごうとするよりも遊んだほうがいいだろ?」
「姉を守る。その気持ちわかるよ」
涙をのみ、勇気を振り絞って動いた少年を安心させるように僕は彼の頭を撫で、優しく声をかける。
何か、世迷言を話している伍長は無視だった。
「少し、下がっていな。お姉ちゃんを助けてあげるから」
「……ほんとぉ?」
「あぁ、もちろんさ。だから、ほら……下がってて。巻き込まれるよ」
僕は少し力づくで少年を下がらせる。
敵意がないことを、その少年は幼いながらに感じ取ったのだろう。黙って、静かに下がってくれる。
「……いい子だ」
「良い子だな?ルノア王国民だったら、俺も拍手してやったのに」
「勘違いするなよ……彼の敵対心を誘ったのは僕たちが外様だからではなく、お前たちが愚かなことをしているからだ」
少年から視線を外し、伍長の方へと鋭い視線を向ける。
「……ァ?なんだ、その口の利き方と生意気な目は。たかが二等兵が。俺は伍長だぞ?おま───」
ごちゃごちゃ告げる伍長の肩を僕は懐から取り出した拳銃で迷いなく打ち抜く。
「ぬぅああああ?!」
撃たれることは流石に予想外だったのだろう。
伍長は悲鳴をあげながらこちらを睨みつけてくる。
「て、テメェッ!?誰にっ!?」
「お前こそ誰に口を利いている?」
魔法に頼らない変装。
それはちょうど、そう。僕が後ろにいる少年の年齢の頃から頻繁にやってきたことだ。僕は自分の頭部を覆っているマスクを取って、本来の顔と髪を晒す。
「……はっ」
それと共にポケットの中から本来の階級章を手に取ってつける。
「准将だ。本来は君のような伍長程度が顔を突き合わせられないような相手なのだが?」
「……ぁ、あぁぁ」
僕の姿を見た伍長は見るからに顔が青ざめていく。
膝が震え、口からは情けない悲鳴が漏れ出る。
「いつまで、彼女の体に触れているつもりだ?」
目の前の伍長が黙ったのを確認した僕は後方にいる未だ女性を組み伏せたままの男たちへと声をかける。
「「「……ッ!?」」」
僕の一言を受け、他の兵士たちも伍長のように顔面蒼白の状態で女性から大慌てで離れる。
「大丈夫ですか?」
「……ぇあ」
愚劣な者たちを黙らせられたのを確認した後、僕は地面に倒れる女性へと近づいてくる。
「私の部下が失礼いたしました。こんな安物で申し訳ありませんが……お体を」
下着姿を晒しているその女性へと僕は自分の着ていたマントをかぶせ、その姿を隠す。
そろそろ、他の者とも来るだろうから。
「賠償等はこちらの商会へ。何でも手配させましょう」
姿を隠したうえで、僕は彼女の上へと商会の名刺を乗せる。
「何事かっ!」
ちょうど、その次の瞬間だった。この家屋にまた別の部隊が突入してくる。
銃声は良く響く。僕の撃った拳銃の音に反応したのだろう。
「……う、ウィルアード准将閣下っ!?」
その彼らは部屋に突入してくるなり、まず、僕の存在に驚く。
「こいつらが市井の女性に手を出そうとした。軍務違反だ。連れていけ」
「お、お待ちをっ!」
驚き、体を硬直させていた兵士たちに向けた僕の命令を横で聞いていた伍長は動揺の中でただ声をあげる。
「黙れ。僕がもうお前と会話することはない。牢に入れておけ。女性と、そこにいる少年は彼女の弟らしい。女性の兵士も呼んで丁重に扱え。愚かな真似はするなよ?」
その声に耳を貸すこともない。
僕はただ命令を下す。
「は、ハッ!?」
「僕は中央に戻る。誰か案内しろ」
「お待ちを!?お待ちを!?」
准将である僕の前で、自軍を相手に銃でもって抵抗するほど愚かな人間もいないだろう。
ただ地面に組み伏せられて捕らえられる中、助けを乞う叫びを上げる伍長たちの絶叫に反吐が出そうになりながらも、僕は特に何も言うことなくこの場を後にした。
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