ビーフシチュー
暇で暇でしょうがない。
特にやることのない僕は結局のところ、自分の魔力量を増やす為の訓練に時間を費やす他なかった。それくらいしか出来ることはなかった。
「作ってきたわよ」
ただの作業を始めてからどれだけの時間が経っただろうか?そこそこの時間が経過した後、僕の元へとエマ第二王女殿下が戻ってくる。
その手には大きなお鍋があった。
「……ずいぶんとまぁ、普通の料理を」
彼女が持ってきたのは前に言っていた通りのビーフシチューだった。
普通の家庭料理と言った出で立ちだ。貴族として過ごしていた頃に食べていたものとも、戦場で食していたものとも似つかなかった。
「使われていなかった家屋を間借りして、普通の店で買ってきたものを作って料理をしただけだもの。そりゃ普通になるわ」
「……僕のところかい」
「えぇ、こんな時間までやっていたのが貴方のところだけだったからね。戦略物資等、色々と調達させてもらっているわ」
「わぁ」
占領時に活かすため、用意していた自分の商会が僕の首を苦しめることになるとは。監禁されるために準備させていたわけじゃないんだけどね。
こんなの想定外だ。嫌になっちゃう。
「ベッドを起こしてあげるわね」
なんてことを思っていた僕が寝かされているベッドがギィという音をたてながら動き、ゆっくりと僕の上半身が持ち上がる。
「えっ!?こんなこと出来るの……って、これあれか。普通にうちの商会の商品だ」
「えぇ、便利ね。これ。魔法を使わずともベッドを起こせる便利機能、良いわよね。私のためのものかしら?」
「監禁に走るような人間を想定して商品を開発したことはないよ」
自分で起き上がるのが難しい人。
……そういう人を思い、開発した商品だ。まぁ、僕が頭の中に浮かべていた人はこの商品を必要としていなかったけど。両腕がなくなっても、上半身は腹筋で起こせるよね。普通に考えて。
「ふふっ。さっ、食べましょ?」
「食事なら手錠を外して欲しいんだけど?」
手を天に向けた状態では食事何て出来るわけがない。
「必要ないわ。私が食べさせてあげるもの」
「えっ」
エマ第二王女殿下は鍋からこの部屋にあったお椀へとビーフシチューを注ぎ、そのままお椀を僕の方に近づけてくる。
お椀を持たない方の手には匙が握られていた。
「……ほんと?」
「ほんとっ」
エマ第二王女殿下は匙でお椀からビーフシチューを掬い、僕の口元へと運んでくる。
「はい、あーん」
満面の笑みでエマ第二王女殿下は僕へとビーフシチューを押し付け続ける。
「……」
「ほら、あーん」
「……くっ」
明らかに、今のエマ第二王女殿下はこのまま僕が無視を決め込んでも折れないだろう。
僕が食べるまで、彼女は絶対に納得しないというすごみがあった。
「ぐぬぬ」
まさか、僕がこんなところでシーアお姉さまと同じ立場になるとは思わなかった。想定外もいいところだ。
「……美味しい」
しかも、ちゃんと美味しいのが何処か悔しい。
「当然でしょう?前からこうしてあなたに振舞う日を夢見て、料理の勉強もしてきたんだもの」
「……前から?」
「……何でもないわッ!ほら!早く口を開く!」
「あついっ!?ちょっと!」
熱いビーフシチューの入った匙を唇に当てられる僕は悲鳴を上げながら口を開ける。
「どんどん食べる!食べて寝ましょう!私もそのベッドで寝るから!」
「はぃいいいいい!?」
「あぁ、それと一応。ワルミールの占領は既に完了したわ。旧ポルン王国の王城を占拠。ローシャ帝国が建てた行政館も占領。そこまで行けばもう後は流れ。お上が降伏声明を出し、終わったわ。特に激しい市街戦も起きることなく、無事にこちらの勝利よ」
「いや、それよりも気になるところが出来ているんだけど!?」
ほぼ勝ちと言ってよかったワルミールの状況よりも、今日の夜の方が気になるのだが!?
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