元帥
東西に敵を抱え、戦争開始と同時に二正面作戦が始まってしまうルノア王国が導き出した戦争計画は、ローシャ帝国による近代化の遅れから発生する動員の遅れを突き、戦力を集結させてフリース王国を早期に叩き潰すというものだった。
この戦争計画により、ルノア王国は悪夢の二正面作戦から解放され、戦争に勝利出来る───その、はずだった。
だが、その戦争計画は早々に瓦解。
ルノア王国はフリース王国を降伏させることは出来ず、二正面作戦の解消に失敗した。
ルノア王国の国防体制はその戦争計画の完遂の為にあったと言っても過言ではなく、その失敗はまさしく悪夢。その悪夢の責任を取れるのは軍の最高指揮官である元帥くらいなものであった。
「国王陛下。この度は私を元帥に命じていただき、ありがとうございます。国王陛下の期待に応えられるよう一斉努力してまいります」
「フォイル・カーランド公爵。貴殿の名は我もよく知っている。これまで王国に尽くしてきた働き、決して忘れてはおらぬ」
「恐れ多きお言葉にございます。国王陛下」
当時の元帥が戦争計画の失敗を理由に元帥の任を降りたのが今より一か月前。
その彼の後を継ぎ、元帥の地位に就いたのはニュースベック公爵家と対を為す大貴族。カーランド公爵家の現当主が弟であるフォイル・カーランドだった。
「うむ。王国の軍は今、指揮を必要としている。貴殿の決断が、戦局を左右することになるだろう」
「必ずやご期待に応えてみせます」
カーランドが元帥の地位に任じられたのは一か月も前のことだ。
戦争開始より三か月余り。ルノア王国の王都では今、戦争開始より初めて、各地に散っていた中将以上の階級にある人間を集めての御前会議が行われていた。
そんな場で、カーランド一はか月前にも行ったその着任に際しての感謝の言葉を国王陛下へと繰り返す。
「頼もしい限りだ。この厳しい大局の重役を担ってくれたこと。感謝しよう。貴殿の活躍を期待している」
「国王陛下にそう言っていただけること至極光栄にございます」
国王とカーランドのやり取りはつい一か月前にも既に行われていたものだ。
それを改めて、ここで繰り返すのは政治的な理由でしかない。
「(……ふん、時間の無駄だな)」
本来は各戦線に居るべき将軍たちの大事な時間を使い、行われる政治的なパフォーマンスをニュースベックは内心で小ばかにする。
「(面倒な縦階級なことだ。田舎者と詰られる位に縛られない民主主義とやらを掲げる新大陸の方がまだ効率的だ)」
「東部戦線においては反攻に成功したものの、西部は完全に膠着。今戦争は確実に長期化するでしょう」
そんなニュースベックを傍らに、カーランドは淡々と国王へと今一度、戦況の確認を行っていく。
「……うぅむ。長期化か。貴殿は何処まで続くと考える?冬は越さないと聞いていたが」
「一年以上は最低でも続くでしょう」
「一年か……長いな。だが、これも必要な辛抱か」
「はい。それまでに必ずや戦況を打開してみせましょう。さしあたっては、近々、西部における反攻作戦を計画しております」
「ほう。西部にて反攻作戦とな?」
「はい。我々は二正面作戦を強いられています。消耗戦を繰り返し、不利になるのは我が国の方です。ルノア王国軍の伝統は攻勢と突破。その伝統に違わぬよう、貫通力でもって西部を突破し、フリース王国に耐えられぬほどの出血を与えてみせるつもりです。その為の作戦計画ですが───」
あくまで、御前会議というのは元々軍中央部で決められていた方針を国王陛下の前で今一度、将軍たちの前で確認する為のものだ。
ここで戦略に関する議論が交わされることはなく、カーランドの言葉を遮る者などいなくて当然であった。
「カーランド元帥」
そんな中で、ニュースベックは迷うことなく立ち上がると共に口を開く。
「西部での攻勢などに意味はないでしょう。既に総力を挙げての大攻勢に失敗したばかりなのです。そこから戦力を引き抜かれた状態で攻勢などしても成功するはずがありません」
「我々はフリース王国よりも早くに戦線を立て直し、再攻勢の為の準備を整えた。機はある」
「ですが、その期間に東部ではローシャ帝国に対し、完膚なきまでの勝利を叩きだしました。ローシャ帝国の攻勢を完全に無効化すると共に、彼の国の領土であった旧ポルン王国領の大部分を占領しています。勝利したのは東部であり、結果を見れば西部よりも東部の方が勝利は近いと言えましょう」
「それは短期的に見ればの話しだろう。ローシャ帝国の領土は広い。フリース王国とは訳が違う。早期の降伏など不可能であろう」
事実、西部方面からフリース王国の首都までは百キロ程度なのに対し、東部方面では大きく前進した今であっても、首都まで五百キロを優に上回る。
カーランドの反論は的を得ていた。
「ですが、成功を収めたのは我々東部方面軍です。西部方面軍ではありません」
そんな指摘に対し、ニュースベックが行ったのは一種の論点ずらしだった。
カーランドは戦争開始より西部方面を担当している。
この、突然のニュースベックの発言はあまりにも大胆な、挑発としか思えない発言だった。
「……貴様ッ!私を侮辱しているのか!」
それに対し、カーランドが激昂するのは至極当然だった。
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