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不遇だった土魔法、実は戦争の役に立つ~土魔法使いに転生してしまった僕の、思わぬ成り上がり戦記~  作者: リヒト


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ニュースベック大将領

 ニュースベック公爵家。

 ルノア王国屈指の名家であり、長い歴史を持つその家が王都に有する屋敷も王城の次に荘厳であると言っていいような出で立ちだった。


「大丈夫か!?私、匂わないか!?」


 そんな屋敷の一角でニュースベックは自身の腕を天に向け、己のわきの匂いを嗅ぐという何とも珍妙な姿を晒していた。


「お嬢様。既に湯呑みを本日だけで二度、入っております。これ以上は何も出来ません」


 しきりに匂いばかりを気にするニュースベックに対し、そのメイドとして幼少期の頃から彼女に仕えてきた同い年の女性が冷静な言葉を返す。


「いや、だがな……ぁ!」


「匂いが気になるのであれば、香水でも付けますか?このご時世です。フリース王国のものは使えないでしょうが、我が家にはルノア王国産のものもございますよ?」


「いや……ちょっと匂いのつくものは」


「まったく。どんだけ匂いを気にしているんですか」


 もはや病的とさえ言えるその態度にメイドはため息を一つ吐く。


「いやぁ、ちょっと臭いと言われてしまって」


「お嬢様は何か熱中すると、風呂に入ることも忘れ、ずっと没頭されておられるではないですか。それが訳で匂いについて指摘されたことも一度や二度ではないでしょう?」


「いや、そうなんだが……ちょっとなぁ、今回のは特別なのだ。私好みのショタにあの反応されたのは流石に堪えたからな」


 初登場において、匂いを指摘された面白枠のアラサー女は新たにショタコンという今、最もつけてはいけないであろう属性を自分の身に付けくわえる。


「……お嬢様。どうか、犯罪行為には走らぬようっ」


 凶行は既に見慣れたもの。その上で、どうか犯罪行為だけは……と、メイドは祈りを捧げる。


「な、何をぅ!?彼は十五歳!ちゃんと成人済みだ!」


 それに対するニュースベックの返答はあまりにも無力だった。


「お嬢様。ご自身の年齢をお考え下さい。一回りよりも下でしょう?自分の半分しか生きていない少年が相手でしょう?」


「はぁんっ」


 というよりも、メイドの返答が強力過ぎた。


「それに十五歳の少年とどうやって出会うのですか?」


「戦場以外にないだろう」


「そんなわけないでしょう。お嬢様と会話できるほどの立場にいる十五歳など要る訳がないでしょう」


「お前は市井の情報を何も得ていないのか!?ウィルアード准将の名くらい聞いたことあるだろう!?」


「そ、そんな……救国の英雄様が、お嬢様の毒牙に……およよ。まさか、ありえてはくれるなと願った最悪の妄想が現実になってしまうなんてっ」


「貴様ッ!?いい加減この家から叩き出すぞ!?」


「お戯れを」


 涙目で告げるニュースベックの言葉をメイドは軽く受け流す。


「それでお嬢様。例の彼はどうなんですか?」


「優秀だな。彼の目に何が映っているのか。見えている世界は私以上だ」


「……お嬢様以上?そんなことが?」


「あるな。私よりも今戦争について理解しているように見える」


「まさか……」


「だが、問題も大きいな。彼は最前線に立ち、傷を負った。左目を失ってしまったようだ」


「……大丈夫なのですか?」


「大丈夫ではないだろうな。左目が見えなくなったことではない。もっと、根本的なところでだ。彼は何処か危うい。というよりも、優しすぎるように見える。大方、戦場に未だ心が馴染み切って……いや、追いついていないのだろう。彼は必要に従い、引き金を引ける強さを持ってしまっている。悲運なことよ。強い分、弱い。彼は脆いぞ」


 ニュースベックの人物評は正確だ。

 

「あの左目。あれは自罰だろう。人殺しの自分なんて、死んでしまえばいい。そんな思いが透けて見える」


 正確に、ノアの今を彼女は言い当てる。


「さらに不幸なのが、彼に帰りを待つ家族がいるらしいことだな。死を望む自分から目を背け続けているように見える。苦しいだろうな……吹っ切れればいいのだろうが、あぁいう手合いはそう振り切れない」


「……お嬢様」


「お前が言わんとしていることもわかる。私は戦場の先達者だ。ちゃんと導く」


「……カッコつけるのはいいですが、手を出してはいけませんからね?」


「うるさいっ!わかっておるわい!ちゃんと視姦に留める!」


「……それも最低な発言ですよ」


「えぇい!私はもう行くぞ!留守を頼んだぞ!」


「えぇ、お任せを。では、行ってらっしゃいませ、お嬢様」


「うむ!……まったく!」


 ニュースベックがこれから向かうのは様々な人の欲望と陰謀が蠢く魔宮だ。

 だというのに、彼女は一切気負うことなく、ただ東方に残してきた己好みのショタのことを考えながら、家を発つのだった。

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