炎の魔法
「ようやくか。まったく……ずいぶんとかかったものだな」
「いやいや、ニュースベック大将閣下。十分驚異的な進撃速度ですよ。一か月でここまで来たのですから」
第三軍の作戦成功を聞き、ニュースベック率いる第二軍は進撃を開始。
敵の重要地点は傭兵並びに新兵たちで包囲するだけに留め、ただ真っすぐ散発的なローシャ帝国軍の抵抗を蹴散らし、オースティン帝国がローシャ帝国と戦う戦線の近郊にまでやってきていた。
「斥候より報告」
平原に陣を構え、その陣地の最前線に立つニュースベックの元へと一人の伝令兵が近づいてくる。
「敵司令部を発見。魔法を使用している姿も見えたとのことです」
「ほう!そうか!」
その伝令兵の言葉にニュースベックは豪快な笑みで返す。
「不用心なことだなっ!新大陸ではありえなかったぞ!」
ニュースベックはその笑みを浮かべたまま、前へと進んでいく。
その背中からは、膨大な魔力が溢れ出ていた。
「まぁ、気持ちはわかるがな」
魔法は便利だ。
水魔法を使えば、安全で清潔な飲料水をコストゼロで生み出せる。火種にも悩むことがない。快適な陣地も土属性の魔法で一発で、風魔法があれば塹壕内の換気にも悩む必要がなくなる。
魔法があるだけで、戦場は様変わりする。
故に、頼る。対魔法結界を使うのを最前線だけに絞ってしまう。
「私がやろう」
それが、命取りとなる。
敵司令部まで未だ10キロ。その地点で馬にまたがるニュースベックはその姿のまま前に出てゆっくり片腕をもち上げる。
「燃え尽きよ」
片手で指を弾く。
魔力が破裂し、魔法がこの世に顕現する。
世界が、赫に染まる。
地平線の先まですべてが赤に染まる。その赤は炎であり、ニュースベックが対象としたもの全てを燃やし尽くすものであった。
「……これが、紅蓮の魔将」
ニュースベックがまず、名を挙げたのはその魔法の腕故だ。
誰よりも多い魔力。誰よりも規模の大きい魔法。名を挙げた幼少の頃を過ごした学園内にてニュースベックはこれまであった様々な記録を塗り替えた神童であった───その記録はシーア・ウィルアードの入学まで決して覆されることはなかった。
「ちっ……魔法が消された。対魔法結界に触れたな」
ニュースベックが魔法を解除した時、世界は元に戻る。
赤へと飲み干される前にあった穏やかな草原は先と変わらぬ様子で残っていた。
「数十万は消し飛んだ。我々の勝ちだ」
ただし、ここから10キロ先は別だった。
魔法とは、こうなのだ。
対魔法結界無き世界の魔法は、ただ一つでありとあらゆるものを消し去れるのだ。今時、魔法で魔法を防ごうと考えている人間もいない。
突然のニュースベックの魔法を前に生き残った人間はゼロだった。
「オースティン帝国がどれだけヘタを打っても一度にこれだけ死ねば終わりだ。司令部が丸ごと消滅しただろうからな。ローシャ帝国がやっていたガーランドでの戦いもまともに機能しないだろう……大方、オースティン帝国の敗北で趨勢が固まっているらしいが」
「我々が上手くやればいいだけの話です。残党もいるでしょう。それらと協力していきます」
「うむ。それでいい。私は第三軍と合流する。第一軍の方が心配だ。私の指揮はお前が引き継げ」
「ハッ」
ニュースベックの言葉に彼女の副官であるロロスト大佐が敬礼で答える。
「ではなっ」
ニュースベックは僅かな手勢を連れ、この戦線を離れる。
「(第一軍は……第一軍が、ヤバいっ!ノアが重症との連絡が入った。絶対に二人の不仲が原因だっ!)」
ただ一人で戦局を塗り替えたニュースベックは実に的外れな考察をしながら馬で大地を駆け抜けるのだった。
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