天井
「……知らない天井だ」
意識がゆっくりと浮上し、目を覚ました僕は見覚えのない天井を前に、まずお決まりのセリフを口にする。
「まさか、このセリフを言える時があるとは」
体に、何か異常があるとは感じない。
僕はゆっくりと上体を起こす。
「……生き残ったのか」
最後の記憶はローシャ帝国の兵士に銃を撃たれたところ。
特に何も出来ずに気を失ってしまった。この身に銃弾を何発も浴びた感覚から、あれは死んだと思ったのだが……どうやら、死にぞこったならしい。
「んっ?」
ここが何処か。
そんなことを思いながら周りを見渡した僕は何か、自分の視界に違和感を感じて首をかしげる。
「うぅん……」
そんな僕の思考は、自分のすぐ近くから聞こえてきた誰かの寝息で中断される。
「……エマ第二王女殿下」
僕が寝かされていたベッドのすぐ隣に置かれていた椅子へとエマ第二王女殿下が腰掛け、上半身をベッドの方に突っ伏して穏やかな寝息を立てていた。
「心配かけたかもな」
何となく、僕がエマ第二王女殿下へと手を伸ばした瞬間。
「きゃっ!?」
その手がエマ第二王女殿下にいきなり捕まれ、相当な力で引っ張られる。
「……うぅん?」
それから少しおいて、エマ第二王女殿下は身じろぎしてゆっくりと目を開ける。
「む、無意識……!?」
意識を浮上させてくるエマ第二王女殿下を前に僕は震える。結構な勢いで腕を引かれたんだけど……?あれは無意識での行いなの?
「……ノアッ!」
「わっ!?」
そして、完全に目を覚ましたエマ第二王女殿下は僕の顔を見るなり叫び、こちらへと抱き着いてくる。
「心配かけんじゃないわよぉ!?馬鹿ぁ!」
「ご、ごめんっ!?」
強く、抱きしめてくるエマ第二王女殿下に対し、僕は素直に謝罪の言葉を口にする。
「私が……どれだけ、心配した、とっ。貴方、一週間も眠っていたのよっ」
「……ごめん」
絞り出すような、そんなエマ第二王女殿下の言葉に対し、僕は多くを返せなかった。
一週間……そっか、一週間も僕は眠っていたのか。
ずいぶんと眠りこけてしまっていたようだ。
「……まぁ、良いわ。それで、……自分の状態を聞きたいかしら?」
「うん。聞いておかないとね」
抱き着いた状態のまま告げるエマ第二王女殿下の言葉に僕は頷く。
「……弾丸は貴方の左目を貫いたわ。見えないでしょう?左目」
「えっ?」
僕は驚きの声をあげた後、自分の左目へと手を置く。
その手の先が感じた感触は肌の感触ではなく、布の感触だった。
「……うわ、気づくのおそ」
言われてから気づいたが、僕の左目は今包帯に覆われていた。
頭も含めてグルグル巻きにされている感覚がある……言われるまでこの感覚に気づかないなんて、ガッツリ寝ぼけているな。僕。
「視界の違和感はそれかぁ……確かに死角が広いや。うぅん。あとは何か後遺症は?」
最初に感じた視界の違和感は純粋な視野角の狭さからくるものだったようだ。
「今のところはないだろう、ってのが医者の言葉よ……でも、その左目はもう光を取り戻さないだろう、って。完全に潰れちゃったわ」
「左目だけか。それなら……まぁ、耐えだな。それより、戦況はどうなっている?ニュースベック大将閣下の方は?」
死ぬかも。そう思っていたのに、左目だけなら全然いい方だろう。
当たり所が良かったようだ。
「それより!?」
そんな、僕の感想とは違うものをエマ第二王女殿下は持っていたようだった。
「貴方、左目を失ったのよ!?弾丸は貴方の左目を貫いた。視力が戻ることはない……顔にだって、貴方の綺麗な顔にだって傷がついたのよ?……それなのに、それなのに……それよりですって!?」
「ま、まぁ……別に全盲となったわけじゃないし。顔に傷がついたからって……ねぇ?僕は貴族だよ。顔が必要になってくる恋愛は概ね、政略結婚して終わりだよ」
「……ッ!その、自分を大切にしていない仕草が嫌いよ!」
「ごめんねぇ?」
「……軽々しく謝っているんじゃないわよ」
「それで?戦況は?僕が眠ってしまっていた一週間の間に何が?」
「……はぁー、第二軍と第三軍は無事に作戦の第一号を完遂。両軍と共に旧ポルン王国領への進軍を開始したとの報告を受けたわ。私たちの方もあれから大きな侵攻はない。ローシャ帝国の無線のやり取りを見るように、旧ポルン王国領への戦力移動をしているみたいだから、私たちはちゃんと目的を完遂出来たと見ていいわ」
ため息の後、エマ第二王女殿下は戦況を教えてくる。
「素晴らしいね。じゃあ、早く僕が動けるようにならないとね。第三軍が作戦通りにナーレ川へとたどり着いた時、塹壕を作らないと」
「次に、最前線に出るときは私も一緒だからね。拒否権はないわ」
「えぇっ!?」
「貴方が!自分を大切にしないなら!私が大切にしてあげるわよ!見ていてこっちがはらはらするのよ!まったく!貴方は我が国にとっても重要な人材だってことを理解しなさいよ!」
「……すみません」
確かに……あの、弾丸を食らってしまったのは僕の慢心だ。
僕が居なければ、ナーレ川まで進軍した第三軍は塹壕の構築に時間がかかり、ローシャ帝国軍の反攻を許してしまっていたかもしれない。
今回の件は、ちゃんと反省しないとな。
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