だまし討ち
視界が真っ赤に染まる。
意識が離れる。
「……ぐぁっ」
無意識下で僕は手をあげ、己の身を守る対魔法結界を解除すると共に、あまりにも遅い土壁を生成する。
その土壁が出来上がるのと、僕が地面に倒れるのはほぼ同時だった。
……。
…………。
「庇え!?庇えっ!?土壁を無視してきやがったぞ!」
「クソ……っ!?まさか魔法を使って近くに潜んでいるとは……ってか、何の魔法だよ!?」
意識が遠い、声が聞こえる。
「さっさとにげっぞ!ほら、急げッ!俺たちの英雄を殺すんじゃねぇーぞっ!?」
「まだ息はある!まだ助かるぞっ!」
「バッカ!揺らすんじゃねぇーぞ!」
体が揺れる。
意識が、離れる……意識が……。
……。
…………。
ルノア王国軍は決して無能じゃない。
遅滞戦術しか行わず、戦力補充が一切なされていない東サンドロスを守る第一軍には、長年訓練を積んだ一流の兵士たちしかいなかった。
「魔法の訓練は無駄じゃなかったなっ!」
「まったくだ!」
ノアが自身と同じような土属性の魔法の使い手を撃退するために前線を飛び出していったのを見たルノア王国の兵士たちは迷うことなく行動を開始。
何を危惧しての行いなのか。それを最初のぶつかりあいで察した彼らは何かあった時の為に対魔法結界を一部解除。
直ぐにでも魔法を使い、一瞬でノアの元へと駆けだせるよう準備していた。
『……少しずれたっ!』
「二度目は許さないぜ?」
だからこそ、ルノア王国の兵士たちはギリギリで間に合った。
風魔法でもって己の姿を隠しながら密かに近づいてきていたローシャ帝国の兵士に、ノアへの追撃を許さなかった。
炎魔法を用いて足元から炎を噴射させてジェット機のように大地を一瞬で駆け抜けた数名の兵士がノアの援護に入り、彼を自陣地にまで退却させていく。
「俺らが相手だぜ?風の魔法使いさんよぉ」
『……ルノアめっ』
援護に来たのは全部で五名。
うち、三名がノアを撤退させた。そして、残る二名の兵士がノアを撃ったローシャ帝国の兵士の前に立つ。
「その階級章……ローシャ帝国のはそんなに詳しくないが、パッと見るにそんな低い階級じゃないだろ?」
互いに銃を構える。
既に三者、対魔法結界を己の身を守るように展開している。そんな状況の中、ルノア王国の兵士の一人が迷うことなくルノア王国の言葉で、ローシャ帝国の兵士へと声をかける。
「……いいのか?俺を殺せば手柄だぞ」
しばしの沈黙の後、ローシャ帝国の兵士───大佐の階級章を付けた男が疑問の声を流暢なルノア語で告げる。
「俺たちの英雄を守るほうが先決なんだよ……なぁ、わかるだろ?大人しく引いて、今日のところは攻勢に出てこないでくれよ」
これはブラフ。
今日のところは、ではない。今、この十秒は、だ。
「ハッ、おせぇ!」
既に時間は稼いだ。
つい、数瞬前までは戦闘を辞めるよう呼びかけていたルノア王国の兵士が銃の引き金を引き、ローシャ帝国の大佐の肩を撃ち抜く。
「……ッ!?」
それに目を見開きながらも、ローシャ帝国の大佐は肩を撃たれながらも銃口は降ろさず、銃の引き金を引く。
だが、無理だ。純粋な一対二。
「……あっぶねぇな」
ローシャ帝国の大佐の放った一発がルノア王国の兵士の耳を掠めたのと同じころ、彼の体へと更に二発の弾丸が打ち込まれ、地面に倒れる。
「死ねっ」
そこへと更にもう何発か銃を撃ちこまれ、確実に息の根を止めさせられる。
「お前さんの唯一の成功作は俺たち二人に殺されることを承知の上で、風魔法を全力ぶっぱ。逃げる俺たちの英雄を殺すことだぜ?俺たちの前線では今、対魔法結界を発動していなかったから、大規模な魔法ひとつで塹壕ごと消し飛ばせたのに」
だまし討ちに成功したルノア王国の兵士の一人が唯一、自分たちがされたくなかったことを口にする。
「というか、普通に何でウィルアード准将閣下を初手に魔法で攻撃しなかったんだ?」
「いや、それならウィルアード准将閣下は無傷だったろうよ。ウィルアード准将閣下は戦闘が終わった時点で対魔法結界を発動させていた挙動があったぞ?土属性の魔法の使用にワンテンポの遅れがあったように見える」
「……マジ?そんなことわかるの?」
「あぁ、マジ。あの人、対魔法結界発動は挙動から見えないけど、解除するときは必ず右手を握っているから間違いないな。多分、近しい人にはそれを自身が対魔法結界を切った合図にしているんじゃないか?」
「……お前、あの人見すぎじゃないか?」
「ハッ!うるせぇー!」
前線と前線のど真ん中。
そこでの戦闘を終えた二人のルノア王国の兵士たちが悠々自適に歩いて自軍の塹壕への帰路へと着く。
「……ウィルアード准将閣下は、助かっているだろうか?」
「……考えさせんなよ。少しでも現実から逃げる為にこうして歩いて帰ってんだ」
「弾丸はウィルアード准将閣下の左目を撃ち抜いていた。あの位置なら、脳にまで届いていないはずだ。急いで止血をすれば……助かるはずだ」
「……うるせぇー」
二人の足取りは重かった。
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