捕虜
『おい!?何が起きていやがる!?』
『な、何で俺たちの陣地が……?』
ルノア王国の塹壕線への突撃を敢行していたローシャ帝国軍が背後より砲撃を受けた。
その光景を前に誰よりも衝撃を受けたのは、既にルノア王国の塹壕の中に入ってしまっているローシャ帝国の兵士たちだった。
自分たちの援護に来てくれる者たちが吹き飛んでいく様を、自分たちの陣地が吹き飛んでいく様を呆然と眺める。
「隙ありだぜ!」
その隙を狙い、ルノア王国の兵士たちがローシャ帝国の兵士を殺していく。
「何かわからないが、俺たちへの援護だ!まだ希望はあるぞぉ!」
ルノア王国の兵士たちの士気が上がり、希望が宙ぶらりんになってしまったローシャ帝国の兵士たちを圧倒し始める。
「撤退ッ!撤退!現在の敵を壊滅させた後、諸君らの持ち場を離れ、第三防衛線への撤退を開始せよ!」
そんな状態で、この場を取り仕切る指揮官が撤退の指令を下す。
「戦線を維持する必要はもはやなかった!大胆に下がろう!既に敵兵の補給路が切れた!俺たちの奮起は報われたのだ!」
鬼ごっこだ。
退路は塞がれた。
ならば、ローシャ帝国の兵士たちに出来るのはただ前に向かって頑張って進むことだけ───それを、嘲笑うようにルノア王国の中央部は時折反撃しながら撤退を始めるのだった。
■■■■■
「想像よりも投降が早かったな」
「そうですね」
ルノア王国の計画はほぼ完ぺきと言えるような形で終わらせることに成功した。
計画通り、エマの率いる第一軍から振り分けた兵力でもってローシャ帝国軍の右翼部と左翼部を突破。そのままルノア王国軍へと攻勢を仕掛けていたローシャ帝国軍の中央部の包囲に成功した。
ただ、それだけで戦闘は終結した。
前方と後方からの攻撃に晒されたローシャ帝国軍は早々に降伏し、戦闘が終了した。
「そのせいで想像よりも捕虜とした兵士の数が多かった。これらの兵の管理にはある程度時間がかかるだろうな」
「ですが、その代わりとして戦闘が想像よりも早く終わったので、全体の予定の変更は特にありません」
「時間は金だ。早ければ早いほどいい」
自身の副官の言葉に対し、ニュースベックは軽く言葉を返す。
「指揮官は自死。概算で死傷者七万を超え、捕虜も十万を超える。完全な勝利だな」
「そうですね。第三軍の方でもそれだけの勝利を収められていると良いんですが……」
「そこは信じるしかないな。ローシャ帝国を釣り出すことには成功したようだし、うまく行ったと信じたいが……まぁ、うまくいかなかったら当初の予定通りに西部方面からの兵を東サンドロスに振り分け、ローシャ帝国を完全に追い出せばいいだけのこと」
「えぇ、そうですね。我々は第三軍の作戦の成否が出るまで待ちですか?」
「あぁ、待ちだな。我々は第三軍の攻勢が終わるまでの間に捕虜の収容を済ませるぞ。私たちは第三軍による作戦の成功を確認でき次第、オースティン帝国への攻勢を仕掛けているローシャ帝国軍を強襲する」
「捕虜の収容を手早く終えられるよう努力してまいります」
「あぁ、任せたぞ」
自分の担当する戦線はまず、勝利した。
「……はぁー」
だが、それでもニュースベックは浮かれることなくため息を吐く。
「……それまで待ち。いやはや、中々にもどかしいものだな」
間違いなく、一番困難な戦線は少ない人員でローシャ帝国からの攻勢を受け止めなければならないエマ率いる第一軍だろう。
「あの二人が、うまくやっていけると良いのだが」
不仲そうだった二人が喧嘩もなく無事に作戦行動を終えられるか。
遠く離れた場所に立つニュースベックはまず、そんな初歩的なことを心配するのだった。
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