晩酌
新しい陣地の構築。
それは僕の魔法を使えばすぐに終わる。
土壁の生成から何重にも重なる迷路のように入り組んだ。塹壕線。機関銃を撃つためのトーチカ。落とし穴などの古典的な罠なども作り出し、二十キロにも及ぶ頑強な防衛線を僕は一日足らずで作って見せた。
土属性の魔法で作った塹壕はまるでコンクリートで補強されたかのように耐久性もバッチリだ。
「このワイン。中々味わい深いわね?」
「……そうですね」
一仕事を終えた後、僕とエマ第二王女殿下は最前線から五キロほど離れた司令部で晩酌していた。
「あっ、わかっていない顔をしたわね?貴方、今」
「正直に言って、酒のおいしさは未だに分からないですね」
僕は自分の手にあるワイングラスをクルクルと回し、その匂いを嗅ぎながら首をかしげる。
「こんなにも美味しいのに」
そんな僕を前にエマ第二王女殿下はずいぶんと豪快にワインを飲み進めていく。
「ワイン以外。ビールの方がいいかしら?」
あまり飲み進んでいない僕に対し、エマ第二王女殿下は部屋の中にあるビール樽の方へと視線を向ける。
「コップで注いできたら?」
「……いえ、ビールよりはワインの方がまだ」
ビールとかあれ、ただ苦いだけでしょ。あれのおいしさはわかる気がしない。
ワインはまだわかるんだけどな?前にスーペア王国で飲んだオレンジワインとかは美味しかった記憶がある。
「ちょっと!ビールは飲めるようにしなさいよ!ルノア王国の民はソーセージとビールで優勝するのが遥か古来からの習わしなのよ!?」
「……はぁ」
おっさんすぎる国民性だ。
絶対に野球見て、選手たち相手に愚痴っているじゃん。牽制ミスで失点するなよ!とかブチギレているに違いない。
「っぷはぁー!」
少し呆れている僕を他所にワイングラスを片手にコップを持ってビール樽からビールを注いできたエマ第二王女殿下はそれを豪快に飲み干す。
「うっまいわねぇ!」
「それは良かったです」
お酒が進めば進むほど、笑顔が増え、テンションが上がっていくエマ第二王女殿下を僕は流していく。
……なるほど。これが上司との飲み会に付き合う部下の気分か。
「貴方の方がもうちょっと飲みなさいよ。私の気まずさを吹き飛ばす為のお酒だというのに」
「本当に僕への侮蔑に関しては気にしなくていいですよ?」
「気にしなくていいなんて言うのは貴方くらいのものね……まぁ、それも、これもそれを言わせてしまうこの世界の。って、私が言えたものじゃないわね?……はぁー、私ってば普通に考えが古いのよね」
「すぐに目で見た評価を元に訂正できるのは美点だと思いますけど」
「……それも出来なくなったら終わりだと思っているからね。私は優秀な自覚があるわ」
「否定はしませんね。確かに優秀であられる」
この世界におけるタンネンベルクの戦いを立案したのは彼女だ。
それが無能であるわけない。
「でも、周りは私が女だからと認めようとしない。そんなの不公平……何よりも、国家にとって損だと思わない?私は王族。この国に住まう国民の期待に応える存在でなければならない。私も、周りも。私は己の持てる限り最大限の貢献をしなければならないし、それを周りも後押しするべきだと思わない?」
「そうならないのが人の世ですよ」
「ままならないものね。そんなままならない世界を流してくれるのがお酒よ?」
「……そっち方面に走るのは問題じゃないですか?」
「細かいことは良いのよ!貴方もどんどん飲みなさい!」
「……いえ、ここは戦場です。そんな勢いよく飲む気には」
「気にする必要もないわよ?何か起きたらアルコールなんてすぐに飛ぶし」
「……そんなものですか?」
絶対にそんなすぐには飛ばないと思うけど。
……そろそろ、ローシャ帝国
「ソワソワし過ぎよ」
「うぐっ」
内心の浮足を指摘された僕はちょっとばかり視線を逸らす。
「私たちは一番上なの。すべての現場に出てグチグチ言うのが仕事じゃないわ。下の者に任せ、どっしりと構えるのも私たちの仕事よ。私たちが右往左往していたら、準備が足りていないのかもと余計な心配を周りに与えることにもなりかねないわ」
「……はい」
まだ、戦場に立ってから僕は歴が浅い。
どうしても戦いが近づいてきていると思うと、浮足立ってしまう。どうしても、落ち着けない。
エマ第二王女殿下の落ち着きなさいという言葉に僕は頷きつつも、小さな地図を取り出して机の上に広げる。
「……結局地図は見るのね?」
「いや、補給路も作ろうかと……グーテルンから最前線にまで、トラックで物資を輸送できるような、運搬の為の地下道も作ってみようかと思って」
「……そこまでやる必要はあるかしら?」
「出来るだけのことはしたくて」
「その姿勢は評価するべきだとおも───っ」
エマ第二王女殿下の言葉の途中。
「「……ッ」」
遠くから砲弾の音が僕たちの耳へと飛び込んでくる。
それを聞いた瞬間に僕はほぼ反射的に座っていた椅子の背もたれにかけていた外套を羽織る。
「出るわよ」
それは僕の前にいるエマ第二王女殿下も同じであり、その顔にはもうアルコールの色はなかった。
「はい」
すぐさま出陣の準備を終えた僕とエマ第二王女殿下は共に司令部から出るのだった。
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