縦深防御
「お、おぉ!?なんだ!?」
いきなり聳え立った土壁を前にこれまで不思議そうにこちらを伺っていた前線の兵士たちが僕たちの元に近づいてくる。
「あぁ、名乗り遅れました。僕は今日より着任してきました。ウィルアード侯爵家のノア・ウィルアード准将です。以後、お見知りおきを」
その兵士たちへと僕は頭を下げ、着任の挨拶を口にする。
「准将……!?その若さでっ」
その挨拶を聞いた兵士はまず、驚愕する。
「って!?はっ……じゅ、准将閣下を前にとんだ失礼をっ」
そして、その次に慌てて膝をつき、頭を下げようとする。
「僕よりも何倍も人生経験を歩んでいる貴方がそんな慌てて頭を下げないでください」
それを僕は途中で止める。
「他の人たちも。そう僕に対しては頭を下げなくて大丈夫ですよ。これから同じ前線で戦う仲間ですから。そうかしこまらないで」
「い、いいんですかい?」
「もちろんです……その代わり、これからは中々に苦労してもらいますが」
「ハハ、ご冗談を。それで、この土壁は一体?」
別に冗談ではないけども。
人員が圧倒的に足りない状況での防衛戦をしようというのだ。それが無茶でなければ何が無茶になる?と言った具合だ。
「僕の魔法による効果ですね」
「……土属性の魔法ですかい!?」
「えぇ、そうですよ。土塊などと揶揄される魔法ですが、この大戦ではありとあらゆる場所で活用できますから」
「庶民の間でそんな揶揄されることはありませんよ。農業の土いじりなど、役に立つことばかりですさ。にしても、こんな規模は見たことがない……」
「神に愛されし貴族が土属性の魔法を使えばここまで行くんですよ」
「さ、流石は貴族様。これがあれば負けるわけがありませんね!脆弱なローシャ帝国の攻撃なんか怖くねぇ!」
「いえ、そう万能でも。そこまでの強度はありませんから。せいぜい砲弾を十発耐えるかどうかというところですね」
「ありゃっ?」
「とはいえ、いい邪魔にはなるでしょう。これからグーテルンまでの二十キロメートルの間に大量の土壁を作り、何重もの塹壕を掘っていきます。兵士の貴方たちには土壁の後ろではなく隙間、隙間に配置していく予定です。追って上官からの命令が来ると思いますが、そのつもりで」
「は、はいっ!」
敵の数は向こうの方が上だ。
なので、戦闘が起きる幅を狭くしてしまえばいい。100対1000ではなく、100対100を十回繰り返して勝とうという腹つもりだ。
そっちの方が時間稼ぎも出来るしね。
「ここで聞いたことは出来るだけ周りにも伝えてあげてください」
「わかりましたっ」
「では」
兵士との会話を終えた僕はエマ第二王女殿下の方に視線を向ける。
「え、えぇ……っ」
歩きだした僕の後をエマ第二王女殿下は大慌てで追いかけてくる。
「あぁ、勝手に方針決めてしまっていますが、これでいいですか?個人的には、幾つもの防衛線を引いての縦深防御に徹するのが一番だと判断したのですが」
「えぇ、それでいいわ……それより、よ。そ、その……本当に、出来るのね?」
「えぇ、出来ますよ?言っていた通りでしょう?」
「……あの、……その、ごめんなさい。貴方のことを見くびっていたわ。本当に……ごめんなさい。これまでの侮蔑の言葉を撤回させて頂戴」
「……っ。そんなわざわざ謝ることでもないですよ。その扱いにも慣れていますし」
「……ッ」
こんなあっさりと、早々謝罪されると思っていなかった僕は軽く面喰いながらもそれを受け入れる。
「……それにしても」
「……っ!?な、何かしら?」
「いや、エマ第二王女殿下のお顔が一般の兵士にまで浸透していないんですね?」
僕も、エマ第二王女殿下も階級章を身に着けておらず、パッと見はただの一般兵に見えるよう偽装して最前線を進んでいる。
最前線で敵国の兵からあそこに最高指揮官がいると見つからない為に。
だから、僕が周りの兵士から指揮官扱いされなくともおかしくはないんだけど、前からここにいるエマ第二王女殿下までそうだとは思わなかった。
「い、いやっ……私も着任してきたばかりでぇ。それに、こんな最前線まで出てくる方が珍しいからぁ」
ふと思った素朴な疑問に対し、エマ第二王女殿下はしどろもどろになりながら答える。
「ふふっ」
そんな姿がちょっとおかしくて僕は少し、笑ってしまう。
「別にそんなびくびくしなくとも。皮肉を言ったわけじゃないんだから」
「ど、どう考えても皮肉だったじゃない!?あんだけ見下してきた癖にお前は何も出来ない上、一般の兵にも知られていないのかよ!っていう!」
「えぇ……そんなつもりはなかったよ?」
「嘘だっ!?」
「嘘じゃないよ?あと、最初とキャラ違い過ぎて普通に風邪ひきそうなんだけど?」
クールそうなキャラから、お騒がせキャラにすっかり変わっちゃったよ?
ニュースベック大将閣下寄りになってしまった。
「上官を前にこんな態度を取れるわけないでしょう!?こっちの方が素よ!それと、あれが嘘じゃないは無理が……謝罪も受け取ってもらえなかったのに」
「えっ?受け入れたつもりだけど?」
「……はい?あの言葉で?受け取りを拒絶したじゃない」
「そんなことしていないけど……?」
「えっ……?」
ローシャ帝国と相対する最前線。
そこで僕とエマ第二王女殿下は互いに顔を見合わせ、首をかしげるのだった。
ご覧いただきありがとうございました。
ここより少しスクロールして広告の下にある『☆☆☆☆☆』から評価することが可能です。
ブクマ登録、いいねも合わせて評価していただけると幸いです。
また、感想は作品を作る上での大きなモチベとなります。
感想の方もお待ちしておりますので、気軽にお願いします。




