無茶筋
「無茶筋です」
僕の語る作戦に対し、まず真っ先に反対したのはエマ第二王女殿下だった。
「この地域は今でこそローシャ帝国の領地となっていますが、かつては大国の一角だったポルン王国の領土です。元ポルン王国の王都含め、各種重要地点が多数あります。それをすべて占領するなんて不可能です」
彼女はごく自然な、当たり前の論理で反対の弁を述べる。
「そんなの後回しでいいでしょう」
だけど、僕はその反対の弁を一蹴する。
僕の頭の中にあるのは浸透戦術擬き。あまりにも広範囲過ぎる浸透戦術っぽい何かだった。
「……は?」
「大事なのはオースティン帝国を助けることです。カオスでも別にいいのですよ。旧時代の遺物であるローシャ帝国を震えさせる。それが大事なのです。オースティン帝国を攻めている部隊に対し、包囲する構えを見せる。包囲される。そんな危機感を抱かせ、撤退させることこそ目的です」
広範囲の一挙大量占領なんて出来るわけがない。
だけど、重要拠点の攻略を避けた上でただひたすらに進軍し、オースティン帝国と戦うローシャ帝国の背後を強襲するくらいは出来るだろう。
それが出来れば勝ちだ。それが出来れば、オースティン帝国の担当する戦線は半分の短さになり、兵をその短い戦線に集中運用出来れば、いくら彼の国でも守り切れるはずだ。
「……つまり何だ?重要拠点の攻略はせず、ただ前に突き進むだけだと?」
「はい。傭兵でも使いましょう。傭兵に包囲させ、そのまま一週間くらい適当に放置ですね。その間にオースティン帝国の救援を完了しましょう」
「……行けるのか?」
「行けるわけがありませんっ」
「そうですか?悪くない賭けだと思っていますが。東方方面軍は元ポルン王国の人間に接触して独立工作の一つや二つくらいしているのでは?」
「……そう、ではあるが、それを期待されるのは困るぞ?」
「ご心配なく。戦争開始前から僕の商会が既に裏で独立運動を展開していたので、それと連携すればいいでしょう。最低限の仕事はこなしてくれるはずです」
「……はい?」
地図を見ていた時からわかっていた。
いずれ、この世界で第一次世界大戦に類するものが始まると。僕は商会経由でポルン王国の独立工作を裏から進めていた。それが花開くとき。
まぁ、ぶっちゃけ雀の涙くらいの力しかないだろうけど、それでもこの地域に渾沌を引き起こせればいいのだ。
「統治は後でやればいいのですよ。ただ、我々は前に進み、ローシャ帝国軍を旧ポルン王国領から減らす。これだけを目指しましょう」
「……それはわかった。では、西部方面で戦っていた君の見解を聞きたい。ここに塹壕戦を引くと仮定して、そうもずっと守り続けられるものなのか?」
「守れますね。塹壕を突破する大変さは僕が一番知っています。ローシャ帝国に突破なんて出来るわけがないですね。新しい塹壕線の内側でゆっくりと旧ポルン王国領の制圧していけばいいのです」
「……ふぅむ。なるほど」
「僕は西部戦線の英雄ですよ?これくらい大がかりなことをするつもりで出来る限りの西部戦線から兵力を引き抜いてきました。我々の反攻作戦を行うに当たり、西部方面軍が東サンドロスにたどり着くまでには時間的なラグがあるでしょう。ですが、この地域ならば配備が間に合います」
勿体ない。
僕が前世でタンネンベルクの戦いを見て思った第一印象がそれだった。
せっかく西部方面軍を引き抜いたのに、東部方面軍でタンネンベルクの戦いを完遂させ、大きな役割が与えられなかった。
もしも、この移動がなければ西部方面での大決戦であるマルヌの会戦に負けず、ドイツは西部で勝利出来ていたかもしれないのに。
この世界でもルノア王国はそのチャンスを捨て、兵を東部に振り分けることを上が決定した。ならば、それを勝利に直結させなければ損だ。
「西部は我々の敗北です。早期に決着をつけられませんでした。でしたら、今度はこちらで早期の解決を目指すべきでしょう」
勝算は十分にあり、賭ける価値がある。
「……確かに、ありかもしれないな」
それにニュースベック大将閣下は理解を示し始める。
「正気ですか!?」
だけど、エマ第二王女殿下は全然頷いてくれなかった。
「まずもって!東サンドロスを守れません!我々は今、攻められているという認識が抜け落ちています!第一軍と相対する部隊から兵を引き抜くのです!援軍もなしに兵の大部分を引き抜いた部隊が第一軍の攻勢からずっと身を守ることは不可能です!」
「そちらの援軍には僕が行きます」
「……はぁ?」
「それを望み、わざわざ西部から東部へと僕を呼び寄せたのでしょう?ニュースベック大将閣下」
彼女たちの前で東部方面のことは詳しくないなど謙遜したが、普通に考えてそんなの嘘だ。
ちゃんと移動中に東部の戦況は頭に入れ、ニュースベック大将閣下についても調べていた。新大陸での戦争において、土属性の魔法使いを自身の部隊に入れていた過去を持つ彼女の意図くらいある程度察せられていた。
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