激励
「ノアの商会……いつの間にかこんな大きくなっていたのね」
「まぁね」
王都の一等地に構えられた商会の建物内部で僕は胸を張る。
昔からちょっとずつ大きくしていった商会は今では立派な大商会となっていた。
「ノア様の発想力があってこそですよ」
僕とシーアお姉さまがゆっくりしていた商会の客室へと店番から副商会長まで出世したローレンが入ってくる。
「いや、僕の発想力なんて大したことないよ」
「いやいや、ノア様の発想力があってこそ、我々は銃の生産が軌道に乗ったのですよ。貴方の発想力が花開くところを、ノア様も見てきたでしょう?」
「……まぁねぇ」
僕の銃に関する知識はそう多くない。
ふんわりとした、確かこんなのがあったなぁー、っていう程度の知識を僕は伝えただけ。
でも、その小さな発想をゼロから持ってくるというのはやはり大きいらしい。僕の雑な発想から着想を得た商会の優秀な職人たちが上手く現代の銃を改修し、質のいいものを作ってくれるようになった。
「そういえば、あれはどうなっている?」
「既に生産を開始しています」
「素晴らしいね。でも、改良も止めずにね」
「もちろんにございます」
僕の言葉に対し、ローレンは力強く頷いてくれる。
「何の話かしら?」
その横からシーアお姉さまが疑問の言葉を投げかけてくる。
「んー、切り札だよ」
「……切り札?ノアの商会は確か鉄鋼を買いあさっているわよね?その鉄鋼の多くは未だ、何処に流れているのか確かわかっていなかったはずだから……」
「ちょちょい!詮索やめてよ!」
「良いじゃない!私はノアの姉よ?すべてを知る権利がある!何よ!戦艦でも作っているの?」
「いや、流石にそんなデカいのは一商会じゃ無理だよ」
潜水艦は作っているけど。
とはいえ、この世界にイギリスはない。北欧が全部一緒になったような国である北海帝国があるくらい。でも、その北海帝国は未だ中立だ。
海戦をやるような敵国もいないし、無制限潜水艦作戦をやることもないだろう。
「……まぁ、寄り道はこの辺りにしておこう。拳銃は?」
「こちらに」
「ありがとう。西部戦線に行ったとき、無くしちゃったからね。助かるよ」
僕はローレンから拳銃を一つ受け取り、着ていた軍服の内ポケットへと仕舞う。
「……よし。そろそろ東方に向かう。これ以上の寄り道をしている時間はない」
既に東方戦線の方ではローシャ帝国の攻撃が始まっているのだから。ゆっくりしていられる時間はそう、多くなかった。
「私もついていくわ!」
「……シーアお姉さま」
ゆっくり立ち上がった僕の横でシーアお姉さまも一緒に立ちあがる。
「そういうわけにもいかないよ」
「で、でも……!ノアだけを戦場へと行かせるわけにもっ!」
「……その、腕では銃の一丁ももてやしない。無理だよ」
「何か、何か出来ることのひとつやふたつくらい!足手まといにはならないわ!なりそうなら、見捨てて頂戴!それなら!」
「……馬鹿、言わないで。僕がシーアお姉さまを見殺しにするとでも?」
「すればいいじゃない……!私だって、ノアに守られるほど弱くはないわ!」
「お願い……僕に、シーアお姉さまを守らせて。やっと、出来るようになったら恩返しなんだよ。僕だって、シーアお姉さまを守ってあげたいんだ」
「……な、何よ、何よ。そんなの、ズルいじゃない。それを言われたら……私は、もう何もッ!」
シーアお姉さまは力なく再び椅子へと腰掛ける。
「……嫌なのっ。一人になりたくない……貴方と一緒に居たい」
「僕だって……シーアお姉さまと一緒に居たいよ」
その姿のまま、弱々しく、言葉をぽつりぽつりとこぼすシーアお姉さまをそっと抱きしめる。
「……このまま、一緒に逃げないかしら?新大陸にまで、逃げちゃうってのは?」
「それは、いい提案だね」
「……それだけ?」
「……」
シーアお姉さまの言葉に対し、僕は沈黙で答える。
あまりにも現実的じゃない。
今、僕がすべてを無視して逃げられるわけがない。そんな船があるわけないのだ。
「行ってくるよ、シーアお姉さま……笑顔で、見送って欲しいな」
「……必ず、帰って来て」
「……約束するよ」
僕はシーアお姉さまからそっと離れる。
「……いってらしゃい。武運を、祈っているわ」
目じりには、少しの後があった。
それでも、シーアお姉さまは笑顔を浮かべ、僕へと激励の言葉をかけてくれる。
「うん。行ってくる」
その言葉に、僕も笑顔で返すのだった。
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