夜
銃声は、鳴らない。
静まり返った戦場。
硝煙も、怒号もない───暗闇だ。戦場にあるはずのない空白が、暗闇が僕の視界を包む。
「……何処?」
歩きだそうとして、ようやく気付いた。僕の足元に何かがあると。
「……ッ」
息が詰まる。
僕の足元にあったもの。それは倒れている人たちだ。血に濡れた、男たち。
その上に立つ僕の手には銃が握られていた。
「……おまえ、は」
引き金にかかった指が、やけに重い。
足元に、あの男がいる。
顔を撃ち抜いた兵士だ。初めて、殺した男。
血に濡れた顔のまま、こちらを見上げている。
だが、その目には憎しみがない。 ただ、困惑している。
「どうして」
口が動く。
声は、はっきりと聞こえた。
「どうして、殺した」
僕は答えられない。
戦争だから、敵だから、殺されなければこちらが殺されるから。言葉を尽くし、言い訳しようと思えばいくらでも出来る。だけど、僕の口から何も出てこない。
代わりに、別の声がする。
後ろから。
「死ねっ」
振り返る。
そこにいるのは、僕だ。
血に濡れた軍服。
既に撃たれた跡のある腹とそこから出る血が重いのだろう。霞んだ目に、今にも倒れそうな体。それを、執念で起こしている僕の姿があった。
「……ぅぁ」
その僕が、倒れている兵士に向かって銃を撃つ。
一発。
二発。
三発。
何度も。
弾丸は止まらない。
「……辞めて」
声が、漏れでる。でも、そんな小さな言葉では何も変わらない。
撃っているのは、自分だ。
止められるはずがない。
倒れている兵士が、こちらを見る。
「まだ、死にたくなかった」
その言葉で、胸の奥が締め付けられる。
兵士の顔が、次々と別の顔に変わる。
名も知らない若者。
震えていた新兵。
階級章をつけた男。
代わり代わり、僕が見た者たちの顔が浮かんでくる。
「お前がやった」
静かな声だった。
「勝つ為か?」
違う。
「家族の為か?」
違う。
違う違う違う違う違う───足元の血が、じわりと広がる。
それが、靴にまで染み込む。
ぬるい。
離れない。
いくら、地面を踏みしめても、振り払えない。僕の口からは何も出てこない。周りから聞こえてくる己を責める声をただ、聞く。
「……違う」
ようやく声が出る。
「僕は」
何だ。
指揮官か。侵略者か。殺人者か。英雄か。
答えが出る前に、銃声が響く。
今度は、僕の胸を撃ち抜く音だった。
……。
…………。
「……ッ」
声も、息も押し殺した。
僕は震える手で己の胸に手を置く。そこに知ったるドロリとした感覚はない。目を開け、前を見ればそこには僕が寝る前に見た天井がある。
王都の宿屋の天井だ。
「……はぁ」
体を起こし、隣のベッドでシーアお姉さまが寝息を立てて眠っていることを確認した僕は自分のベッドから這い出る。
「……ぉえっ」
吐き気。
その、慣れてしまった感覚が込み上げてきた僕はトイレへと向かう。
「……ぉええええええええ」
あまり、音は立てないように。
トイレで僕は今日食べた胃の中のものを吐いてしまう。
「内臓は、問題ないはずなんだけどな」
僕の体を治療した外科医が誤診したのかな?最近の僕は食べたものを、吐いてばかりだった。
……はぁ、誤診なんかじゃないんだろうな。あの人はとても腕のいい人だったから。問題なのは僕の方だ。きっと……。
「……はぁ」
すべて吐き切ってしまった僕は元のベッドへと戻る。
「……ほんと、眠れないな」
目を閉じる。
でも、眠れない。戦場に行ってから、あまり熟睡出来た記憶がない。
「諦めるか……死ぬわけにも、いかないし。今日もまた」
僕は寝るのを諦め、ベッドの上で座禅を組む。
体内の魔力を活性化させ、それを一気に体内で回していく。僕の視界の中で自分の体から漏れ出してきた魔力が淡く光り輝く。
魔力を増やすのはそう、難しいことじゃない。本当にただ体内で回しているだけで魔力が増える。僕はずっと体内で魔力を回し続け、魔力を増やしていた。
更に、それとは別でこうして座禅を組み、ただひたすら魔力を体内で回す時間も作っていた。
魔力をただぶん回している方が魔力の上昇は大きい。
「……」
座禅を組み、次の戦場の為に魔力を鍛える。
こうして僕の夜は過ぎていった。
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