デート
戦時下にある国の王都。
「まだ、活気あるな」
だというのにまだ、ルノア王国の王都には活気が残っていた。
「安いよ、安いよ!ジャガイモ売っているよ!どうだい!」
「おーい!そこの女の子を連れてお兄ちゃん!プレゼントを買っていかないかい!」
「焼きたて美味しい牛肉の串焼きは如何~」
商売活動が行われ、大通りには数多くの露店が並んでいた。
「おじちゃん。串焼き一本」
「あいよ!」
肉だって買うことが出来てしまう。
僕は串焼きを売っていたおじちゃんからお肉を貰い、それを隣を歩くシーアお姉さまの方に向ける。
「あら?最初のひとくちを貰ってしまっていいのかしら?」
「どーぞ」
「ふふっ!いい心がけねっ!姉を思いやる。弟としての仕草よ!」
シーアお姉さまは僕の方へと顔を伸ばし、口だけで串焼きを頬張る。
「どう?美味しい?」
「うん!上手い」
「それは良かった」
満足そうに頷くシーアお姉さまに笑みを向けた後、僕も串焼きを頬ばる。
「……うん。美味しい」
戦場でまともな食事なんて期待できないからね。
ちゃんと美味しいと思えるものを口に出来るのは内地にいる時だけだ。司令部とかでも前線なら出てくる食事はお察しだからね。
ルノア王国の軍用レーションはちゃんと不味いのだ。
「それで?これから何処に行くのかしら?」
「うーん。決めていない。何処かいいところない?」
「むっ……いいところぉ?難しいこと聞くわねっ」
「うーん。王都を観光しよう、って言ったのは僕だけど、実際に何かしようとなると困るね」
別に物珍しくはない都市だ。
海外から来る観光客でにぎわう東京に住んでおきながら、観光を楽しめたりはしないあれと同じ感覚だ。
「探せばあるはずだけど」
「別に楽しめるでしょうけど、今更感の拭えない場所になるわね」
何処に行くか迷いながら道を進んでいた中で、僕たちの耳に楽器の音が飛び込んでくる。
「……吟遊詩人」
音が聞こえた方に視線を向けてみれば、そこでは一人の男が手にあるギターを奏でていた。
「さぁ、今日語るは西部の英雄。ただ一人で戦場の不利を覆し、前線を推し進めし英雄。ノア・ウィルアードについて語るとしよう」
「ちょっと!貴方について歌っているじゃない?聞いていきましょうよ」
彼の口から出てきた初めの口上に惹かれ、シーアお姉さまが吟遊詩人の方へと向かおうとする。
「えいっ」
その後ろから僕は背伸びをしてまずシーアお姉さまの耳を塞ぐ。
「行くよ」
「~~ッ」
手で塞いでいた耳に僅かな隙間を開け、シーアお姉さまのすぐ耳元で別のところに行こうと声をかけ、強引に彼女の行先を変えさせる。
「この辺りならいいでしょう」
吟遊詩人の声が聞こえなくなるところにまで移動した後、ようやく僕は塞いでいたシーアお姉さまの耳を解放する。
「ちょっと!聞かせてくれてもいいじゃない。気になっていたんだけど?」
「嫌だよ、恥ずかしいもの」
「むー、何よぉ~。恥ずかしがることないじゃない。お姉ちゃんは弟の活躍を知りたいものなのよ?」
「それでも、だよ!」
吟遊詩人の話を聞かせるのは不味い。
ドラマチックにする為、僕が体を犠牲にした話とか死ぬほど盛り込んでいるから。誰よりも前に立って腹に弾丸を受けた、とか。止血の為に傷を炎で焼いた、とか。ショッキングな内容も吟じさせている。
こんな情報をシーアお姉さまに聞かせるわけにはいかない……今のシーアお姉さまは回復しているように見えているけど、本当にただ見えているだけなのだから。
「……」
「んっ?何?ジッと私の顔を見て」
「……いや、何でも」
ウィルアード侯爵家の屋敷に居た頃、僕が隣にいた時のシーアお姉さまは何時もの調子だった。
だけど、僕がお風呂だったりで彼女の隣を離れていた時、使用人たち曰くシーアお姉さまは元の危険な状態に戻ってしまっていたらしい。
良くは、なっていないのだ。
「別のことしよ。変に観光、ってのに囚われるの良くないよ。前みたいな休日のひと時を今、楽しむので十分でしょ。今日はまださっき買った串焼きしか食べてないし、一旦は飯屋に寄って、その後買い物でもしようよ」
「私は吟遊詩人の元に戻りたいのだけど……まぁ、仕方ないわね。それでいいわよ?」
「ありがと。それじゃあ、行こうか」
僕は精神科医じゃない。
今のシーアお姉さまに対し、何をしてあげられるのか……何もわからない。
でも、ただ。シーアお姉さまの隣に居たい僕は出来るだけ多くの時間を彼女と過ごせるように努めていった。
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